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五話 過去の事

修正内容

ルクスブルク家がエースを嫌っていた理由といじめを素直に受けた理由の追記を行いました。


 シャワーを浴びて今日一日であったことをまとめる。

 本当に色々あったな。


「それにしてもルクスブルクを出るなんて自分じゃ考えられなかったな」


 小さな声で呟く。


「あのメイド可愛かったよな」


 あの家での日々を思い出す。

 我が名門ルクスブルクは貴族の家でメイドも雇われていた。


 そのメイドだが中に可愛い子がいたな。

 その子を舐めるように見てハンニバルの奴に半殺しにされた件は記憶に新しい。


『このルクスブルク家の面汚しが。汚い目でメイド如きに欲情する暇があるならば剣を握れこのクズが』


 と、罵倒されたのも思い出せる。

 ひどい言葉だと思うが、まぁ、実際面汚しだったのは否定しない。


「しかし、まぁ男に罵倒される以上の屈辱はないよな」


 呟きながら頭を洗う。

 昨日も風呂には入ったが最近までギトギトになっていた髪を水で濡らすとすごい汚れが取れていくようだった。


 にしても若返りの薬は髪も若返らせてくれたら良かったのにな。

 若かったころのあの髪に戻っていれば洗う手間も省けたのに。

 どうやら欠陥品だったのかもしれないが若返れただけましか。


「ねぇ、エースいる?」

「何だ?」


 そんなことを考えていたら扉の向こう側から声がかけられた。


「ちゃんと洗ってる?」

「洗っている」

「洗ったげようか?」

「はぁ?」

「開けていい?」

「いや、だめだろ」

「どうして?」


 どうして、なんだろう。

 無性に恥ずかしい思いはある。

 こんなこと思ったことないしメイドにも洗わせようとしたこともあるくらいなのに………心も若くなっているのだろうか。


「開けるね?背中とか洗いにくいでしょ?」

「ちょ、待て!」


 立ち上がった時には遅かった。


「………」

「………」


 俺たちの視線が合った。


「な、何で立ってるの?」

「そっちこそ開けなければ良かった話だろう?」


 急いで閉めようとするがルーナがそれを阻止する。


「………背中洗ったげる。本当に臭いからこれからも一緒にいると思ったら洗いたいの」


 何故か顔を赤くしているし不快な顔は一切していない。

 本当の理由は別のところにあるかもしれない。


「………好きにしろ」


 用具を渡して背中を見せてから椅子に座る。


「何これ凄い傷。何があったの?これ」


 ………しまった。

 油断していた。

 傷はかなり消したと思っていたが若返った時にそれも戻ったのかもしれない。


「気にするな。猫に爪を研がれただけだ」

「嘘だよね?これ尋常じゃないよ。何これこんなのあっていいわけが無いよ。モンスターでもこんなに傷付けないよね?」

「………」


 もう、全部話そうか。

 仮に彼女が話を漏らして俺の存在が知られてハンニバルが来ても、今なら逆に追い返せそうだしそれはそれで面白い。

 そもそも突飛過ぎて信じてくれるかどうかから、か。


「今から話すことは独り言だ。信じないなら信じないでいい。ただの妄想だから」

「うん」

「俺の名前はエース・ルクスブルク。ルクスブルクの子だ」


 それを聞いて息を呑んだのが背中越しに分かる。


「ルクスブルク家の息子として生まれた俺はその瞬間から勝者になることを義務付けられていた。英才教育ってやつだ。勉学はもちろん、剣術や体術などもやらされた」

「これはその時の傷なの?それにしては酷すぎるけど」

「いやそれは虐めによるものだ。兄弟たちに剣で切り付けられた」

「虐め?」


 頷く。


「俺はルクスブルクの子として生まれたが酷く出来が悪かった。何をしても他の連中に遠く及ばなかった。それを不満に思った父は勿論他の兄弟にも虐められた。そして俺はそうしている内に親の手により無かった事にされた」


 兄弟に及ばなかっただけではなく他の貴族の子と比べても俺は出来が悪かった。

 だから親父は余計に俺に厳しかった。


「監禁された、とか?」

「監禁はされていない。俺も外に出ることを嫌がったから特に監視されていたわけではなかった。でも、今回逃げ出した」

「どうして?」


 緊張した顔で聞いてくる彼女。


「この国………いや世界が滅ぶから」

「どういうこと?」

「『滅亡の竜』とやらの復活を馬鹿どもがして世界が焼き払われるんだとよ」


 とても信じられないことだが、俺はそういう話をある日知ってしまったのだった。

 そうあれはハンニバルの部屋にメイドの下着を置いて窃盗罪の罪を擦り付ける嫌がらせをするために入った時だったな。


 偶然目に入った書類にやばそうな計画が記されていたのだ。


「それはマズいと思って飛び出たって訳。そしてそれは同時にチャンスになった。これを止めれば俺は一躍ヒーローになれる。それからあのルクスブルクの名を地に落し、犯罪者であることを世界に教え、絶望させるという復讐をすることができるのだから」


