七話 ノーランクとSランクの決着
「これは本物だ。断じて偽物ではない」
そう言い切るとガラッと変わった空気。
さっきまではこんなに荒んでいなかったのに今では殺伐としていた。
誰も何も言葉を発さない中俺は口を開く。
「聞こえていなかったか?このダイヤは本物だ」
「そこまで言うなら証拠を出せ!世の中それが全てだ!」
「発掘者はサーシャ」
そう告げると後ろにいた女性がビクッとはねた。
「私まだ名前名乗ってませんよね?」
「名乗っていないよ。俺の鑑定スキルで君の名前を見た」
そう答えてから俺は男をもう一度見た。
焦りが出ているように見える。
俺が名前を言い当てたことにより俺が何かしらの力を持っていることは理解したのだろう。
だが俺も鬼ではない。一応最後に確認しておこうか。
そう思い男達を見た。
「この人が発掘してきたダイヤでそれを偽物だ、と。そちらの主張はそれで宜しいか?」
「あぁ。そうだよ。偽物だよこれは」
黒い服に身を包んだ鑑定士の男は冷静にそう口にした。
その顔いつまでもつか見ものだな。
「鑑定士ジャスビーか。覚えたよ」
男に目をやるとウィンドウに名前が出ていたので読み上げた。
「な、何故それを」
明らかに動揺する男。
当然だ。出会って数秒の全く知らない男に名前を言い当てられれば驚くだろう。
「鑑定スキルのランクはSランク。これはこれは本当に随分高いようだな」
その言葉に一瞬口を歪めていたのが見えた。
まだ勝ちの目があると思っているやつの顔だ。
ちなみにこれに気付いたのはスキルの力ではない。
単純な俺の観察力。
「そうだ。君とは違うんだよ私は。君のようなド三流の遊びの鑑定スキルとは違うのだよ」
「何言ってるのよ貴方のよりエー………もがっ!」
ルーナが口を開いて余計なことを言いかけていたから右手で塞いだ。
「さーてね。遊びの鑑定スキルはどっちかな?」
「子供の鑑定屋さんごっこに付き合う暇は私にはないんだ。退け」
苛立っているのか強引に動こうとしたジャスビー。
それを見て更にスキルを発動させる。
ウィンドウがいくつも出てきた。
表示されるのはこれまでのこいつらの直近の行動。
その中の情報からこいつが激情する程の効果的そうなものを選ぶ。
「ジャスビー、昨日は少女に不死鳥の羽を金貨100で売った。全財産を出したみたいだが偽物だ。馬鹿が」
前半は本当のことだが、後半は自分で考えたこいつの心の声だ。
「!?」
口にすると露骨に狼狽えた。
思ったより効果があったらしい。
「お前………その話どこから聞いた?」
ヤクザ風の男が口を開いてくれた。
こうやって地位を利用して誰にも何も言われない詐欺を繰り返してきたからどう反応すればいいのか分からないのだろう。
「どうやら正解みたいだな。答え合わせしてくれてありがとな」
2人に礼を言っておく。
こうやって自白してくれないと、ノーランクの信頼もない俺に勝ちの目は薄かったろうが何とかなった。
これで俺の勝ちだ。
口が歪んだ。
だが反対に二人は逆に顔を赤く染め上げる。
「やれ!殺せ!!!!皆殺しだ!!!!!」
「はい!」
ヤクザの指示に答え飛び込んでくるジャスビー。
それに合わせて懐に潜り込む。
「遅い間抜け」
「いつの間に?!ガっ!」
ドン!
俺は驚く男の首に手刀を振り下ろした。
それで眠り倒れる男。
「あんたも眠るか?」
「ひ、ひぃぃ!!何だこいつ!!!!」
ヤクザに近付く。
だがまぁ、これ以上やるのは辞めておく。
ここから先は俺の仕事ではないだろう。
「衛兵さん、全部聞いてたんだろ?」
俺が外に向けてそう声を放ると中に人が入ってきた。
「私が待機しているのがよく分かったな君は、確かに全部聞かせてもらったよ」
入ってきたのは薄い金色の髪を腰まで伸ばした女性。
真面目そうな人だ。
「別に大したことじゃない。偶然あんたがそこで待機しているのが見えただけだよ」
扉のすぐ横の壁を指差す。
彼女はずっとその壁に張り付いて様子を見ていた。
これはルーナが事前に呼びに行ってくれていたお陰だ。
「もっと早く来てくれたなら俺も荒い方法を取らずに済んだのだが」
ジャスビーを彼女の前に投げる。
「当然、悪いやつは拘束してくれるんだろ?」
「勿論だ。詐欺はダメだな」
よかった。流石に衛兵までは腐ってはいないらしい。
「ま、待て!私たちが少女に詐欺なんて嘘に決まってる!」
「ならさっきの、やれとか、殺せとかは何だったんだ?あんたずっと前にボロを出してんだよ。それに俺達を消そうとした罪もある。逃げられると思ってんのか?だからバカなんだよ」
まだ言い逃れできると思っているのが驚きだ。
「ぐぅっ………」
それきり何も言えなくなる男。
「ほんとにバカだなぁ。そんなめちゃくちゃな話でこれをなかったことにしようだなんて笑いもんだぜ?」
軽く笑って衛兵に捕まる男を眺める。
「覚えてろよ………貴様」
「おぉ〜怖いね〜犯罪者なのに反省の色はまーったくなし。こんなこと言ってるし衛兵さんおまけの刑期あげてやって欲しいんだが」
「脅迫で検討しておく」
それを聞いて顔を青くする男。
それにしても本当に検討してくれるらしい。
ざまぁみやがれ。
「私の名前はフィオナ」
衛兵の人が作業をしながらこちらを向いてきた。
「君の体術は素晴らしいものだった。それと動体視力と身のこなし………衛兵である私すらひとつの芸術を見ているようだったよ。本当にすごいとしか言いようがなかった」
「そりゃ、どうも」
「名前を教えて貰えないだろうか。君に興味がある」
「エース」
「エースか。覚えたよ。冒険者だよね?また会えるといいね」
そう言って男2人を引きずって出ていくフィオナ。
「た、助かりました。エース様」
全てが終わって振り向いた瞬間サーシャが胸に飛び込んできた。
「助けてくださりありがとうございます」
「困ってる人は放っておけない性分でね」
「素敵な方ですね。その、本当にありがとうございます。何かお礼をしたいのですが」
「別にいらないよ」
「なら私をパーティに加えてはくれませんか?足は引っ張りませんので」
その申し出は驚いた。
冒険者なのはたしかに知っているが。
「この宿の主じゃないのか?」
「もう、辞めてしまおうかなって考えていたのです、エース様を最後の客にして」
俺の胸に右手を当ててそう言ってくる。
その顔は赤い。俺の方が赤い気もするが。
「エース様がくるまでお客さんがこなくて困ってたところなのですよ」
「そうだったのか」
「もうこのまま借金を積み重ねて経営する意味もなさそうですし。お願いします」
そうか、ならば困ってる人は助けたいからな。
「いいよ」
「宜しいのですか?」
「うん」
そう言うとパーッと笑顔を作り喜ぶ彼女。
「よろしくお願いしますエース様。何処までもお供致しますとも!」
その言葉に俺も微笑んで返す。
何処までもお供してくれるのか。
それは頼もしい限りだな。