7.笑顔
「ちょっと、いきなり何!?」
「…いいから、足を動かせよ」
「言われなくても動かしてるわ!何でこんな急に…」
「……一緒に頑張ろうってお前が言ったんだろ」
中村はいつものふざけてる時とは違う真剣な目でこちらを見る。よく見れば中村の手に白い紙切れがあるのが分かった。おそらく借り物競争のお題だろう。
なるほど、協力しろということか。只でさえ私はクラスに貢献できていないためここは頑張らなければ。
そう思い地面を踏みしめる足に力を入れる。
「中村、スピードあげるよ!遅れないでよね」
「そっちこそ、ちゃんとついてこいよな!」
2人で呼吸を合わせてさらにスピードをあげていく。前を走っていた子をギリギリ追い越して見事1位で到着。
息が乱れて苦しい。
中村も深呼吸をして息を整えていた。その間に係の人がお題を確認していく。
『いや~最後は接戦でしたね!でもまだ安心はできませんよ?それではお題を確認していきます!まずは1位からいきましょう!お題は…笑顔が可愛い子、ですね!おお?何だか甘酸っぱい展開が起こりそうなお題ですね~』
「は?」
私は信じられない気持ちで中村の方をみた。しかし中村はそっぽを向いて視線を合わせない。
こいつ、勝ちたいがために速く走れる私を選んだな?
可愛いかどうかなんて主観が混じるのだから本人が可愛いと主張すれば否定はできないしね。
でも絶対これは人選ミスだぞ中村。お前が選ぶべき相手は隣のクラスの黒川恵美だ!今頃どんな顔で怒っているかを想像するだけで顔がひきつってしまう。
『では、一応確認をしましょう!彼女の笑顔は可愛いですか?』
そんなことをする意味はないのに一応確認のためにといって中村にマイクが向けられる。これはあれだ。観客を楽しませるための演出なのだろう。本当に達が悪いな。
中村は黙りこんでいたが相手が引っ込む様子がないためしぶしぶ口を開いた。
「…宮永は、あー…乱暴だし潔癖症だしすぐに先生にチクるし全然可愛くないけど…」
だからそれ今言う必要あります!?
保護者もいるんだからね!!
今すぐにでもその口をふさいでやりたいけど人の目があるので何とか我慢する。
後で覚えていろよ中村。
キッと睨み付けると中村が一瞬だけこちらを見た。
「全然可愛くないけど…笑ってる時はその、まあ…」
『うんうん、笑ってる時は何ですか?聞こえませんよ?』
「~~~っっ」
中村は可愛いと嘘を言うのが嫌だったのかマイクを突き返すと1人退場門へと向かっていった。
『ありゃ、これはやりすぎてしまいました。お題はOKでいいですよね?…はい、大丈夫です!では2位の方いきましょー!』
皆の興味が他に向かったのを確認して私も中村を追いかける。
「中村!大丈夫?そんなに嘘でも言いたくないなら私じゃなくてちゃんと可愛い子選べばよかったじゃん。見てた私の方も居たたまれなくなったでしょ」
「……」
足を止めてもらうため私は無視をする中村の前に回り込み顔をのぞきこんだ。ようやく中村と視線が合ったが機嫌が悪い。
「…やっぱり私のこと怒ってる?あの時はごめん。悪口言うなんて良くなかった。本当にごめんなさい」
私は頭を下げた。機会なんていくらでもあったはずなのにずっと自分に言い訳をして謝罪をしてこなかった。きっと中村は私のこと呆れているのかもしれない。
そのまま頭を下げ続けていると頭上からため息が聞こえてきて思わずびくりとしてしまう。
「…ブスとか本気にすんなよな」
「え?」
中村はキョトンとする私の腕を掴むと引き寄せて耳元で呟く。
「…そこそこ、まあまあ、それなりに可愛いんじゃねーの?バーカ」
目を見開く私を見て中村は顔をしかめるとくるりと背を向けた。
「中村!」
遠ざかる背中に私は声をかける。
「中村もそこそこ格好いいと思うよ!」
「今さらだっつーの、ブース!」
舌を出してあっかんべーをする中村に私は思わず笑ってしまった。