18.討伐クエスト 厳然のアスラ
お待たせしました!
死にたいと思ったことは何度もある。
生きたいと思ったことはない。
生きていればいつか。
そんな希望はいつも砕け、希望を希望と思わなくなった。
ただ、人肌恋しい気持ちを常に紛らわしていた自分はきっとまだ人であったのだろう。
人に触れ、アカメに出会い、コガメと共に歩き、人肌恋しい気持ちは徐々に薄れていった。
ほんの少しでよかったのだ
そして、今は、
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罰
目の前に事切れる寸前の女性が巨大な幾何学模様に囲まれている。隙間からこちらを見ている表情はまだ、生を諦めていないように見える。
「どうして……ここに」
ここからどうするつもりだったんだろう。なにかを犠牲にして得るものなど、自己犠牲も甚だしい。
でも、犠牲はあっていい。
そう、全て僕が引き受ければいい。
「なんで……」
「……」
「なんで……ここにいるの?」
一時を安らぎに、もう二度と彼に悲しみを味あわせたくなかった。
せめてもの思いで隔離世界から解放し、カケラとともに過ごしてほしかった。
「アカメはいくつか勘違いをしているよ」
「勘違い?」
「まず、僕は君の一部、コガメって呼んでるんだけどその子と会っただけで他は誰とも会っていない」
「え…」
「その様子だと僕のために色々してくれていたみたいだけど」
「そんな……」
シスターは内に沈み、そしてアカメは思う。やはり、自分はどこまでいっても"不"なのだと。安らぎ?それを与えるなんてよく言えたものだと。
誰かを救いたい、救ってみたかった。それはただの押し付けでありエゴだ。ただそれを行い、自分を満たしたかった。
礼などいらない。自分が行動することで、誰かを救えるという皆が持っている余裕が欲しかった。
「次に」
どこに行こうが、自分にとって残酷なのは変わらない。
「アカメが取り込んだ、成れの果てと会ったよ」
「殺した。それを、コガメが取り込んだ」
アカメを囲む幾何学模様は解けることなく、隙間からしか伺えない。表情が見えない。
「その前にも何体か出会ったよ。全ておそらく、いや、全部アカメから出たもの。君の世界の住人、だったもの」
「い……や……」
「それを僕はーー、」
「やめて!」
メグリはやめない。言わなければならない。
「殺したんだ。やりようはあったのかもしれない。でも、罪のない人たちを僕は殺したんだ」
「……」
「ごめん」
「…っ!ちがう!違うわ!あなたのせいじゃない!」
「それでも、ごめん」
「謝らないで!っ!なんで!なんでいつも私は!」
常に正しい行いは真逆となり、周りに撒く。不幸をばら撒くとはよく言ったものだ。それを体現した存在が不成人であり、生きているだけでそれをばら撒く。そして、不成人は最後の最期まで、最期からも、決して人々に安心など与えない。
最期まで不の存在を残したまま、散っていくのだ。
「今がその時なのね、パパ」
「アカメ?」
グレードリング家から代々伝わる。おまじないがある。
初代当主は"堂"の第一発見者であり、初めに足を踏み入れた人物。足を踏み入れ、壮大に並べられた一冊の本を手にし、そこに書かれていた言葉をグレードリングという魂に刻印したもの。
稀代の術師であった初代は禁書たる所以をも無視してそのページを切り取り、自らの魂に刻み、言葉を放つ。
そこからグレードリング家は始まったのだ。
(たった一回だけのそれに何の意味があるのって考えてきた。だから、今までその言葉を言わなかった。リスクなんて気にしない。私はもう誰も不幸なんてさせない!)
父からいつか言う時が必ず来ると、そう言われて続けてきた。
『お前の人生はお前のものだよ。アカメ、価値ある人生にしなくても私はいつだってお前のパパだ。それは変わらない。不変だ。でも自分を変えたい、そう願うのならその言葉を唱えなさい。その時はきっと、隣に私がいることを』
ベットの上で眠る間際のアカメの髪を撫で、おでこに優しくキスをする父は最後にそう締めくくった。
視線を縫う。
隙間から見える青年はどこか雰囲気が変わったように見える。こちらを見る眼差しは優しさに満ちて包み込むようだ。
(最初に会ったときみたいな感覚ね)
過去の記憶がよぎり、こんな状況にも関わらず、心が和む。
いつだって自分だけがそんな気持ちになっていた。狭い世界だったが、なによりもそれを与えられていたんだと今は思う。
「この体質を利用して、世界が救えるなら私は死んでもいい!でも、どうせ死ぬなら最後にこの言葉を残すわ!」
「幸よ!」
突然、砂塵が舞う。そこから覗くは厳然のアスラ。
「邪魔させてもらうぜぇ」
「邪魔は君だよ。バイバイ」
アスラの姿がメグリにより瞬く間に再度遠くなる。目まぐるしく動いた状況にアカメは動くことができない。
「ダメだよ。それは言わせない」
メグリに口を塞がれ、体が動かせない。いつ内側に入ってこれたのか、そもそもあのアスラをいとも簡単に吹き飛ばせるほどの力がどこにあるのか、頭が回らない。
「僕は何度でも君のもとへ行くよ」
「?」
視界が落ち着き、周りを見る。
「っ!」
囲まれて死を待つしかなかった、幾何学模様の罰は無くなっていた。
「ここで見てて、すぐ終わらすから」
改めて近くでみるメグリ。こちらを見る眼差しはこちらを見るようでどこか遠くを見ているような気がした。
「上だね」
「咆哮っ!」
シスター、シュタレン・デッドエンドさえその咆哮はまともに捌くことができなかった。
近づく咆哮にメグリはゆっくりと、ゆっくりと、構える。
「まず一発だ」
正座で垂直に正面から落下しているアスラの口に拳が入り込む。
「あがぁっ!」
「上はどこまで飛ぶのかな」
振り抜き、鮮血が舞う。
「一人一人の辿ってきた跡を見れなくなった神はもはや神ではないよ。上しか見れなくなった物乞いだ」
「不のものとしてお前らに挑むよ」
天上クエスト 厳然のアスラ戦 開幕