 だから俺は飛び出した。

 あいつらゴミ共の人生を終わらせるために。


「でも今の姿のままじゃいずれバレる。そう思った俺は夜な夜な家を抜け出し、素材をかき集めこのスキルを使ってとある薬を作った。それが、若返りの薬」


 鑑定スキルは俺に必要なものを教えてくれた。

 何かを作りたいと思えばそれに必要な素材を教えてくれた。

 それどころか作り方も教えてくれたのだった。


「俺は本当は冴えないおっさんだ。今これだけ若いのは薬を飲んだせいだ」


 喉を鳴らして笑ってから聞くことにした。


「こんな話信じるか?」

「信じるよ」


 あっさり答えたルーナ。


「酷い。酷すぎるもん。そんなの、私はエースを信じる」

「ルーナ………」


 俺はこの時初めて人の温もりというものを感じた気がする。


「ありがとな」

「一緒にその計画を止めようよエース」

「あぁ。止めよう」


 そっちの方にも協力してくれるらしい。有難い話だ。

 だがどうやってこの事実を公開しようか。そこは難しい話だ。




 服を着替えて居間まで戻ってきた。


「臭いは取れただろうか?」

「取れたよ」


 訊ねてみたが取れたみたいだ。


「それならよかった。もう不快にさせなくていいな」


 今まで着ていた服を片隅に投げておく。

 今度処分しておこう。


「うん。やっぱり似合うよそれ」


いい機会なので早速ルーナに選んでもらった服を着てみたがそう言ってくれた。


「そうか?」


 今までそんなこと言われたことないから少し照れる。

 それからしばらくしたころ。


「私ね、親がいないんだ」


 急にルーナが口を開いた。


「友達の親に面倒見てもらって何とかここまで来たんだけどやっぱり本当の子じゃないからね。居心地悪くて冒険者になれる年齢になったら家出て1人で生活してたの」

「俺より凄いじゃないか。俺はハンニバルの脛を齧りまくってただけだし」

「そんな事ないよ。エースの方が辛かったと思う。本当の親に拒絶されて虐められてそれでも何とかしてきたんだし」


 こんな時まで俺のフォローを忘れないなんて、優しい子だなルーナは。


「それにそんな時宿代が払えなくなって困っていた時にイチかバチかでキングボアを倒しに行ったけどあの有様、そんな困っていた時に来てくれたのがエースなの。本当に感謝してるよ。それでねここにいてもいいかな?」

「いいに決まってるだろ」

「うん。ありがとう」


 ほほ笑んだルーナはとてもかわいかった。


「それと一ついい?気になってたんだけど」

「ん?」


 気になっていることって何なんだろうか。

 

「すごいスキル持っててどうして家族達はエースを嫌ってたの?無敵なのに」

「剣術の評価方法だが親父との模擬戦だ。評価項目は純粋な剣術のみだったからスキルの使用は禁止されていた。後は分かるだろ?スキルがないと俺はぼこぼこにされる、おまけに剣の腕は誰よりも劣っていて誰かに勝てるわけがない。だからルクスブルクの面汚しって呼ばれた。剣の名門であってスキルの名門ではないから」


 あの家は純粋な剣術のみを極めようとしていたから俺はゴミ扱い。

 俺が基本的に拳で戦うのは剣の腕は壊滅的になかったが拳だけはまだましだったから。


「それとあんな傷だらけになるくらいまで躱しもしなかったのはどうして?エースなら躱せるよね?痛くなかったの?」

「躱せばどうなるか分からなかったから。やはり殺されるのは怖かった。無能な俺の命くらいあいつらは簡単になかったことにするだろう。それに小さいころの俺にとってはあの家こそが世界のすべてだった。だから歯向かって余計に嫌われるのは避けたった」


 元々無能の命だ。

 奴らのストレス解消道具としてくらいしか俺の存在意義はなかった。

 

「酷いねそんなこと貴族だからって何をしても許されるわけないのに」


 憤慨しているルーナだがそれこそが剣の名門として地位を維持し続けたあいつらのやり方だった。

 と、そんな話をしていた時だった。


「おいおい、姉ちゃんよ。これはなんだ?」

「それは、説明した通りダイヤですって」


 下から声が聞こえた。

 言い合う声なように思う。


「ちょっと見に行ってみるか」


 トラブルが起きているらしいしこの声は恐らくこの宿屋のものだ。

 さっき聞いたものに似ている。


「エースって本当に優しいよね」

「そうか?こんなものだろ?」


 俺はそう思う。

 ま、なんでもいいが下に降りることにしよう。

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