4.ひみつ
救護テント近くの方まで連れていかれた私達をその場で先生は叱り始めた。
「カゴではなく人に向かって投げるとはどういうことだ!怪我でもしたらどうする!!」
「す、すみませんでした…」
先生の言うことはごもっともである。
でもあの時はそれしか思いつかなったから…なんて言っても先生には分からないよね。
ああ、こうしている間にもまた穢れを撒き散らされているのに。
焦りを感じながら先生の指導を受けていると、私が別の事を考えていると感じたのか先生がさらに怒鳴り始める。
「宮永、お前ちゃんと分かっているのか!」
「先生、宮永さんはそろそろ次の競技が控えています。そろそろ解放してあげたほうがいいのでは?せっかくの運動会に出れなかったら見に来ている保護者の方もがっかりされると思います」
「……宮永はまた後で指導だ。行きなさい」
「はい、すみませんでした!」
先生に頭を下げた際にこっそりと九条にお礼を言う。ついでに1つ頼み事をしてそれに九条が頷いたのを確認した私はくるりと振り返った。
アナウンスでは借り物競争の出場者の呼び出しがかかっており、入場門の方へと駆けていく。少し息を切らしながら待機場所に着くとそっと列の中に紛れ込んだ。先生の諸注意を聞き流しながら穢れの気配を探っていると同じく待機していた中村と視線が合ってしまい思わずそらしてまう。
今だに謝ることができておらず気まずい気持ちであったのだが、向こうはそうでもないのか小声で話しかけてきた。
「おい、玉入れの時九条と何やってたんだよ」
「見てたの…?」
「あんだけ変なことしてたらそりゃ目立つだろ」
まあそうだよね。あの時は足止めすることに必死だったから気付かなかったけど、端からみたら奇行でしかないよね。
「ちょっと手が滑っちゃって」
「どうやったらカゴとは真反対の観客席に投げられるんだよ」
「私も九条もコントロールが壊滅的だったんだよね」
実際には九条のコントロールは完璧だったけど。
中村からの追及から逃れるために苦しい言い訳を続けていると中村は不機嫌な顔で黙りこんだ。
「……俺には言えないんだな」
ボソリと中村が呟いた。
スピーカーから流れる音楽や周りの話し声で上手く聞き取れなかった私は中村に問いかけようとするも入場のアナウンスに邪魔をされてしまった。
何となく気まずい雰囲気のままが嫌で先を行く中村に声をかける。
「な、中村!」
「……」
「一緒に頑張ろうね」
「……」
大きな声で言ったから聞こえているはずだけれども中村が振り返ることはなかった。