27.クエスト「この星から脱出せよ」
アカメがこちらをじっと見つめてくるのが分かる。何か確信を持った雰囲気が感じ取れるが、今は置いておこう。
答えは出た。この無数にいる不成人に対してできることなど、限られている。
「俺は不のものだ」
これは自分への問いかけでも、名乗りでもない。これは、改めて自分の存在というものを根源に固定化するために行う。
「人でも、不成人でもない。俺は不のもの。それ以上でもそれ以下でもない。この場では唯一の存在で、俺しか成し得ない」
誰かに教えてもらったわけでもなく、自分の中にある不がそうしろと訴えかけてきたように感じたのだ。
不の意のままに目繰は体を委ねる。すると、左手がスッと上に持ち上がり天にかざすように姿勢を変えた。
「人間に戻らなくてもいい。不のものとしてこの先、生きて死んでいく。でも今は!何が起ころうが目繰里無はここで終わらねぇ…っ。おい!お前ら俺を見ろ!この汚れきった世界に沈んでいった無念や後悔を!全部!俺によこせぇ!」
「!?」
なにをしているの!そんなに大声を出したら一斉にーー、
そう言葉を紡ごうとし、無数のそれの目線がこちらに向いた。ゆらゆらと揺れながら、その場に立ち尽くし、隙間を余すことなく地から出てくる全ての不成人がこちらの存在を確認した瞬間だった。
「アンチカメレオン!」
手を天に掲げながら、意を込めた言葉を紡ぎ叫んだ。
その時アカメは、一体これから何が起こるのか、それを死ぬまで見続けようと、祈りの手を組みながら見つめる。
「……。」
「……。」
「………え?」
最初に言葉が出たのはアカメ。何も起こらない。目繰が何かをしようとしたが何も起こらないこととそれによって不成人が襲い掛かってくることも今のところなかった。その二つの意味を込めての言葉だったが、それに対しての反応を示したのはイヒだった。
『アラーム。警告。この星を覆うブービーの魂に変化を確認した。グッラーグッラー。ーーーーーーーー、備えろ』
その瞬間。あたり一面にドッと現れた無数の光の玉がこちらに向かって飛んできた。
ヒュンヒュンヒュンヒュン
「ばうあー」「びゃああい」「ぶぉぉおんん」「べっええええっ」「ぼぉいぼぉい」
そこかしこから断末魔が聞こえ、不成人が倒れていく。
「なに?何が起こってるの!?」
手前から順に倒れていき、その先から次々と光の玉がこちらへやってくる。その光はというと、天に掲げた左手に集約していく。膨大な数の玉がそこに集約されていく様は、まるで魂を吸っているようにアカメの目には写っていた。
「うっ…うぉおおおおおお!!!」
世界が揺れるが如く錯覚するほどに、その景色が凄まじく幻想的だったが当の本人は死に物狂いだった。
「ああああ!!やばい!一気に来すぎて…っ!耐えられ…ねぇ!」
右手で掲げた手を支える。重さはないように見えるが、実際の所は一つ一つが非常に重い。
「思いが……重…いっ!」
この状況でも、そんなことを言える余裕があるように見えるのは、しょうがないことで目繰にしか分からないことが今怒っている。そして、体全体が悲鳴を上げている。
「やばいやばいやばいやばいやばいっ!想像通りだけどっ!想像通りすぎるっ!」
星の規模は分からないが、年数を重ねて上書きされた世界を取り込み続けていたのだ。その分大きさも変わるだろう、そしてその分同じように沈んだものも比例しているだろう。それを踏まえて、不の感覚で大体の予想はしていたが、当たってほしくなかった予想だった。
「ぅおおおおおおおおおおおお!!!!」
物理的な重さはない。先程の言葉通り、心と魂が重い。今までのグツグツと煮込まれ熟成され腐乱したクソ不味い飯を休憩することなく食い続ける苦行を行なっているのだ。胃がもたれて感覚的に重く感じてしまう。
でも、そんな覚悟でこいつらを受け入れるなんてーー、
「いってねぇぇんだよ!」
ひたすらに耐える。
耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える耐える。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!そぉろぉそぉろぉ、終われぇぇえええ!!!」
その言葉と同時にこちらへ飛んできていた光の玉が止む。そこかしこに亡骸になって倒れている不成人の姿が広がっていた。
「…っばぁっ!…っんもうむりっ!もうなにもできん!はぁ…はぁ…はぁ、うっ…、はぁ…」
大の字に倒れた目繰は空を見上げながら、体で息をする。もうこれ以上なにかあれば対処できないぐらいに疲弊してまった。しかし、周りを見ることなく分かる。無数の不成人を今自分は中に受け入れたのだ。受け入れることに成功したのだ。
