14.誰の為に
お待たせしました!
黒い血溜まりを吐き出す。吐き気が治らない。今もなお、その気に当てられ心地いいのか心地悪いのか永遠に揺さぶられる感覚。
この御方から感じられるのは、圧倒的な聖の臭い。
「あはぁ」
気味の悪い、恍惚とした表情にまた当てられる。
見た目は人のカタチをしているが、体格は目視で3mはゆうに超えている。真っ白いバスタオルのようなもの腰に纏い、上半身は見たこともない、幾何学的な模様に包まれている。そして、必要ないとばかりに主張するその体が、圧倒的強者を思わせる。
「…っごぼッ!」
再び、黒い血を吐く。砂が恵の水を与えられたのようにそれを吸収し、赤茶色の砂がじわじわと黒く染まっていく。
アカメは現在進行形で、事切れる寸前の身体を不で繋ぎ止め、抗っている。膝を付かまいと必死に手で支え、歯を限界まで食いしばる。
ギィリッ
その必死に抗う姿も更に気に入ったのか、筋肉男は釣った口を更に引っ張る。その大きく広がった口をさらに限界を超えて広がり、頬肉が目に食い込む。
ニィタァ
「ああぁ、いいぞぉ、いいぞぉ、いいぞぉ!いいぞぉ!いいぞぉ!いいぃ!」
鼻息を荒くした筋肉の塊が躍動する。気味悪い動きをしながら雑に拍手しているのを横目に、打つ手を必死に考える。
考えれない。考えれない。考えれない。
考えるとはなんだ。いや、考えろ。いや、考えるな。この御方だけを考えろ。
「ぢがゔ!ごいづをごろず!」
抗えば抗うほどに、内から溢れ出る黒い血。はたしてそれは血なのか。
「たま〜にぃ、ほんのたま〜にいるんだよなぁ」
ニタニタと笑う筋肉男は仁王立ちをして、満面の笑みで見下す。
憎い美しい憎い恋しい憎い愛おしい
もはや、アカメは支配の渦に飲まれている。
この渦から逃れるためには自分では、おそよ限界を迎えている。
「自分は全能の力を手にしたと思ってぇ、"不"になんぞ頼るやつがぁ」
一瞬にして策略が奪われたアカメに残されたのはこの獰猛かつ知的、静動を体現したかのような神聖な存在に呑み込まれるしかない。
「ゔぅ…ふぅ…っゴボ……」
(目の前にいるのは確かに神のよう…)
そもそも反旗を翻そうと思ったことが間違いだったのかもしれない。いや、生まれた時から既に未来は決まっていた。私が私でいる理由は、不成人で始まり不成人で終わる為。こいつの遊びとなり、戯れとなり、糧となる。そのために私は今まで必死にーー、
"まかせろ"
「っ!」
優しく包み込むように一瞬、手を掴まれる感覚がしたような気がした。
ほんの一瞬。頭の中から膨大な情報を詰め込んだその中に、ごみが混じっている。
ゴミ?私の中にゴミ?
