28.不海
巨大生物ワクワク
備えろ、とは?
「むりだろこれ」
不成人が一斉に襲いかかってくる事態は免れたものの、次は海となってゆっくり迫られるとは思わなかった。二人は中心部に戻りつつ、少しずつ迫ってくる海を見ながら考える。
一旦落ち着くため、ゆっくりと呼吸する。死ぬことを頭に置きつつ、改めてこの状況を踏まえて考える。最初に切り出したのはアカメだった。
「そもそも、この海が中心まで来たら私たちは確実に飲まれるわけだけど。飲まれたらどうなるのかしら?」
太陽から発せられる光が合わさりまるで海の中にいる様で、"海"と表現しているが、これはただの不成人の集まりだ。それに飲み込まれればどうなるのかなど分かるはずもなく。
「うーん、正直わからん。ただ、"備えろ"って言う言葉が引っかかってるんだよなぁ」
「それは、私も同意見ね。"備えろ"ってことはなにかしら私たちでできることがあるという解釈に繋がる。そして、それはきっとーー、」
「「何もできない俺(私)たちができることだ(よ)」」
目繰は不の力を使えない。長時間休めば話は別になるのだが、迫り来る海のせいでそんな余裕はない。メグリは、、、返答はずっとない。コガメは取り込んだ不を制御するので精一杯なのだ。一方アカメは、第六世界の管理者 ニアから逃れるために回復した不を全て放出したため、ただの非力な少女同然であった。
「パパもシスターもきっと、この中にいるのよね……っ!」
ふと思ったことを口にしたアカメだったか、あることに気づく。
「そうよ!あなた、この星の不成人全てを取り込んだのよね!だったらそれを呼びせたりしないのかしら!調子はもどってないにしろ、どうなのかしら?」
食い気味に目繰に迫り顔と顔が近づく。目繰はそんなアカメに対して言い放つ。
「それもむりだな。こうやって今も喋れてるのが不思議なくらいで、不のものだからなんとかなってるんだと思う。しかも、取り込んだ中から特定の人を見つけるなんて到底不可能だ」
「…そう、ごめんなさい。じゃあ他の手を探すしかないわね」
俯きしょんぼりしているアカメを見て罪悪感に苛まれるが、こればっかりは今の状態で見つけることは不可能なのだ。
「「……。」」
沈黙か続く。思いつくのが限られてる中で、それぞれ思考を巡らす。しかし、口に出す前にこれはダメだと諦める。それが何回も続き、ついには互いに背中をくっつかせないと飲まれる距離まで海が迫っていた。
「……、もうこれしかないんじゃないか?」
「なに?いくつもパターンを考えていたけど、私たちで考え得る手は全部能力ありきでしか成し得ないじゃない」
「そう、だから何も使わないでできることをするしかない、だ。備えろって言う意味はまだ分からんが、とりあえずこれしかない」
「分かったわ。あなたを、めぐりを信じる。聞かせて」
もう爪先まで海が迫っている。
「泳ぐぞ」
「え?」
足先が海に飲まれる。
「大きく息を吸え!そんで、上に向かって、泳ぐぞ!」
目の前に海が迫り、アカメは大きく息を吸い、止める。
蜘蛛の巣のように体に纏わりつく感覚があり、二人がどんどんと飲み込みれていく。
(息ができなくて泳げなければ終わり、息ができても泳げなければ終わり、不成人らに干渉されてなにかしらされれば終わり。とりあえず、飲まれたら上に泳ぐ。上に泳ぐ。上に泳ぐ)
上に泳ぐ、上に泳ぐ、上に泳ぐ、、、
、
、
、
、
、
もう、飲まれた?
、
、
、
、
、
目を開ける
目
「っ?!」
ゴボゴボゴボ
たくさんの気泡が上に上がる。上に泳ぐ、やるしかない、そんな意を決したアカメの目の前に大きな目。上に意識があったため不意を突かれた形だったがその目は丸く模様の様。しかし、うっすらと上から照らし出される薄暗い微光と、想像力から頭部、胴部、口、歯、それが見えてしまっていた。
「〜〜!〜〜〜!」
体は不の海中に浮かび、その場から離れようともがく。しかし、いくらもがこうとも移動することもできず、徐々に焦りが恐怖に変換されて蓄積する。
(めぐり!めぐりはどこなの?!消えた?!どこ?!どこ?!)
飲まれる前に、二人は背中合わせの状態で、片方の手を固く握り合っていた。意図したものではなく、不安や決意など含めたぐちゃぐちゃな感情が無意識に二人をそうさせていた。その手が、今はどこにもない。
ゴボゴボゴボゴボ
口から気泡が出るたびに、体がどんどん重くなる。動けば動くほど、危機的状況に陥ることは頭で分かっているのだが、目の前の巨大な恐怖が冷静な思考を阻害する。
ゴボゴボゴボゴボゴボ
今まで地上にいた感覚で、無意識に足場を探そうと下を見る。すると、そこには奈落がーー、どこまでも続いていそうな奈落が広がり、恐怖心をさらに掻き立てることになった。
「〜〜っ!!!っ〜〜!」
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ
意識が遠くなる。もがいていた動きが段々鈍くなり、上に上がる気泡も徐々に少なくなっていく。
(めぐりは無事に辿りつけたかしら)
肺の中にあった命を全て排出し、消えゆく意識の中で、次へ進むべき相手のことだけを考える。
自分は、もういい。
、
、
、
、
奈落へと落ちていく間際、上を見上げて手を伸ばす。
「いいわけねぇだろ、ほらいくぞ」
聞こえるはずのない声がした。死ぬ間際の幻聴というやつだろうか。息もできないこの中で言葉を発せられるわけはない。そう、思っていたのだがーー、
「このまま上までいけそうだな」
幻聴がまた聞こえた。
そこでアカメの意識は途絶えた。
"海"と表現していますが、ただの不の中です。
いや、不の中ってなんだそれ。
もう少し続きます。




