26.それぞれの思考
コガメちゃんがいないのはあえてです。
「ばぁ」「ばー」「びぃぃぃい」「ぶっブゥ」「べべべべ」「っぼうっ!」
非常にまずい状況になってしまった。四方八方に、こちらと少しの距離を空けて不成人が囲むように浮き出てきた。それも、無数に。おそらく、上から俯瞰で見ることができたなら、この星は黒に覆われているであろう。不のもの故に、それが感じ取れてしまっていた。
「……」
ばぶばぶとそこかしこから聞こえる中、二人の唾を飲み込む音が大きく鳴る。迂闊に動けずに目を合わせながらこの状況をどう打破するべきか、探る。
「「……。」」
互いに首を横に振り、それがないことを確認する。幸いなことにまだこちらに向かってくる様子はない。しかし、予測ができない以上迂闊にこちらが動くことができない。
現状を整理すると、今のメグリはアスラとの戦いで回復はしてきているものの、それは今から再び戦える程では、決してない。
そして、アカメはというと彼女から不をまったく感じることができない。一体何があったのか、詳しく話を聞きたいところであったが今はそれは叶わない。しかし、この状況を見るに、タイミングが良いのか悪いのかこの場にいてくれたことが何よりの朗報であった。
イヒがついてるとはいえ、自分の目で安否を確認しないことには心の余裕と思考力が違う。そして、イヒがいたからといってこの状況を打破できるとは到底思えない。そんな光景が広がって、今もなお広がり続けているのだ。
そんな中ーー、
『この娘には我が付いてやろう』
良くも悪くもこいつはノロマな亀でマイペースだが着々と進んでくれる。謎が多い亀だが、自発的に動く時のこいつは何にも左右されない。安心してアカメを任せられる。
「頼む」
短く言葉を送り、目の前の地獄絵図について考える。アカメのことはもう考えなくていい。イヒはアカメのそばでゆらゆらと浮かび、対面10m程の距離に自分がいる。そして、その周りには無数の不成人。折り重なった奴もいれば、なんだか混ざった様な奴もいて、非常に不気味だ。現状を打破する策があるとすれば、もう己の力で解決するしか他はない。
(相棒は落ち着いたのか反応はない。恐らく這う這うの体は使えないな。不変を使ったところで、移動手段としか思えないこの力でこいつら全員を殺れるわけがない。となると、不自然な手しかない、が、)
不自然な手。アスラの神格性を落とすことができた不思議な力。他にも隠された力がありそうな謎の手だが、目繰自身も全てを把握していない。
そして、不を無理矢理捻出して武器を出していた最初に比べて、不自然な手から生まれた槍、不槍もなければアスラの腹に穴を空けることなどできなかっただろう。しかしーー、
(もう、槍は出せないな…)
そこまでの余力もなければ、軽々しく出す程のものではない気がする。
視線を落とし、その先にある手のひらを見つめる。ゆっくりと閉じ、開き、また閉じ、また開きを繰り返す。その間にも、ばぶばぶ言ってる声が聞こえ、その数はさらにどんどん増え続けていく。
「……。」
さあ、どうする。周りにはまた絶望が広がり、終わりゆく星と共に消えるしかないのか。
さぁ、どうする。
♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪
アカメは、無意識に口角を上げる目繰を見ていた。確実に自分たちは死ぬだろう。今生きているのは、なぜかこちらに気づかず襲ってこない不成人の気まぐれ故だ。ふとした動作が命取りになる状況で、なぜ彼は笑っているのだろう。
前々からふとした時、彼の中からどこか二面性が感じ取れることがあった。他に考える余裕がなかった今までと比べて、今はひどく冷静に物事を考えるのことができるようになっていた。そんな今だからこそ、彼はやはりおかしい。この世界の性質上、気が狂えないようになっていたとはいえ、結局の所彼は狂っていた。何度も何度も繰り返し自死を行っていた。私のパスを繋いでいたせいで、毎回失敗に終わっていたのだけれど、平常を装い日常生活に死を取り入れていた。恐らく、この狂えない性質というのは彼のためにあったのだろうと思えるぐらい、彼と相性がよかったと今になって思う。そしてそれは、一人で抱えるのは到底無理なぐらいの負担だったように思うのだ。責任を転嫁するつもりはまったくない。私とこの星と天上クエストと神らのせいで彼はーー、不のものは生まれたのではないか。私よりも上位互換のような存在。私が考える範疇を超えたその存在は、私の味方であるがあいつらからしたら敵そのものだ。そんなものを生み出して何の意味があるのだろう。
「ーーー。」
胸に手を当てて、メグリを見つめる。
不を取り込みすぎて、不安定になっていた私たちに対して"まかせろ"と言ったあの言葉が頭によぎる。
色々考えたところで、もう後は身を任せるのみ。彼ならなんとかしてくれる気がする。前人未到の第三世界をクリアした彼なら。静と動、そして暴を確固たるものとしていた厳然のアスラを倒した彼ならきっとーー。
横目にふらふらと浮かぶイヒを横目に見ながら、彼女は叶わぬ期待を抱いていた。その思いを感じ取ったのかは不明だが、イヒの言葉が頭に流れ込んでくる。
『巡り巡ってきためぐりは、ここで終わらない。だが、テン管理者は意外なことに、一つ可能性を潰した。予想外だったが、巡る因果が勝つのか、それとも不可能が勝つのか。お前にできることがあるとすれば、それは"堂"だけだ。』
この亀はなにを知っているというのだろうか。それに、メグリと初めて会ったあの場所をどうすればいいのだろうか。七つある内の一冊である『主loVe全書』は堂から持ち込めないようになっているのだ。イヒが言っているのはこれだと思うのだけれどーー。
「……堂?」
その時、アカメは一つの可能性にたどり着いた。目線はメグリに向いたまま、それにたどり着く。
(堂での彼との雰囲気が違う点……相棒……なぜ相棒?不自然な二面性……もしかして、メグリはふたり?…………あなたは本当にメグリ?)
アカメは現目繰とは出会わずに、メグリと地上へ出ています。
ここでいう二面性とは、狂わない世界にも関わらず、狂ってしまった目繰と狂わないメグリとの違いということですね。分かりづらいですね。




