22.かけろ、少女
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負担が少なく、平均的に力を爆発的に向上させることができるアスラの有限の負。
負担が大きすぎる故、無限の不を最大限に収束させ、その込めた一撃を当てる。そうすれば、アスラを撃破できる可能性を秘めた目繰の無限の不。
アスラは長い時を経て、憎悪にまみれた負を御し、扱うことに成功している。それに加えて、自身の幾何学模様に包まれた屈強な肉体とこの地の管理権限、そして主より授かった力。
そのほぼ不可能なほどの難易度に幾度となく沈められてきたものたちの不を受け継ぎ、"不のもの"となり立ち向かう目繰のクエスト達成は限りなく不可能だ。
目繰には不のものになる上で、”不の要素”を2つ、体に定着させている。
一つは、左手の"不自然"
二つは、体に纏う"不変"
それぞれ、目繰の一部となり、意を言葉にする事で発動する。
本来であれば、定着させるなど不可能であり、不のものは空想のもので終わるはずだった。しかし、それを可能とした条件とはーー、
"第三世界 テン" "不成人" "正のメグリ"
"不の目繰" "テン管理者 厳然のアスラ"
"アカメ" "コガメ"
そしてーー。
『わっちの存在だ』
「イヒ、あなたなにかテンションが変に上がってないかしら?」
現在アカメは戦闘から遠く離れた簡素な小屋の中に座っている。
小屋といっても壁や天井はなく、レンガの床があるだけ。そして、周りにそれ全体を大きく包むように半円の透明の膜が張ってある。
アカメは最初からこのイヒという存在について疑問を感じていた。ただメグリに対して異常に好意的だったのを頼りにするしかなかった。そして、それは今の口調を見る限りやはりそうとしか思えなかった。
「条件が揃ったおかげで対等に、勝てる可能性があるのは分かったわ。でも、それだけで本当にできるのかしら。不のものって今の私の上位互換みたいなものよね?実際に戦ってみて分かったわ…。あれは不だけで勝てる相手じゃない。まさしく、天上の存在よ」
デッドエンドと入れ替わったアカメだからこそ勝てない存在だと確信している。アスラはまだ準備運動さえしていないだろう。
"罪人を従わせる聖顔"
"裁きの咆哮と波"
"審議する体、審体"
これらはおそらく、この地の管理者になる上で得た力だろう。他にもその肉体の力と主と呼ばれるさらに上位の存在から与えられた力があるのだ。もはや勝つことは不可能に近い。
『開幕ボス戦というのは、負けイベと相場は決まっている。しかし、このまま負ければ全てが終わり、天上クエストは変わらず運営されるだろう。淘汰されゆくのみ』
「ボス戦?負けイベ?ニュアンス的に分かるのだけれど、流暢に話すと思ってなかったからびっくりするわ」
分からない言葉よりも、こんなにも流暢に話すイヒに驚きを隠せないアカメだが今はそれどころではない。即座に気持ちを切り替えて、話を聞く。
『巡り、巡り、巡るべく巡ったメグリは役目を担っていた。それは、本人の知らぬ所。私は※※※の在り方に疑問を感じ、離れた。そして、メグリを選んだのだ。今や一つと成りつつある目繰の根幹となる力の名はkame-Leon』
「カメレオン…。メグリが使っている、物を出したり、自分を変える能力のことね」
『そうだ。厳密には違うが今はそれでいい。目繰はそれを自ら昇華させ、略式ではあるが神に対抗できる力を手に入れた。見事である。だがーー』
今のメグリの状況はイヒの力を通してうっすらと見える。正に今、短い槍を出しているところだった。
『これを出したということは、直に勝敗が決するだろう。長い時をかけて馴染ませたわっちの力だが、昇華させたkame-Leonは今までの比ではないぐらい消耗するのだろう』
ゴクリ
これで、全てが決まる。自分だけではない。内にいる不となったものたち、この地に沈みアスラの糧となったものたち、これから犠牲になるであろうものたちの運命がこれで決まるのだ。最後にイヒに問う。
「勝てると思う?」
現状まだ力を隠し持っているアスラに対して、メグリには全ての力を晒して全身全霊で臨んでいる。時間稼ぎをされればそれまでの一瞬の戦いをする分、不利に思えてしまう。だが、イヒは勝てる見込みがあると言った。これは、さまざまな条件から辿り着くことができた"不のもの"に対してのイヒの分析だ。
そこにイヒの思いはなく、アカメはその思いを最後に、聞いてみたかった。
『……』
少しの間が、静寂をもたらす。
「……」
『勝てる』
「っ!・・・じゃあっ」
『だが、あちら側の主。わっちの前の主人は果たして、駒を簡単に潰させるのか』
「それってどういうーー」
言葉切れに、急に脳内で振動がおこる
(っ!!なに…っ!)
