九話 デッドエンドの討伐
荒地に踏み出した俺たちは奥まで進んだ。
そうしてそこまで進んだ時。
俺達と同じくらいの大きさの骨の化け物が地中から飛び出してきたのだった。
右手には剣を左手には盾を装備して風貌は勇者そのもののように見える。
骨の勇者というのは実に面白いものだが。
「ニンゲンヨ、ヨクキタナ」
「しゃ、喋れるのか?」
どうやって動かしているのかは全く分からないが、その口をパクパクと開閉させて話している。
話せるなら少し話してみるか。案外話の分かる奴かもしれない。
「よく来てやったぞ。喋れるなら丁度いい。この前かけた死の誘いを解除してくれないか?」
「ドレノコトダ?ワカッタトコロデカイジョハセンガナ。ガッハッハッ」
目の前の骨は外道でもないと口にしなさそうなことを愉快に笑って口にしている。
喋れるが話は通じないクソ野郎ということは分かった。
「ソウラ。キサマラモシヌガイイ」
デッドエンドはその剣を振ると魔法を発動させた。
「シノイザナイカラハニゲラレヌゾ。ガッハッハッ」
俺達を蛇行して追いかけてくる黒い煙のようなもの。
「そこだ」
それに近付くと直接は触れないように急所に魔力をまとった拳を叩き込んだ。
「ナ、ナニ?!コノワタシノマホウヲハカイスルダト?!」
「きゃー!」
しかしサーシャ達は俺のようにこの魔法を潰せないし死の誘いを受けていた。
さっさと倒してしまうか。
「驚いてるところ悪いんだがな」
振り返ると骨のくせに驚いているらしいデッドエンドの顔があった。
残念ながら魔法にも弱点はあるのだ。
そこを突けば魔法というものでもその形を失い効果を無くす。
「こっちは時間がないんだよ」
そのままデッドエンドに突っ込むと軽快な動作で懐に入り込む。
「ヨルナ!ニンゲン!」
その手に持つ立派な剣をぶん回しているが当たるわけもない。
全部見えている。こいつの剣が通る軌道も何もかもが。
「インファイトで1番強いのは拳なんだよ。骨野郎」
間合いに入ってしまえばこちらのものだ。
中距離から牽制のできる剣の強みではあるが、間合いにさえ入ってしまえば小回りの効き出の早い拳の方が強いに決まっている。
「俺は剣は使えないが拳なら使えるぜ」
「マ、マテ!ハナシヲキク!」
「おせぇんだよ骨野郎」
俺は己の持つ最強のケンをこいつの弱点である胸につき入れた。
「ゴァァァァ!!!!!!」
それ1発で倒れていくデッドエンド━━━━のように思われたが、奴は倒れなかった。
「ホーネッネッネ!!!アマリナメテクレルナヨ?ニンゲン!コノホネハダイヤヨリカタイノダ!!」
「そうか」
ちゃんとした弱点なら問答無用でぶち抜けるかと思っていたが無理だったようだ。
どうやら、倒せなかったらしい。
一旦下がると怯えているルーナに話しかける。
だが一つ考えがある。
「弓と矢を貸してくれ」
「え、うん」
戸惑う彼女から半ば強引に弓を受け取る。
「キサマノジマンノコブシデクズセナカッタコノカラダヲドウコワスツモリナノカミセテクレ!」
完全に勝ち誇っている骨野郎。
その間も何度も死の誘いの魔法を使ってくるが全部破壊する。
「「「いや!」」」
だが、ルーナ達の声が同時に上がる。
そちらにまで手は回らないが、まだ猶予はあるし先に俺がこいつを倒せば問題ない。
いざとなれば俺の鑑定スキルでピンポイントでデバフだけを消せるだろう。
「ホーネッネッネ!デバフヲカサネテヤッタ!ハヤクシナクテハソノムスメタチハシヌゾ!」
「死ぬのはお前だよ骨野郎。遺言は用意したか?」
準備は終わった。
弓を構える。
狙いは先程と同じ胸の部分。
「なぁ?知ってるか骨野郎」
「ナニヲダ?」
「サーシャ」
「な、何ですか?」
彼女の耳元で囁いて弓矢にとある無属性魔法をかけてもらう。
その魔法を使えるかどうかは賭けだったが、使えるらしいので助かった。
とは言え無理でも偶然その魔法と同じことができる道具を持っているので問題はなかったが。
「ナニガコヨウトコノサイキョウノカラダニキズハツケラレナイゾ!ニンゲン!ガッハッハッ!」
なるほどな。
俺の一撃を防いで慢心しているらしい。
有難い話だな。
「別に傷は付けなくていいんだよ」
「ナンダ?」
弓矢の先からドロドロと溶け落ちる液体。
「なぁ骨よ。知っているか?」
最後の言葉くらい聞いてやろうか。
「ナンダ?」
まだ自分の優位を信じて疑っていないのか答える声は変わらない。
「骨は酸で溶けるんだよ。お前の骨は砕かなくていい。壊さなくていい。硬くてダメージが通らないならば問答無用で━━━━溶かせばいい」
知識として知っていた。
骨は酸性の液体で溶けることを。
そして今スキルで確認してみたがこいつの弱点一覧には酸の文字があった。
「サン?」
「飛べ!酸の矢!!」
ヒュン!
