四話 素材を売って宿を借りた
俺が死の森の王と呼ばれているデッドエンドを倒すと口にはしてみたがルーナ達の反応は芳しいものではなかった。
「無謀と勇敢は違うんですよ?」
「そうだよ。デッドエンドの相手なんて無理だよ」
到底無理だと思っているのだろうか2人に止められていた。
「なら2人はここにいればいい。俺が1人で行ってくる。世話になったな。ルーナ今日のことは忘れてくれていい。俺も奴を倒した後は報酬でのんびり暮らすさ。最難関ダンジョンの王ならば素材にもそこそこの価値があるだろうし」
そう言って出ていこうとしたら2人に服の裾を掴まれた。
「何なんだ?」
「何なんだじゃないよ。どうして………そうやって命を捨てたがるの?」
振り返るとルーナが目から涙を流し始めていた。
「行かせられるわけないじゃん………命の恩人なんだよ?エースは」
「そう言われてもな」
頭をかく。
俺としてもこうして困っている人がいて話を聞いて、「頑張ってねー」と去るには心が痛い。
だからこの道を選ぼうとしたのだが。
「なら私も行くから。足引っ張っちゃうかもしれないけど連れて行って欲しい」
「いいのか?」
「エースがいいなら」
「別に構わないが」
俺は現状強力な魔法を使えない。
インファイトやタイマンならスキルもあって右に出るものはいないと自負しているくらいだが、複数戦にはどうしても手こずってしまう。
そうなった場合人手が欲しいのは事実だ。
「命の恩人が命捨てに行くって言ってるんだから行かないと」
それにしても俺が命を捨てに行くように見えているのか。
ふむ。もしかしたら俺が偶然キングボアを倒したとでも思っているのかもしれない。
「あのな。1つ言っておくが俺がキングボアを倒したのは偶然じゃないぞ?」
「じゃあどうやって?魔法は使ってなかったよね?」
驚いて目を見開く彼女。
やはりか。偶然だと思っていたらしいい。
「キングボアを倒し………た?」
それを聞いてシエルも目を丸く見開いていた。
「狩猟難易度Sランクですよね?キングボアって」
「そうだよ。私も見てたから間違いないけどエースは確かに倒してたよ」
それを聞いて俺を見るシエル。
その目は信じられないと言いたげなものだった。
「俺の鑑定スキルの特性から話そうか」
今まで説明するのに丁度いい機会がなかったから黙っていたがここで話しておこう。
「俺の鑑定スキルはいわゆる普通のものじゃない。俺のスキルは生物も対象だ。だからそれを見れば今どんなステータスなのかを知ることができる。キングボアを一撃で倒したのもそれだよ。俺にはそいつのどこに弱点があるのか一瞬で分かる。後はそこを潰すだけ」
相変わらず二人とも信じられないものを目にしているような顔をしている。
「そんな鑑定スキル聞いた事ありますか?」
「ないよ。ないに決まってるよ。そんなスキル」
やはりか。この鑑定スキルを持っている人間は俺以外には知らないし。
その俺はルクスブルクの恥として満足に外にすら出して貰えなかったから、そのスキルを使う場面もなかった。
結果としてこんなスキルの存在は秘匿されていたということか。
「一体何者なんですか?エースって」
「それは秘密だ。あまり過去は喋りたくなくてな」
「す、すみません。不躾でしたね」
「別にそんなことは無いが」
気になるのも仕方ないことだと思う。自分でもこのスキルはかなり強いと思っているからだ。
そんなスキルを持った奴の素性が気になるのは仕方ないことだろう。
「でも、ボアと戦った時突進を避けたのはどういうことなの?」
「あれもスキルによるものだ。動きを事前に知らせてくれるからそれを避けるために最適な動きをすればいいだけ。そのあともう一度敵の行動を鑑定して最適な動きで弱点を叩いた、それだけだよ」
「何そのスキル強すぎない?」
羨ましげに見てくるルーナ。
別に俺としては羨ましがられるようなものではないと思うが。 と、話が逸れてしまったな。
「つまり、そういう訳で俺がデッドエンドに負ける要素というのは0に近いわけだ」
初めから弱点が分かっていて、敵の行動も分かっていてその軌道まで分かるのだ。
真剣に戦ってこれで負けろという方が難しいだろう。
「私もついて行ってもいいですか?」
今までの話を聞いてかシエルがそう切り出してきた。
「私はサポーターです。光属性の回復やバフを撒く事くらいしか出来ませんけど、連れていってくれると嬉しいです」
「付いてきてくれるのか?」
頷くシエル。
「私はお母さんを助けたいです」
「そうか。なら来てくれるか?」
「勿論です」
そうか。ならば死の森へはこの3人で行くことにしようか。
※
「こいつぁ………キングボアの素材じゃねぇか。最近じゃ中々討伐できないって聞くが」
俺が倒したのはそこまで討伐するやつがいないほどの不人気なモンスターだったらしい。
「買い取って貰えないだろうか?」
「金貨10で構わないか?」
「あぁ。構わない」
とりあえず提示された額で満足したので頷く。
「ほら」
「ありがとな」
金を受け取ると歩き出す。
さて、何処に泊まろうか。と、その前に。
「服でも見たいものだな」
「最初から気になってたんだけどどうしてそんなに臭いの?エースって」
「ふふ………」
ルーナが聞いてきたのを見て何故かクスッと笑ったシエル。
「最近は忙しくて風呂にはあまり入ってなかったから。服の方もあまり洗っていなかったからな」
「それじゃ臭いのは当たり前だよ〜」
「たしかに。当たり前ですよエース。最低限入らないと」
2人にそう言われてしまったが最近は忙しくて無理だったのだ。
若返りの薬に関しては生成成功確率が低かったので風呂に入る暇も惜しんで素材を集めて試行回数を重ねた。
「今日は入ってね。宿屋なら何処でも付いてる筈だから」
「あ、あぁ。分かった」
それにしてもそんなに臭うだろうか。
自分で嗅いでみるが分からない。
「殺人的な臭さですよエース」
わざわざ鼻をつまんでいるシエル。
それだけ臭いという事なのだろうが、なら入ろうか。
※
「ふぅ………」
適当な服を買って泊まる宿屋を見つけた俺はとりあえず横になった。
シエルは家に戻った。当たり前の話だが母親の世話をしなくてはならないから。
「で、何でルーナがいるんだ?」
「いちゃだめなの?」
自分がここいるのが当然のような顔をしている。
「いや、ダメなことは無いが」
「ならいいよね」
そう言ってゴロンと寝転がった。
「ねぇ、エースの事教えてくれない?」
正直話そうか悩むが。
「………悪い。まだ」
まだ出会って日が浅いどころか時間が経っていない。
しかしルーナは信頼できるって思える。
でもやっぱり口にするのは戸惑いを覚えるのだった。
「いつか話してくれる?」
「時が来たらな」
「何それ」
クスッと笑う彼女。
「意外とその時っていうのは早く来ると思う」
「じゃあ待ってるね」
「そうしてくれると助かる」
立ち上がるとタオルを手に取った。
「体洗ってくる」
「うん。臭い凄いから取ってきてね」
中々酷いことを言う女だ。
そんなに凄いか?
嗅いでみるが自分の臭いなせいかイマイチ分からない。
一応昨日は入ったのだが蓄積された匂いは簡単には取れないらしいな。
早速の評価ブクマありがとうございます。