「そん……な……もの……はいってる……わけ」
全力で頭を振る。振って振って、体を引き裂くように抱きしめる。
「うわぁぁああああ!」
抗え、木霊せよ。あなたは私の罪だ。
「はっ!はっはっ!狂ってぇやがるぜぇ!おもしれぇ!どんどん、熟れていくのがぁ感じるぅぅ!!!!」
未だ、そこに現れた所から移動せず、アカメを観察する筋肉男。彼は待っている。
彼女が未完成に完成されることを、待っている。
「…ゔっ!ゔっ!ゴボッ」
既に立ち上がることなど不可能なほど消耗し、立っていることはできない。その、真っ黒な体が地面に近づき、砂に頭を打ちつける。打ち続ける度、体の黒く黒い色素が薄れてゆく。
幸いなことに、砂がクッションとなって流血するにとどまる。しかし反対に、止まらない頭は何度も何度も何度も砂にぶつかっていく。
憎しみが慈しみに変わっていく。そして、また憎しみに変わる。そして、またーー、
内なる不たちが、ぐつぐつと暴れ回る。沸点を超えて泡立つようにアカメの中で終わることなく、沸き立つ。抗うように勢いを増してゆく。
(パパ、みんなごめん。私はまた他人を地獄を落としている)
"まかせろ"
灰が話す声が聞こえる。
意識が朦朧としていく、目が虚になっていく。自分が思う動きと認識する動きに違いがでてくる。
世界がスローになる。内に秘めたものでさえ、なにもかも、スローに感じ始めたアカメは思い出す。
「メ…グ……リ」
足掻くのか、素直になるのか
私が滓の中に入ったのは、メグリを地上に返したと同時だ。私も寂しかったのだ。書物に囲まれるよりも私は人肌を選んだ。
知識は防具であり、武器だ。この書庫に書いてある情報はどれも、世に出てはならぬものばかりで衝撃だった。禁書庫たるものそれは当たり前なのだが、誰が見ても明らかな嘘が書いてある本も占める割合の半数あったのだ。
知識は宝だ。そんな嘘まっぴらなことしか書いていない本でも私は貪欲に知識を溜め込んだ。そして不もたくさん取り込んだ。
その不を溜め込み得たこの力を使って閉じ込めたそれらはどうしているだろうか。
私のカケラであり、知識を共有している彼女もどうしているだろうか。
無事に閉じ込められたまま、この世界をゆっくり楽しんでいるだろうか。最後の晩餐を謳歌しているだろうか。ほんの少しでもいい、ひと時を、過ごしているだろうか。
「わたしに触れるな、入ってくるな、私は私はだ。許可なく、元から在ったかのように存在を変えようとするお前が限りなく憎い!」
会いたいな。
「全ては堂のみんなの為に、お前の犠牲となった幾多の生物のために!そして、友達のために!」
メグリの中にいたとはいえ、一緒に旅をしているようで楽しかった。
現在、あの隔離から放たれた本当の世界は、彼にとって変化は大きいだろう。良くも悪くも。
彼には出会いを少しでも経験してほしい。私のせいで、あのような目に遭った彼には少しでも報われてほしい。
打算的な思惑はある。しかし、大部分を占めているのは、
私はもう一度、メグリに会いたかった。
だが、私は間も無く消えるだろう。
だが、ただでは消えない。
「おまえを…みちづれに…!」
「あぁ?自爆かぁ?おもしろくねぇ!ちったぁヤリあおうぜぇ!ちょうど準備運動がしたかったんだぁ!」
きっと、いや、必ずこの自爆は失敗する。それでもいい。
そう思っておけばいい。
不を扱う私は、同じくを不を扱おうとするこいつに自爆という名の報復をお前にぶち込んでやる。
振り絞れ、最後の最後まで足掻け
もう、つらくはない。吐くのも、飲み込む。それでいい、何度でも足掻いてやる。
相対する筋肉男に向けて手を出し、叫ぶ。
「不来!不仲!!」
内に残っている不1%を使用し、二連同時使用。
アカメの周りに砂が渦巻き、発動。
「ちっ!つまんねぇやつだなぁ!」
大きく溜息をする筋肉男。落胆する様子を見せつつも、アカメがやろうとしていることに反応し仁王立ちの状態から正座に切り替える。
その佇まいこそ、男の在るべき姿。
その行いに骨を包む肉など不要である。
