四十一話 役目を果たせただろうか
貴族達の報告を黙って聞く。
俺達が鉱山を攻略してから国は本当に豊かになった。
「王。民から報告があります」
「どういう報告だ?」
俺の資源配分というのは間違っていなかったのかそのまま順調に国は大きく豊かなに成長してくれていた。
特にある物の出現が大きかった。
いや、具体的に言うならば出現ではなく俺が生成したのだが。
「転移結晶の新たな配置に成功しました!」
「そうか。俺としても嬉しい話だ」
転移結晶………文字通り物の転移を可能にする結晶だ。
場所を一瞬で移動する方法なのだが今までは魔法によるものしかなかった。
しかもかなりの高位魔法で誰もが使える夢のような魔法というものでは当然無かったわけだ。
それが高位魔法と呼ばれる理由。
「これで物の移動もかなり楽になり更に国は成長するかと思われます」
貴族の報告を聞く。
ふむ。それなら俺も王として願ったり叶ったりの話という訳だ。
これで前の王やシドにも恥ずかしくて顔向け出来ないということは無いだろう。
国を豊かにする。俺は王としての使命を果たしているのだから。
だがここからだという気持ちもやはりある。
これを最低でも維持しなくてはならないから。
「とと」
その時だった。
「え、エルフ!」
会議室がざわついた。
シオンが会議室に入ってきたのだった。
そしてこの国の老人達はまだエルフに慣れておらず少し怯えているらしい。
「こらシオン。勝手に入ってきちゃダメだと言っているだろう?」
「はーいごめんなさい」
反省しているのかしていないのか分かりにくい返事をしてくれた。
まぁ突っぱねられるよりはましか。
そんなことを思う。
「お、王そのエルフは大丈夫なのですか?」
1人の貴族がそんなことを聞いてきた。
「大丈夫も何もただの女の子だろ」
そう答えておく。
「お前たちにはこの子が凶器にでも見えるのか?」
わざとらしく肩を落として聞いてみた。
もしそう見えているなら可哀想とかそういうレベルではないな。
「俺には無害な女の子にしか見えないが?」
そう言うと黙り込む貴族。
初めからそれでいいのだ。
「さてと」
「どうされたのですか?王」
俺が立ち上がるとみんなの視線が集まった。
「俺はこれでもう上がるぞ。あとは任せた」
「お、王?!!!!」
何だか声が聞こえてくるがこんなものは貴族に任せて俺は遊ぶのだ。
※
転移結晶を早速使って街の方まで移動してきた俺達。
「相変わらず凄いですねこれ!」
まだまだこれに慣れないのかそんなことを言ってくれるシオン。
俺も初めてこれの生成に成功した時は驚いたし使った時は感動もあったほどだが今となってはもう慣れてしまった。
「そうか?」
会議も終わり俺はシオンを連れて川に来ていた。
少し前までは汚れていたが今は綺麗になった。
「また来てくれたのですか?どれもこれも王のお陰ですよ」
老婆が声をかけてきた。
「俺は何もしていないがな」
「それはないですよー全部エース王のお陰ですよ!」
そう言ってくれるシオン。
俺がしたのはただスキルで汚れの元を見つけただけだ。
「あ、エース王様!また来てくれたんだ!」
「こらこら王にそんな口を使ってはいけませんよ」
そこでまた子供とその母親がやってきた。
「ごめんなさい」
素直に謝ってくる少女に微笑んで返す。
「気にするなよ。それよりこの川の様子はどうだ?」
「みんな遊んでるよー」
そう言って川で遊んでる子供達を指さした少女。
ふむ。遊べるレベルにまでは綺麗になったようだな。
それならば俺としても嬉しい話だ。
「今日は何をするのですか?」
隣にいるシオンがそう聞いてきた。
「今日は釣りでもしようかと思ってな」
たまにはこうやってのんびり過ごすのも悪くないと思うのだ。
「釣りですか?」
「そう。釣りだ」
適当に持ってきた釣竿を掴むと川の中に投げ入れる。
「そういえばそれは何なのですか?」
「ん?釣竿だけど」
「釣竿?」
「魚を取るための道具だよ」
そうやって話していたら針に何かかかったようだ。
そのまま引き上げると先端には小さな魚が食いついていた。
「わぁすごいです!」
「ん?もしかして釣竿を見た事がないのか?」
「はい!ないですよ。私のいた村では手掴みで取っていたので」
何ともまぁ原始的な取り方をしているな。
「私にもやらせてくれませんか?」
「仕方ないな」
そう言って彼女に変わってやる。
「えい!」
川の中にまた投げ入れた彼女。
「おぉぉぉぉ?!!!!」
すぐ様食いついたようで引き上げようとしていたが
「ぎゃっ!」
逆に川の中に引きずり込まれていたシオン。
それを見ていたら笑えてきた。
「な、何で笑うんですか?!」
その声につられてか周りも笑い始めた。
「もう!!!!!」
顔を赤くするシオン。
それを見たあとに空を見上げた。
何処までも澄み渡る空。
大空には鳥が自由に羽ばたいていた。
こんな日々がずっと続けばいい。
いや、続かせよう。
「エース王!笑ってないで助けてくださいよー!」
その声にまた笑い声が上がる。
未来は明るそうだ。
だが、この時俺たちは知らなかった。
この世界の裏では今現在も裏で動いている奴がいるということを。
放置していた魔人が厄介な計画を立ていたことを。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
一先ずのところでこれにて第一章完結という形にさせていただきます。
ペースは落ちるかもしれませんがこれからも更新していくのでお付き合い頂ければと思います。