『初見でできる行動ではない。これも、あのカケラのせいか。機転はよし。否、我の主はまだまだこんなものではないはずだ。我は言った。"備えろ"と。それは今からだ。メグリにないものをお前が我に示せ』
こいつ本当に何様なんだと思う目繰だったが、まだこの続きがあるみたいな言い方をしているのを察知し焦る。
「メグリ!なんだか、不成人の様子が変だわ!」
疲弊した脳で何を思考できるというのか。起き上がれることなく、目線だけをずらして周りを見る。
ピシャッ
「ーー。」
ピシャピシャ
「ーーー。」
ピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャピシャ
「おいおい…、なんでこいつらまだ動いてんだ?」
確かに目繰は自身の中に光の玉ーー、魂と呼ばれるに等しいものを取り込んだはずだった。それとは別の中にいるコガメの力を借りて使った力に間違いはなく、正しく力を借りたのだった。それなのに、この不成人らは倒れながらも魚みたいに跳ねている。
「ひっ!」
アカメは完全に引いている。
「うげぇ」
目繰はもうどうにでもなれという感じで様子を見ることもなく天を見上げていた。
「めぐり!なんとかしなさいよ!しんみりと期待してたのに!私がイヒに頼んでも無反応なのよ!どうにかできないの?!」
「あー、むり」
「………このまま死ぬのね」
落ち込み、その場に倒れ項垂れる。どうせ死ぬならば、こんな気持ち悪い絵図のままは望んでいない。ただ、もうどうせ死ぬ運命なのだ。生きたい気持ちはあるのだが、自分の目標は達成されている。アスラは倒され、もうこの第三世界の餌食になるものもいなくなった。正直、アカメも終わりゆくこの星と消える覚悟はできていた。
「最後に、めぐり」
「?」
視線を上に見上げてアカメを見上げる。そこには、決意した顔立ちで見つめるアカメの姿があった。
「あなたは最初に会った時のメグリなの?それとも、違うめぐりなの?」
「……俺は」
少しの間が空く。その間にも無数の不成人はピシャピシャと音を立てながら跳ね回る。しかし、こちらには寄ってこようとせずに常に目繰を中心とした円形に囲っている。
「俺は……」
その時、ピシャピシャと跳ねていた不成人が一斉に止み、溶けた。目繰はその続きの言葉を言うのを中断し、少し起き上がってそれを見た。
サ〜〜ザザ〜
「おいおい、この星全部がこの周りに集まってくるぞ」
液体となった一人一人の不成人は重なり合い、混ざり合う。円形の周りに全ての不成人が集まり、その液体が"海"になる。
「なんだ…これ」
空の太陽さえ飲み込み、その海は円錐となる。
「こんなの、もう終わりじゃない。何が起こるの」
頭上の空にあった太陽と思っていたものが、黒に染められる。そして、その黒い太陽が青白く光る。まるで深海にいる様な感覚に陥り、差す光が波打ち青黒色が広がった。
「「……。」」
その幻想的な景色に気を取られた二人は、真っ直ぐ上に向いて、その太陽を見つめる。
「綺麗だ」
『ゲートだ』
「へ?」
目繰が口にしたと同時に、イヒがその太陽の正体を言う。
『上に上がるためのゲートだ。この世界ではあの太陽がゲートとなっている。他の世界毎にもゲートは存在し、クリアすれば天より先の上へ行くことができる』
「ということは第四世界へ繋がっているんだな?」
『然り』
「でも、一体あそこへはどうやっていけばいいの?めぐり、あなたのカメレオン?はもう使えないの?何か変身して辿りつけないのかしら?」
およそ自身の知識から引っ張り出してその存在になることができるkame-Reon。過去にもこれを暇つぶしに使って遊んでいたのだが、今の目繰にそれは行使できるのか。それを問うた。
「すまん、それもできない。今のところ吸ったので精一杯なんだ。変に使えば、俺の体に何が起こるか分からない」
「そうなのね」
結局のところもう手詰まりでどうすることもできない状況なのだ。
「迂闊にこの海もどきに近づけやしないし、一体どうればいいんだろうな」
大きく広がっている円錐の不成人の海もどきに近づき、上から下に視線を落とす。
「ん?…んんん?!」
「なに?どうしたの?」
「あんまり近づくなよ。これ、見ろよ」
アカメはゆっくりと目繰がある場所へ近づき、目繰が指差す方は視線を移す。
「…!これ、やばいじゃないの!」
「ああ、やばいなこの海もどきーー、」
視線を移した先は地面があり、海もどきとの境界が分かる。そこから上へと続き空にある太陽を飲み込んでいる。あまりの高さに平衡感覚がおかしくなりそうな気がしてくるが、その地面との境界が今もまさにーー、
「中心に近づいてる」
『備えろ』
目繰もメグリもアカメもコガメも力は使えません。イヒも手は出さないです。




