34.不気味な気配
お待たせしました。
俺はいかなる事態にも冷静に対処してきた。感情の起伏には慣れてないのもあるが、結局は元々そういう性格だったのだろう。自分の中にあるスイッチをオンにすれば、切り替えができる。だから今回もクールに、だ。
「わかった。やろう」
「……え?いいんですか?」
「ああ、やろう」
なんで驚いてんだ?いきなり意味のわからんことを言ったの、お前だよな?
「いや、許可されると思わなくて……。小さい頃から戦う世界に憧れはあったんですが、この身長と体格のせいかそういうのに恵まれず……」
「それで流れ着いた先ってのが"それ"ってことだな」
「はい、アイドルです。貯めたお金で魔物の討伐を付き添いで行かせてもらいました。その魔物がたまたま希少型のさらに希少型だったみたいで、最後に攻撃を加えていたものに全ての経験値が与えられました」
ははぁん。段々と松田のことが分かってきたぞ。こいつは元々こっち側の世界に憧れは持ってたがその身長と体格のせいで無理だと判断したんだな。だがそれでも諦めきれずに邪道な方法でレベル上げをしたと。その時の魔物がたまたまレアだったおかげで全ての経験値がこいつにいったと。
松田に興味を持ち始めた俺だが、時計をさっとみると"納品"まで残りわずかになっていた。そろそろだな。
「よし、話はここまでだ。手短に言うぞ。俺は見たものしか信用しない。分かるな?」
「それはつまりーー、」
「お前が示せ。見ろ。見て学べ。以上だ」
こいつを見捨てようとした時点でお前がいうなという感じだろうが、俺も成長したな。最初の頃はこうして他人に対し、意思疎通がバシバシと取れると思っていなかったからな。
「あの、クロ先輩、まだ店の中にお客様いますけど大丈夫なんですか?」
ん?ああ。
「みーーーせーーー」
俺がそう言った途端、中にいた客らは血相を変え外へ急いで駆けていく。
「やばいぞ!逃げろ!」 「予定表には今日ってなかったじゃん!」 「ひっく。なんだぁ?」「おいじーさん、いくぞ!ほらおぶってやるからとりあえず外にでるぞ!」「えーー!ペーパーないと拭けないんですけどー」
「いくわよ!最悪服で拭けばいいわよ!」「その服くれません?」「「きもい!しね!」」
「じーーーまーーー」
老若男女が一つしかない出入り口へと駆け込む様子をみて松田は呆気に取られている。いやそれもあるが、もう一つはあれだな。先程まで女性客が手に取っていたであろうトイレットペーパー。コンビニである以上、日用品全般も揃えている。まさに便利屋だな。その日用品の一つであるこの商品が浮いている。
「え、え、」
元の場所に戻されずに適当に放り投げられたそのペーパーは空中でフワフワと浮かび、徐々に棚へと戻っていく。というか客が出て行く際に色々とぶつかりながら出て行ったせいでそこら中、色んな商品が散乱しまくっている。しまい目にはわざと投げているやつもいる。あいつ顔覚えたからな。
「い」
パンッ
『声紋認証システム起動……クロ様より"閉店"の申請がありました…………理由を問います』
「掃討戦だ」
『しばらくお待ち下さい…………エラー。掃討戦は1週間後のはずです。再度、理由を問います』
ってことは、店長からしても今日の"納品"はイレギュラーだったってことか?何にしてもここで時間を食ってるわけにはいかない。
「ギー子、店長からしても今回の掃討戦は予想外なものらしい。至急防衛システムを起動させろ」
『できません。こちらから天様へ確認してから、防衛システムを起動します。"納品"予測時間を逆算しても間に合います』
いらっ
「店長から代理で権限もらってんだよ俺は。後々痛い目見るのはお前だぞ、ギー子。前の事を根に持ってんのかしらねぇが、"納品"時間が変更されることなんてざらなんだ。しかも今回は新人引き連れての掃討戦なんだ。早くしろ」
『しかし』
「不気味」
『ぅうぎぃっ』
「店長も店長だ。なんでこいつをちゃんと躾けてねぇんだ」
あぁいらいらする。俺の中でなにかが騒いでる気がする。だが、それよりも掃討戦だっつってんだろうが。そう思いながら俺は、力を解除する。
『………わかりました。直ちに"閉店"します。並びに防衛システムを起動します……』
「よろしい」
うんうん。素直が一番だな。どっちが上かなんて分かりきってるんだ。さて、防衛システムは起動したのはいいが、あとは松田だな。
「松田よ」
「……」
「おい松田よ」
「……っは!!はっ…はいっ!」
「なんで敬礼してんだよ」
不気味が効いてんだろうなぁ。
「クロ先輩まじパねぇっす!なんですかあのオーラみたいなやつ。死の味がしました」
「それよりも松田、店の入り口付近で踊れるんだな?引きつけもできるんだな?」
「できますっ!ただ、水とタオルとステージがあればより効果はでます」
ほう、なるほど。もうこいつはアイドルと認識した上でプロデュースしたらいいということか。面白いな。
「わかった。用意しよう」
「え?でもどうやって……」
「ダンスステージよ、"在った"。 水とタオルよ、"在った"」
中枢都市の隅に構えるこの店。そこまで大きくはないのだが。敷地が馬鹿でかい。道が入り組みすぎている都市アギュラ。そのそぐわない広々とした景色の中にステージが"在った"。
それと同時にーー、
ガチャリ カチャリ ガチャリ カチャリ
金属が擦れ合う音が聞こえてくる。だんだんそれが近づいてくる度、その音が大きくなる。漠然としたその音がクリアになってくる。重なり合う音、それと土を踏む音。
「松田、下に降りてステージに立て。何があってもステージから降りるな」
ぱくぱくと口を動かす松田。色々と刺激が強すぎたか?
「アイドル、なんだろ?」
その一言で我に返った松田は、この状況と雰囲気、ひしひしと伝わる緊張感を悟り覚悟を決めた顔でステージへと向かう。
「なにがあろうと僕は絶対に踊りきって見せます」
その言葉を聞いた俺は本当にアイドルをプロデュースしている気持ちになってしまい、ふと笑いが溢れる。見せてもらうぞ、お前のステージを。
「さぁ、来るぞ。中枢都市アギュラの雑魚どもが。掃討戦の開始だ」
死の味という表現は、そのまま死を味わってます。




