20.無茶クエには不正
お待たせしました!
「やったか?」
(バカ?)
手応えは、あった。確実に真上から真下に拳を落とし、こめかみにぶつかり、振りかぶった。
確かに感触はあった。
「もう喋んなよ。内側で数回、力を使えるだけしかねぇだろ」
(そうも言ってられるかよ。僕が君なんだ。溶け合うまで、付き合うよ)
「はっ。そうかい。ただ、分かってると思うが、俺の許可なしに力は使うな。無駄にしかならん」
(分かってるよ。でもこうやって視点が増えるのは、君にとってもいいだろう)
「そうだな」
辺りを見渡しても砂煙が中々晴れない。
(あいつ、生きてるよね?)
「確実にな」
もうアスラに、不変による固定化はできない。
「こめかみに当てた瞬間だ」
確かに目繰は目の前の顔面に攻撃を当てた。しかし、当てた瞬間、固定化されていた不変が解けたのだ。こめかみに当たってから僅かの時間差で解けた不変は固定化されたアスラを動かした。
「当てた瞬間、威力を逃したのかもな。なんか引っかかる」
アスラはどこへいった
「これで死ぬんじゃまるで」
まるで、その体に釣り合わない。その言葉の続きを口にする前に、晴れない砂煙が微かに舞うのに気がつく。
しかし、既に遅かった。
自分の目の前に規則的に並んだゴツゴツした壁、いや、拳がある。
「防げよ、"1"だ」
「ガッ!グッ!」
瞬時に腕をクロスさせ拳を受ける
(っ!這う這うのーー)
「使うなぁ゛!」
何かを察し、思わず力を使おうとしたメグリだったが、目繰が制止する。そして、その拳の重さに思わず腹の底から振り絞った声が出る。
アスラが急に目の前に現れたのは奴の能力の内の一つだろう。吹っ飛ばしてもまた現れる。自分と似た力のように思うが、あいつはそれを移動手段としてだけ使っている。目繰の使う不変とは性質が違う。
目繰が使う不変とは、自身が動くのではない。世界が動くのだ。行動するはずだった事象を不変て留めて、解放する。
「ッグ!重ぇ゛!おらぁぁああっ!?」
受けた拳から体が離れようとせず、そのままの状態で今もなお受け止めている目繰。
重い、重い、重い、重い、重い、思い
感じる
「沈めたやつらの!こんなにまでつらい気持ちを!!」
こいつの拳から感じるのは、数億人では言い表せないほどの密度の濃い負。
ダメだ、やばい。なぜかこいつの顔から発せられる神聖なオーラを感じる。それが急に際立って
「あああぁぁああ!気持ちわるいんだよぉぉ!ギャップ萌えとか誰得だ!不自然なーー」
クロスさせた腕を前に押し出し、放たれた拳を押し返す。そしてその合間に、力を発動させる。それは、不可能だったこの世界を打ち消す唯一の力。
「手ええええええええええええ!」
迫りきった拳を一瞬弾き、見えない速度で真正面から殴りつける。
拳と拳が合わさり
「薄味より濃味が勝つに決まってんだろうがよ」
合わさった瞬間、拳の振動が目繰の全身を駆け巡る
「うっ…相棒!」
(ぐっ…!這う這うの体!)
拮抗状態になるかと思いきや、目繰はこの場から離れようと予備動作なしで真後ろ後方に移動する。
「後ろに行くよなぁ」
その後ろには、
「もう一発、"1"」
(っ?!這う這うのーー)
能力を発動を試みるが、間に合わない。
「ガハッ!」
背中にまともに食らって思わず声が出る。先程固定化させ、背中に一発を食らわせたが、今度はこちらが同じ場所に一発を食らう。
一発も食らわずに、勝利することが、いくつかの内の目標であったのにも関わらず。
「なるほどなぁ、」
目繰は再度力を発動し、今度は遠くに離れることに成功する。しかし、一気に形勢が逆転してしまったように感じる。
(続けて発動はできないのか?なんだ、"1"って。なんだ今のは、追ってこないのはなんでだ、なんでだ。やばい、)
心臓の音がうるさい、バクバクと鼓動が大きくなっていくのが分かる。
頭の中にあの神聖な顔がチラつく
「チラつくわけねーだろ!」
(おい、どうしたんだよ!)