だが、男は肉を欲する。
「ーー」
両手は腿の上に優しく置き、凛と背筋を伸ばす。そして、ニタニタと気味悪く笑っていた顔を無に変える。
一方アカメは、筋肉男が何をしようともすることは決まっている。
「不二連略式 去るもの追わず」
離脱。状況を立て直すにはまず、時間が必要と判断する。あいつが視界に入るたび、忌々しい感情が押し寄せてくるのだ。対策を取るにしてもまずはーー、
カンッ、カンッ
「覇煮噛」
視界からも見えないくらい、大きく離れた所へ移動したはずなのに、近くから声がする。
耳元で声が、聞こえる。
「咆哮」
まさしく咆哮。
「っ!不可避!略式 止まれ!」
すぐさまに不を1%を使用し、雑な停止空間を生成する。
「咆哮とはいったけどよぉ、そもそもぉ」
不可視の空間と咆哮がぶつかり合い、せめぎあう。
「俺の世界で他人に権利を待たせるかよぉ。喰らえ」
言葉を放った瞬間、空閑が散り咆哮が突き抜ける。そのままいけばアカメに当たることは確実だろう。
「不動 略式 避けろ」
だが、アカメには今まで溜め込んだ不がある。それを利用し、寸前の所で横にずれて避けることに成功する。
(まずい…、やはりここはあいつの世界。裁量はすべてあいつ次第)
正直なところ、この世界そのものがあいつなのだ。この地に足をつけている時点で有利も不利もクソもない。手立てはもうないのか。
(逃げもダメなら、攻めるのみだが……)
肉弾戦は得意ではない。さらに悪い状況となった今、未だに治らない吐き気が再び強くなってくる。
(足掻け、思考しろ。考えろ)
まだ、反撃の火は灯ったままの明かりが、強くなる。
と、その時ーー、
(お嬢、あたしに変われ)
突然の声が聞こえる。勝ち気のあるハキハキとした声の主は、アカメに言う。
(っ?!シスター?!なんで…!!)
(今、悠長か?お嬢。私ならやれる。その間に策を練りな)
(っ!!ダメ!ダメよ!あなたになにがあるか分からない。あいつはーー、)
(知ってる。私なら大丈夫だ、お嬢。しっかり確認はした。耐えればいいんだろ?容易いことだ。知ってるだろ?全身の骨が折れようとも、声も発さなかった私の胆力を)
(それとは比較にならないくらいなのよ。それに、またあれは違った感覚なのよ)
(お嬢。ぐだぐだうるせえ。頼むよ)
既に自分の一部とっていたように見えたシスター。彼女は、一緒に堂で育った姉のような存在だった。普通のシスターとはかけ離れていたが、周辺の盗賊や魔物はほとんどシスターが捌いてた。
(……約束して、消滅するときは一緒よ、シスター)
「いいぜ、お嬢。あたしはあんたに救われてんだ。生きるも死ぬもお嬢の手のひら。この状況で、お嬢だけは死なせないなんてヤワなことはいわねぇ。死ぬ時は一緒だぜ」
「ふぅ、あぁ?外したのかぁ?おもしれぇ!拍手ぅ!拍手ぅ!」
なぜ、自分が出てこれたかは分からない。ただ、互いに信頼していたからこその即断即決
「おい気味悪い汚ねぇおっさん。相手してやるよ」
「あぁ?雰囲気変わったかぁ?そんなことどぅでもいい!相手してくれるんならぁ、早くしようぜぇ!」
拳や首をパキパキとならして、臨戦状態に入る。
「そういえばよぉ、名乗ってなかったなぁ。手向けに教えてやるぅ」
未だニタニタと笑う筋肉男は、シスターに変わったアカメに気づいていない。そんなこと眼中になく、ただただ壊れかけのおもちゃで実験をしたいだけだ。
しかし、完全に興味がないわけではなかった。今まで見た誰よりも不を扱い慣れたアカメに少しの好奇心。頭の中で、実験欲が溢れてくる男は、敬意とはかけ離れた、むしろ反対の侮を以って、先に名乗りをいう。
「天上世界 テン管理者 アスラ」
天上クエスト 第3の世界 テン
未だそれよりも上へ昇ったものは存在しない。
達成者 0
彼女らはまだまだ不の扱いが未熟です。
少しでも面白い、気になると思っていただけた方がいれば嬉しいです。
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