13.吐きそう
お待たせしました!最近調子がわるいなぁ
丸い惑星が下を照らす。
この世界に街灯や、それに連なる電気と呼ばれるものは一切なく、偶にでてくるこの惑星が宵闇を浅く照らす。目が慣れずとも辺りを確認できるくらいの光はまさに良夜といえる。
歩いている時、何度もその惑星を見てじっと見上げ、朝を迎えたことも多々ある。
"いつかこれを誰かと見ることができたら"
まばらな気温の中、いつもその惑星が出てくる時に限って、心地よい風が静かに吹いてくる。自分の体にあった適温に合うようにしてくれていると気づいたのは五度目のこと。
溜まりに溜まった何かをほんの少し消してくれているような気がしていた。
今宵も惑星が照らし出す。
今も変わらず、その光を下に浴びせ、次に出てくるまで扉を閉められるその星は今宵、影をいくつも生み出した。
大きく三つ。
一つは森の中心にある隔離領域の中に
一つはそこから半周先に位置する砂漠地帯
一つはその砂漠地帯から遠くない距離の離れた砂漠地帯
足掻きは始まっている。もう、遅いのかもしれない。だがーー、
終わりに間に合えば、
♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫
影が一つ。
内なる不を無数に宿し、限界は超えているだろうその体を不の力を以ってむりやり縛り続けている。
不成人。名はアカメ・グレードリング。赤髪赤目、体はどこまでも落ちていけるような奈落のような色をしている。
どこにでもいない、唯一の存在、"不のもの"に限りなく近く、限りなく遠い。
彼女は許容量をとうに超えている。己の中で、留まらせるもの、強要するもの、挫折するもの、放棄するものーー、
そうした混沌と秩序が入り乱れる集まりを彼女は幾億では測れない程、抑え続けてきた。
「……っ!……っぅぐ!」
それ故に、気づけない
「……っベぇ゛ェ゛ェ゛」
それ故に、気づかない
「…のこりかすが…デるほど…わいていル」
残り滓がどこに向かっているのか。
そして、彼女は笑みをこぼす。
「不……不不……」
本来であればその美しく可憐な表情は誰かに見せるべきものだろうが、その目からはドス黒い憎しみの念が感じられる。
彼女はもはや憎しみで構成されている。
たった、1%のありふれた日常の渇望など、彼女には微々たるもの。
それが唯一の英雄で。
「りょういきないはだいじょうぶだろウ。あのこはどこまでもメグリのみかた……なのだかラ」
フラフラと宙に浮かび、進む。
まるで行くあてのない亡霊のように見え、意思もなくただ漂い続けているかのように見える。
だが、彼女は確かな意思をその目に宿し、常にこの世界を、他の世界を、あらゆる可能性を底に沈めている存在を見据える。
彼女は常に罪を背負っている。
遥か昔に出会った最初で最後の不成人、メグリのことを思う。
彼はひ弱な印象で、何かに囚われているように目をそこかしこに動かして、周りをよく見ていた。底から観察している限り、唯一過去を覚えている存在だった。その少年を利用し、自らの思惑に誘導させ、壊し、決して許されないことをした。セざるを得なかったというのは言い訳でしかない。しかしその可能性を感じてしまったのは、偶然なのか必然なのか。この道に頼るしか見えなくなってしまったのだ。
少年の過去について、少し推測できるとすれば、きっとーー、
「普通のにんげんではない」
そう、少年はきっと成った人間なのだろう。 直接は触れはしなかったが、"逃げる"という言葉がまさに自分を体現していることかのように叫んでいた。それは限りなく生の証。
何かから逃げるという行為は彼の中で誇るべき行為であり、自身のアイデンティティを掴んだ結果の力の証明だ。少なくとも彼はあの時、ほんの一雫の記憶を持ってその行為を行ってみせた。あの未だ得体の知れないイヒという巨大亀にも気に入られていた。
