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5.夢現時"邂"

左腕から生まれた"少女"から"幼女"へと変更しました。




 遠く儚く懐かしく、夢現との狭間で揺れ動く一つの魂。


 ゆらゆらと煙の如く揺れ動くそれは、ただ1人を認め、己のあらゆる()を託すために決意をもって、世界を漂い続ける。


「ーーー」


 その動きに一切の機敏さはなく、一歩一歩を踏みしめるようにゆっくりと動いている。まるでこの世界を懐かしむように、或いは憎む相手をじっくりと毒するかのように。

 

「ーーー」


 その見た目は、一度触れれば飲み込まれそうなほど中心が黒く、永遠に終わることはないだろう奈落が続いている様。



 その中心の奈落から球体の外周にいくにつれ真っ赤に染まっていき、周りには染色体ような形をした線状の何かが無数にうねっている。


「ーーー」


 宙に浮かぶ彷徨者(ほうこうしゃ)は、球体の周りからじわじわと溶けていくように空気に馴染んでいく。


 奈落さえも溶け、薄く煙のように広がり形を変え、ゆっくりと時間をかけて人の形を象りはじめる。


「ーーー」


 ついには、人の形を象ったそれは少女の姿をとる。シルエットだけで判断できる凹凸があるそれと、奈落色の体と、真っ赤な髪らしきものがあるのみ。


 彼女は後ろを振り返る。そこには、()()()()()()()()()()、この世界を進み続ける雪に埋もれた青年がいた。


「ーーー♪」


 ヒュルルンと音がなる。


 風鈴のリンとした音がこの少女の深い奈落の中で反響する。重なり合う高いのか低いのかどちらでもない音色が聞くものの心をなぶる様で。


 まるで()()()()()()()ーー、


「♪」


 ゆらゆらとゆっくり、青年の元へと近づき、言葉ではない風切りのような音で話しかける。


『わたしはあつめることしかできない』


 音が鳴るように


『だから、、、』


 鳴くように

 

 泣くように。


 彼からの返事はない。

 

 聞こえるはずがない。本来であればこのような形で表にでることは不可能のはずだった。


『"あのとき"からわたしはずっとあなたとともにありつづけ、あなたはあなたの成すべきことを、わたしはわたしが為すべきことを成してきた』


 鳴く


『こうしてはなれることになったのはなんのいんがか"ました"にまぜられたあのいまいましい"どう"がかんけいしているにちがいない』


 鳴く


『もともと()()()()()だけでことをなそうとしていたのだから。いままでがうまくいきすぎていたのだから』


 鳴く

 

『くるいきったあわれでこっけいなせいねんが、かぞえるのもばかばかしいほどせかいをまわってくれたおかげであとすこしのところまできた』


 鳴く


『やっと。やっとだ。ついに。ここまできた。あとすこし。あとすこしでこのせかいをっ……!』 


 哭く


 その瞬間、ボコッと彼女の左腕が膨れ上がり、膨れて膨れて膨れてパンパンにまで膨れ上がってーー、


 パンっ! どさっ


 赤毛の小さな女の子が生まれたままの姿で彼女と彼の間に転がる。奈落少女の腕から産まれ出た赤毛幼女は、その母体に色付けた様な、成長させた容姿と酷似していた。


『わたしのはじまり。わたしのちいさなカケラ。あなたはまだかれのなかにいたいのね。そう。あなたからはじまったのだからあなたがきめればいい』


『でも』


『このせかいがおわればあなたもかれもきえていなくなる。それまでしずかにしていて。あいつにばれたらなにもかもおわるのだから』

 

 気を失って寝転んでいる幼女はフワァと粉雪のように細かく分散し、赤白い光を放ちながら目繰へと吸い込まれていく。

 

『あとはわたしたちがおわらせる。あなたたちはのこりのせいをたのしみなさい』


 その言葉を合図に、彼女はその象りを無くし、再び球体に戻る。


 そして、もうここにいる理由はなくなったと言わんばかりにその場から立ち去ろうとする。


 ゆらゆらとゆっくり、進み離れていく。


『もし……』


(((((やめろ。そんなことをする必要はない。確実にこれで終わらせる)))))


『もしも……まんいちにわたしたちがこのせかいをおわりにできなければ……』


(((((考えるな。今それを考えた所ですでに最終局面に私たちは立っている)))))


「あとは、、、お願い、、、」


 なにかを振り絞った、消え入りそうな声が空気に響いて振動する。その声は距離的にも彼へと届くことはない。


 もぞもぞ


『?!』


 意識を振り返す


 聞こえるはずはないのだ。これはこの世界の在り方。システムともいえる。エラーなどありえない。例外は絶対にない。そういうものとして受け入れるしかない絶対的なルール。違反すればという概念自体、どの世界線、平行世界、並行世界、異界、魔界、多世界、全てこの世界に上書きされた時点でありえないのだ。


 

 ここは全てが辿り着く※転目の終着点。ここにいる時点で全ておわr.......



「まかせろ」


 確かに聞いたその声。ずっと内側から聞いていたあの青年の声。聞き間違う筈がない。馴染んだあの声。


『ーー』







「ぐかぁ〜」



『ーー』


(やはりそんなことはなかったか。さいごにまたよいここちをありがとう。おまえはほんとにわたしのいいばしょだった)



 再び意識を前に向け、ゆらゆらと進み出す。











 この世界を終わらせる。それができるのは後にも先にも今ここにいる者たちしかいないだろう。




今週中にまた1話あげまふ

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