『イレギュラーに備えろ。わっちは認識されない。わっちの存在を知らせるな。思うがままに行動しろ。それが、良い結果を生み出す。必ず…めぐ…も…へ…』
アカメへ、言葉と認識できるが限りなく早口でイヒが脳内に言葉を送り込んでくる。最後の言葉が途切れたため、その意味を、必死に、気持ち悪さを、堪えて、
堪えて、
私は、
メグリの、
「落ち着いて、あなたの味方じゃないの」
声が、
「う…うぅ」
「ふふ、哀れ。成り損ないのあなたにも使い道があるの。悪い様に使ってあげるから、」
視界が揺れる、
倒れてるの?
私は、今、立っている?
「一生地獄を這いずり回れや、女」
アカメに手が伸ばされる
怖い、
怖い怖い、
怖い怖い怖い怖い怖い怖い、
なにかが、上から、下から、横から、全部から何かが、近づいて、くる
「…や…」
勝手に犠牲にして、進んで、また犠牲にして、ほんと私は滑稽だ。人生全てを捧げてもこの体からその言葉が消えることはないだろう。
"まかせろ"
その一言で、全ておさめてくれる。雪の地から、繋がりを断ち、離れた時、彼はそう言ったのだ。不に飲まれるのを必死に抗っていた、あの時にその言葉を聞いて、ストンと何かが綺麗に自分の中に落ちた気がしたのだ。
つらい、けど、ここで倒れたら、
ここで、何かに触れられたら、だめだわ
だから叫ぶんだ
ありったけの力を、思うがままに、
全方向に、
不をばら撒けーー
「私に触れるなぁ!こんちくしょおー!!」
半円の結界、2人至近距離に存在する中で、1人の体から黒いモヤが一気に、爆発する。
「っ!小賢しっ…!?!?!」
その半円は外部から守るためにあるだけではない。
「むふぅん!あぁ!これは!」
イヒによる、あらゆる可能性を考えたその結界は実はアカメが出ようと思えばいつでも出られるように張られており、尚且つーー
「ぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぬしぃぃぃぃんんんんん!!!」
それ以外は一切出さない、イレギュラー対策された結界。あえてイレギュラーを中に引き入れたイヒの策。
「だめ!ぬしぃ!いろんな方向から!そんな!あぁん!吸えば!吸うほど!入ってくるぅん!!!」
実は治療を受けていたアカメから発生した不には、イヒの前主人である気配を練り込ませていた。それを呼吸するごとに中に取り込んでいる第※世界管理者 ニアはその場で座り込み、自らを抱きしめてうねうねしていた。
(立て!食いしばれ!走れ!)
そんなことになっているとはつゆ知らず、結界の外に向かって、走るアカメ。
(思うがままに!メグリのもとへ!)
アカメは無意識のうちに理解している。自分の中にある不はもう自分の中にないことを。今の爆散でみんなを置いていくんだと。
(泣くな!泣くな!前だけ見るんだ!)
少女はみんなに背中を押されて、駆けてゆく
"いってらっしゃい、アカメ"
こんな状況にも関わらず、結界を出る頃には少女の気持ちはまるで、木漏れ日のピクニックに行く
かの様に軽々しかった。
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