イヒがメグリの中にいる内はきっと安全だろう。あれは、どこか違う景色を見ている気がする。この先に起こる状況よりももっと先を見据えて、私が行うことなどただの始めの過程に過ぎないかのように。はっきりしていることは、決して今の状況での味方ではなく、あくまでメグリの味方だということだ。
「それがくつがえるようなことがあれば、それもまたおわりのはじまりダ」
ふっと最期の束の間の黄昏に笑みを溢す。
終わりだと決めるのはもう自分ではない。終わる資格さえ、語る資格さえ、彼女にはもうないのだ。
アカメは常に罪を背負っている。
メグリを見つけることができたのは幸運だった。そう表現するのでさえ、罪だ。私は選別していた。そんな権利は誰にもないはずなのに、この世界に上書きされた瞬間から、私の罪は決定していた。沈み、私の糧としていた。
私は結局何にも成ることなどできなかった。何かに成りたかったわけではない。
今や私は不成人ではない。私の体は「不」そのものと成りかけた、歪な存在だ。
選択したのは己だ。結局の所、後に引き返すことなどできないし、例えやり直せたとしても、私は同じことを繰り返す。
空っぽだった私の中は、満たされているのだから。
万一、それ以上の確率に賭けて、最期まで抗う私をどうか、どうかーー、
「ゆるして、ぱぱ」
私は背負う。無理矢理引きずっても、背負う。決して私は逃げなどしない。
だから、その罪を
私の全てを
皆の不を
内なる不を以って、この世界をーー、
「こわしてやる」
上を見上げる。灯りなどない世界を照らす光。暖かくも、冷たくもない、ただの光。その光は自分の醜い姿を嫌でも照らし、顕現させられる。
そして、時は満ちる。
アカメはその光を放つ丸い惑星に背を向ける。なにもない暗い空に両手をかざして、不を乗せた言葉を言い放つ。
「不滅 不条理 不道理をこの世界から除くことを、内なる不で相殺する」
湿った空気。
それは世界。
世界が話す。
「肉詰め料理ってぇしってっかぁ?」
声
「よぉくできたじゃねぇかぁ!クリアだぁ!どうするぅ?次に行くかぁ?」
声
「基本的にはぁ、手を出すつもりはぁねぇ。こうしてぇ俺を降ろしたんだからなぁ」
「ただぁ……」
「相殺はいけねぇ!あぁぁ!もったいねぇよなぁぁ!ガァハハハァ!なるほどなぁ!詰めてぇ焼くのもまたいいもんだぁ!」
笑う。可愛い笑顔?だ。
「灰ぅ、残り滓ぅ、残り汁ぅ、浮かび上がる垢ぁ。全て廃棄処分とするぅ!」
目の前にある口が動き、液が顔につく。あぁ、幸せです。
「相対するのはぁ、お前がぁ最初で最期だぁ。ここまでぇ不を集めたものとしてぇ、資格は持つに値するぅ」
資格を貰うことができたのはあなたのおかげです。
「でもなぁ、ちっとばかしぃ離れてるところにいるぅやつらはぁ」
あの二人のことでしょうか?そんなことよりもあなたを見ていたい。
「いらねぇ」
腕を動かしている。素晴らしい腕。
「向かえぇ、向かえぇ、旨みにもなれねぇゴミぃは向かえぇ!そのあとはぁ、勝手に消滅しろぉ!」
その獰猛な牙といい、ぎらついた目といい、至高のお方とこうして近くで拝見できたのは誉れでございます。あの二人のことなぞ、もはや死人同然。ただ、イーー、
「あぁぁ?なんだぁ?」
イーー、
「ちっ!すげぇじゃねぇかぁ!俺にぃまだ抗おうとすんのかぁ!気に入ったぜぇ!!」
イ…ぃ……
「話せ」
イ、…い……イ…
「嬉しさの極みだぁ!興奮するなぁ!!!あぁ!!!あぁ!!!話せぇ!話せぇ!話せぇ!!!!」
全身から血が噴き出し、強く噛み締めた歯からは、軋む音が聞こえる。
「はぁぁぁぁぁ!!!!なぁぁぁぁぁ!!!!せぇぇぇぇぇ!!!!」
……イ……
「いい加減そのくさい口を閉じなさい!吐きそうだわ!うっぷ」
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