目繰は必死に頭を振り、思考する。が、思考するところから光が差し込み現れるのはあいつのハニカム姿。
「ちがうちがうちがうちがう!」
(一体なにが、)
「違わねぇよぉ」
頭を上げると、そこには、あぁ、なんと神々しい。見ることさえ畏れ多い。
「ア…スラ…さ…mっ!!」
震えに震え、下唇をちぎれるかというぐらい噛む。噛む。噛む。噛め、噛んで、耐えろ。
「俺に対を成せば成る程、この力は効く。この場合、対ってのはぁ、"不"だ」
ニヤァと粘つく笑いながらアスラは続ける
「"不"ってのは俺らに届き得る、だが、簡単に扱えねぇ、対神システムだ」
「全ては主のままに。俺の力は主からもらった種なんだがなぁ。お前のそれも結局のところ主によるところだと思うんだがよぉ」
目繰は座り込みながらも必死に、目を充血させ、震え、歯を食いしばり、息を乱し、上を、アスラを睨みつけている。
「お前ぇなにもんだ?主の気配、それだけじゃねぇな。色んなもんが混ざってる中でぇ確実に主の気配がある。ただぁ」
倒れ込む目繰の目線に合わせて、しゃがみ込む。その巨体が動くだけで、今の目繰からすると輝いて見える。
「その中に"不"があんなら、お前勝てねぇよ。ましてや、」
立ち上がり、右腕を掴まれる。耐えるだけで精一杯の体で、それに抵抗することなどできない。
「聖顔に抗えねぇんじゃ、話にならねぇ!覇煮噛ーー」
(いけるよ!)
目の前に正座をした大口があり、アスラに右腕を掴まれた目繰は吊らされている。今まさに、罰が来る、その瞬間。メグリから合図をもらい、行動に移す。
「在れ!」
左手にはいつの間にか先端が少し尖ったハンマーが握られている。そしてそれを、下から上に振り上げる。
「ガヴッ!」
衝撃で、掴まれていた手から解放され、すぐさま不変を解放する。
「這う這うの体!」
あっという間に距離を取ることに成功した目繰の消耗は激しかった。しかし、やつの力の一端である"聖顔"。これは不を持つものに対して決定的な抑制力なのだろう。原理は分からないが、この世界に来たものは不成人にさせられる。つまり有無を言わさず、強制的に従わざるを得ない状況を既に作られているのだ。ただ、
「俺には相棒がいる!」
(君には僕がいる!)
そう、相棒であるメグリがいる限り、聖顔は目繰には効かない。
「そうだよなぁ、さっき拳を合わせた俺の審体でお前の中を探ったんだがよ」
「在れ!」
不自然な手で握られた先程よりも柄が長いハンマーは後ろに現れたアスラの顔面を捉える。しかしそれは、聖顔によって躊躇われるかと思われた。
(上書き!)
メグリが目繰を上書きする。それにより、聖顔を無効にし、勢いを失わずにアスラの顔面へと攻撃が向かう。
「うおっとぉ」
しかし、それは後ろに体を反らされ、躱される。
「躱すんだな!」
「あぁん?はははは!面白れェこと言うんだなぁゴミのくせによぉ!いや、昇格してやるよぉ!」
アスラは笑う。心から笑う。こんなにも高揚しているのは、目繰の存在が、そうさせているから。
「"不"と"正"、それを宿してるやつなんざ、これ以前も以降もお前だけだろうよ!は…はは…ははは…ははははははは!正に不正…チートかぁ!いいじゃねぇかぁ!」
ゴールデンウィーク中にもう1話上げますよ〜




