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8.約束

中村と別れた私は取り敢えず姿の見えない九条を捜すことにした。

見渡した限りでは近くにいなかったためまだ中庭の近くにいるのかもしれない。

そう思い中庭の方へ向かっていると救護テント付近に九条と鬼塚先生がいるのが見えた。


なんで!?九条への指導は終わったはずじゃないの?


急いで駆け寄ると鬼塚先生がこちらに気が付いた。


「やっと来たか。お前ら2人とも反省が足りんようだな」


「?」


私はともかく九条はなぜ怒られているのだろう。

そんな疑問を抱いて九条を見ていると彼は口を開いた。


「先生、バケツの水を用意したのは俺です。水をかけたのも俺です。宮永さんは関係ありません」


「嘘を言うな。バケツの水をかけたのは女の子だったと証言は取れている」


げっ!!中庭での件バレてたのか。


人が少ないとは言っても目撃者がいないわけではなかったもんね。仕方ないか…。


「先生、それは確かに私がやりました。九条君は関係ありません」


「何故そんなことをしたんだ。お前らは一体何がしたいんだ」


「手が滑ってしまったんです。誰かを傷付けるつもりはありませんでしたが、すみませんでした」


本日何度目か分からない謝罪を繰り返す。

先生は何度聞いても同じ答えしか言わない私達にしびれをきらしたのかそれとも時間がないのか反省文を言い付けた。

しかし、分かりましたと私達が頷こうとしたその時、2人の人物が待ったをかけた。


「御手洗先生と白銀さん…」


白銀さんは濡れてしまったスーツからTシャツと見覚えのあるジャージに着替えていた。

おそらく御手洗先生から借りたのだろう。

髪の毛はもう水が滴ることはなかったがまだしっとりと濡れていた。


「すみません。この子達は事情があってああするしかなかったんです。こればかりは大目にみてもらえないでしょうか」


「あなたは…先程の借り物競争に出てた方ですよね。事情というのは?」


「それは言えないですね。あはは」


笑って答えをはぐらかす白銀さんを胡乱気な目で見つめる鬼塚先生。

いや、まあ怪しいよね。

すると様子を見ていた御手洗先生が前に出てきた。


「すみません、鬼塚先生。この子達には私から言い聞かせておきますので後は任せてもらえないでしょうか」


「そういえばこの子達は先生のクラスですよね。しっかりとして下さいよ。次はないですからね」


「はい、ありがとうございます」


どうやら御手洗先生のおかげで何とかなったらしい。

私と九条がお礼を言うと先生は気にしないで下さいと首をふった。

私は九条にもお礼を言うためにそちらを向くと頭を下げた。


「九条のおかげで助かったよ、ありがとう。でも無理に私のことを庇わなくてもいいよ。九条は付き合わされただけなんだから」


「別に俺が好きでやったことだから。…それに連れ去られる宮永を助けられなかった」


「あれは白銀さんが悪いと思う」


「えー、俺は協力しただけだよ?」


へらりと笑う白銀さんにいらっとする。

白銀さんに悪気はなくても朝から白銀さんに振り回されっぱなしだ。

思わず恨みがましい目を向けてしまうのは仕方ないと思う。


「なに、惚れ直した?」


「何でそんなにポジティブなんですか…違いますよ」


「それは残念。それでさっきの話だけど少しは考えてくれた?」


「あれ本気だったんですか…」


「もちろん。俺の専属になってよ、ね?」


そう言うとしゃがみこんだ彼は勝手に私の手を取った。

私としては断りたいところだが、でもそうなると先生が負担を強いられることになってしまう。穢れを祓うなら聖女の力を持つ私の方が適任だ。

それに普段からあんな風に穢れを撒き散らされる方がよくないだろう。そう考えると私には断るという選択肢は残されていなかった。

諦めのため息をつきながら分かりましたと返事を返そうとした時急に後ろから体を引っ張られ、気が付くと九条が私の目の前に立っていた。


「アンジュは渡さない」


私を庇うように立つ九条。

一体どうしたのだろうか。

困惑しながら九条を止めようと手を伸ばすとぎゅっと手を握りしめられた。


「へえ、立派なナイト様がいるじゃないか。頼もしいねえ」


そんな緊迫した空気を壊すかのように白銀さんはくすくすと笑う。


「ごめんごめん。別に奪うつもりはないんだ。ただ宮永ちゃんの力を借りたいだけ。九条君だっけ?君も傍にいてくれて構わないからさ、ね?」


何も言わない九条の代わりに私は力を貸すことを約束した。

その後白銀さんは連絡先を書いたメモを私に渡すと仕事があるからと言って手を振りながら立ち去っていった。

ジャージ姿なのに仕事とか大丈夫なのだろうか。

替えのスーツはあるのかと余計な心配をしている私の横で九条が何か言いたげに私を見つめていた。


「…九条、そんなに見られると困るんだけど」


「なんで断らなかったんだ」


「だって白銀さんは引き寄せてしまう体質でいつも御手洗先生が対処してあげてたんだよ?聖女の力を持った私の方が効率が良いと思う。それに紗良ちゃんの時だって祓ったでしょ?白銀さんだけ助けないのは違うんじゃない?」


「それはそうだが…でも紗良の時は1度祓ってしまえばそれで終わりだった。でも白銀さんはそうじゃない。きりがない程何度も祓い続けることは宮永のリスクも高くなる…」


「そこはほどほどに調整するよ」


だから心配しないでと言うも九条は信用していないようだった。前科がありすぎて信用できないのだろう。でもほら、


「…九条も傍にいてくれるんでしょう…?」


ちょっと苦しい言い訳だったかなとおそるおそる聞くと九条は目を見開き、そしてそっと笑った。


「あぁ、もちろん」


何とか了承してくれた九条をみてほっと息をつく。

私達も頑張る皆の応援をするために席に戻るのであった。



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