三十九話 伝説の存在
道を進み声の聞こえた所まで来るとそこには先にダンジョンを進み攻略していたパーティの男が倒れていた。
酷い傷だ。
いったい何があった?
「どうした?」
「そ、その声は王………ですか?」
その言葉に頷く。
「まさか目が見えないのか?」
「は、はい。やられちまいました………」
息を呑む。
こいつは一応Sランクパーティのメンバーだ。
それなりに実力もある。
それなのにこんな風にここで地を這っているということはそうさせるだけの何かがいたということになる。
「いったい何があったんだ?」
聞いてみる。
まさか本当に魔人がいるとでも言うつもりなのか?
「………魔人………です。あの噂は本当だったんです」
「まさか………」
「そのまさかです」
呻きながらそう話してくれる男。
「よく話してくれたな」
スキルを使う。
「ただの目くらまし魔法か。良かったな」
男にかけられていた魔法を解除する。
「犬に噛まれたようなものだ」
そう口にして男の目を開けさせる。
「み、見える………」
驚いたような顔で俺を見る男。
「王は回復魔法が使えるのですか?」
「いや、別に使えないぞ?」
俺がそう言うと驚いたのはシエルだった。
「えぇ?!!!!今簡単に治してましたよね?!」
「それがどうかしたのか?」
犬に噛まれたような弱い魔法だったから取り払ってしまえば直ぐに終わりだ。
「敵にデバフを与える魔法の解除なんてすごい技術がいることなんですよ?!」
そう言っているシエル。
「そうなのか?」
「そうですよ!Sランクヒーラーでようやくどうにか、というところですよ!」
へー、そんなものなんだな。
「と、そんなこと言い合ってる場合じゃないぞ?」
男に目をやる。
「案内してくれるか?」
「は、はい!勿論です!」
※
男に案内されて辿り着いた先には地獄が広がっていた。
「くそ………遅かったか」
「ぐぅ………」
地面に倒れ呻いているSランクパーティ達の姿がそこにあった。
血こそ流れていないことに安心したがこうまでされたのは俺の見通しが甘かったのかもしれない。
「ようやく来たか。遅かったなぁ?」
その時声が聞こえた。
聞こえた方角を見ると少し高くなった崖の上にそいつは立っていた。
「魔人………」
まさか本当にいるとは思わなかった。
「ふっ………ご挨拶なものだな。人間」
そう言って俺を見る魔人。
黒い髪に黒い瞳を持った男だ。
「こいつらに何をした」
「ただ遊んでやっただけだよ」
瞳を閉じて余裕そうな顔をする男。
「何が目的だ」
「俺は尋問されているのか?」
皮肉げに笑う男。
「こいつらに手を出されて黙って見過ごせと言うのか?」
「なら答えてやるが。寝てもらっているだけだよ」
やはり俺の見立ては正しかったか。誰一人重症なようには見えないが。
だが同時にそうして放置しているのはそれだけ自信があるということか。
「………」
スキルを使ってみたが戦闘能力計測不能になっている。
相当なやり手なようだ。
「どうした?人間。襲っては来ないのか?」
ここでこいつと戦えばどんな影響が出るか分からない。
避けるのが懸命かもしれないな。
「今は特に考えてはいない。それより魔人は滅んだのではなかったのか?」
「俺以外は滅んだよ」
そう口にする魔人。
「お前以外?」
「あぁ。俺は最強だから生き残った」
本気か本気でないかは分からないがそんなことを口にしている。
それから男は俺に背を向けた。
「最後に名を名乗っておこうか人間。俺は最後の魔人メルギガス。おっとお前は名乗らなくていいぞ。どうせ直ぐ忘れるからな」
そう言うと笑って何処かに消えていった男。
もうここにはいないだろう。
それを見送ってから指示を出す。
「皆は手分けしてここにいるやつを外に連れて行ってくれ」
とにかくここで寝かせたままにしておくのは不味いしな。
「「「は、はい!」」」
随分舐められたものだな。
しかし奴の力量が分からない以上ここで戦うのは避けたかった。
※
「まさか本当に魔人がいるとはな」
リシアと共に話し合う。
「そうですね。私もまさか本当にいるとは思いませんでした。でも何処へいったのでしょう」
それは俺も分からない。
「ただあんな場所で戦うのは俺も避けたかったしあいつも避けたがっていたように見えた」
「そ、そうなのですか?」
リシアの言葉に頷く。
「あの場所でSランクパーティを寝かせて放置していたのもその辺が関係しているのではないのか?」
文字通り寝かされた訳ではなく目くらましをされていたのだが。俺はそのように思う。
「どうなのでしょうね。ただ王の強さを見込んで戦いたくなかったのかもしれませんよ?」
そう言ってくれる彼女だがどうだろうな。
ま、一先ずは無事にみんなで戻ってこれたことを良しとしよう。
「そ、そのありがとうございます王」
その時1人の少女が近付いてきた。
俺が魔法を解除してやった少女だった。
「別に気にするな。俺も悪かったな。見立てが甘かった。俺の落ち度だ」
「い、いえいえ!誰も思いませんよ!あんなところにあんな存在がいるなんて」
俺をフォローしてくれているが俺の落ち度だ。
反省しなくてはな。
「そうですよ。無理もありませんよエース様」
サーシャもそう言ってくれるが反省はしなくてはならないだろうなぁ。
俺のやらかしだ。
もう少しでみんなをピンチにするところだったし。
「ところであの魔人はどうするの?すごい強そうだったけど」
ルーナの質問。
それは俺も考えていたところだ。
「どうするのですか?」
シエルも気になっていたらしい。
そうだな。
「まだ考え中だ。あいつの目的が何なのか分からないしそれを調べてから、と考えているが」
とりあえずその辺についても調査しなくてはな。
まったく、やる事が増えて困る。
「という訳で皆に何か頼むことも増えるかもしれない。その時はよろしく頼む」
みんなの返事を聞いてとりあえずのところ話を終えることにした。
昨日は更新できず、すみませんでした。
告知なのですがまたいろいろ新作を書いておりまして一本を明日にでも投稿できそうです。
よろしければそちらもお願いできたらうれしいです。