風を切る音が鳴る。
不思議そうな顔をするデッドエンドに向けてギリギリと引き絞った弓を放ったのだ。
「ホーネッネッネ!ソンナヒョロヒョロノヤデナニガ………」
開いていた口が途中で止まった。
間抜けだな。
「ふっ………」
思わず笑ってしまった。
「す、凄いです!ほ、本当に穴が開きました!」
シエルが言ったようにあのかなり硬かった骨に穴が空いている。
無事に矢は反対側に抜けていた。
同時に体を倒していくデッドエンド。
「バ、バカナ………コノフハイノワレヲタオストハ………」
自分の胸の穴を見て信じられなさそうに首を捻っているデッドエンド。
「ミゴトナリ………ニンゲン。シカシオマエハイッタイ………ナニモノ?」
「ただのエースだよ。冥土の土産に覚えてろ」
そう答えると複数本の骨を残して消えていくデッドエンド。
「あ、あれ?」
驚いているサーシャ達のステータス項目には死の誘いの文字は見えない。
どうやら解除に成功したらしい。
この様子ならシエルのお母さんも大丈夫だろう。
そう思いながら三人の方に向かった。
「し、死ぬかと思ったよー」
戻った俺の胸に抱きついてくるルーナ。
「お、おい?」
「私も死ぬかと思いました」
「私もです!エース様ー!」
ついでと言わんばかりにシエルもサーシャも飛び込んできた。
まさか3人に抱きつかれるとは思っていなかったな。
「お、おい離れてくれ」
それにこうやって女の子に迫られるのは初めてだからドキドキしてしまう。
「嫌だもん。怖かったもん」
離れようとしない。
落ち着くまで好きにさせるか。
※
街に戻って確認するとシエルの母親からも死の誘いのバッドステータスは消えていた。
どうやら間に合ったようだ。
それどころか
「死の誘いが消えたぞ!」
「うぉぉぉ!!!!何故だかは分からないがバンザーーーイ!!!!」
「誰かがデッドエンドを倒してくれたのか?あの世界最強とまで呼ばれているモンスターを倒してくれるなんてほんとにありがてぇ!!!!」
街中からそんな声が溢れていた。
「死の誘いを貰ったやつこんなに多かったのか?」
「多かったみたいだね」
俺の知らない間にデッドエンドが街に襲撃してきたのだろうか。
そう思うくらい死の誘い状態のやつが多かったらしい。
「何でこんなに死の誘いが解けたやつが多いんだ?」
「少し前に大規模な死の森攻略作戦があったからだと思います」
「それで貰ったのか」
シエルの言葉で理解する。なるほどな。
経緯は分かった。
「大変だったんだな。みんなも」
それにしても死の森を攻略して何をしようと思ったんだろうか。
引きこもりの俺でもあの森のやばさは知っているのだ。
奥まで行って帰ってこれた者はいないとすら言われている恐怖の最難関ダンジョンなのに。
「まぁ、兎に角回復できたようでよかったよ」
今言えることはそれだけだ。
それに特に大したことはないだろう。
「しかし、デッドエンドの討伐をするならギルドの連中に見てもらっていた方が良かったな」
「たしかに、そうだよね」
その辺を忘れていたな。
今の俺では発言権がないのだからギルドのお墨付きを貰えばよかった。
そこまで頭が回っていなかったのは失態か。
だが、それでぐちぐちしていても仕方ない。
「仕方ない。直接王城に向かおう」
「え?」
「へ?」
「はい?」
俺の言葉に謎の反応を示す3人。
「ん?だってデッドエンドの討伐が終わったこと報告しないといけなくないか?」
じゃないと報酬も貰えないだろうし。
「そもそも今のこの状況じゃデッドエンドの素材だって買い叩かれる恐れがあるから先ずは国王に会いたいところだ」
「流石に会ってくれないんじゃないかな?」
ルーナはそう思っているらしい。
が、そんなもの関係ない。
「会いたいと言わせれば問題は無いからな」
俺の中にそう言わせる計画は既にあるのだ。
「という訳で行くぞ」
「えぇぇ?????」
3人の声が響き渡った。
※
俺達は王城の門の前まで来ていた。
「緊張するね」
「そうか?」
ルーナの言葉に答えたところ彼女は転けかけた。
「そうか?じゃなくて今から一番偉い人に会おうとしてるんだから当たり前だよ」
「そうですよね。それを考えるとエースは度胸がありますよね」
「当然です。私のエース様は常に最の強でなくてはなりませんから。つまりですね、度胸もあらねばならぬというわけですね。流石私のエース様です。私が惚れただけはあります」
いつの間にか俺はサーシャのものになっているらしい。
「兎に角行こうぜ」
門の前には門兵が立ちこちらを見ているがそんなものに怖気付いている場合ではない。
1歩踏み出す。
「何者だ」
「デッドエンドを倒した者だ」
結局門兵の質問には素直答えることにした。
さぁ、どう出てくるか。
ブクマ評価ありがとうございます!