三十八話 作戦開始
そしてやってきた鉱山攻略作戦。
今日はその当日だ。
すでに鉱山内部には侵入している。
モンスターもいたが襲ってくる気配は見えない。
「いよいよですね」
「そうだな」
隣にいるシエルの言葉に答える。
俺の考案した作戦は悪くはなかったようで順調に進んでいた。
もう既にかなり奥の方まで進めておりそろそろ踏破できるのではないかと言うところまで来ていた。
「楽勝ですね」
「余裕だよねー」
サーシャとルーナもそう言っている。
今回ここまで楽に進めたのは彼女達のお陰というのもあるだろう。
そんなことを考えていたら先に進んでいたはずのリシアが戻ってきた。
「王!王!」
息を切らせて戻ってきた彼女。
「どうしたのだ?」
その様子から慌てて戻ってきたようだというのは直ぐにわかった。
「先を進んでいたSランクパーティ達と分断されてしまいました!」
「詳しく話してくれ」
それだけ言われても状況が分からない。
分断されました!とだけ言われて何がどうなっているのか分かる奴がいれば連れてきてほしいくらいだ。
「は、はい!突如壁が崩れて通路を塞がれてしまったのです」
「ふむ。では、魔法を使って退かしてみてはどうだろうか?」
「それが………それだけの魔法を使える者がおらず」
なるほど。話はわかった。
「この先だろう?とりあえず進もうか」
俺達は再び先を進むことにした。
「これか」
それは直ぐにあった。
たしかに道がそこで途切れていたのだ。
ぷっつりと。
「………ふむ」
スキルを使い現状を確認する。
壁や天井の一部が崩れて落ちてきたらしいな。
一応ところどころに隙間はあるが通れるほどのものでは無い。
「となると………」
岩の塊にスキルを使った状態で目をやった。
「そこだ」
手では痛い。
なので足の裏で目当ての場所を適切な力で蹴ってやる。
バゴッ!
岩が割れてそれが連鎖し粉々になっていた。
やがて砂のように粉々になり先に続く道が現れる。
「え?」
それをただ呆然とした目で見つめているリシア。
「どうしたのだ?」
「だって今………蹴っただけですよね?」
「そうだが」
それがどうしたのだろうか。
「え?だって………え?」
「ん?」
戸惑っているリシア。
何だ俺が何か見落としたのか?
それともやってはいけないことをやった、とか?
「まさか今のは蹴って崩してはいけなかったのか?それともあれは落石ではなく本当は壁だった、とか?それなら確かに大変だが」
ちゃんと確認したはずだがそれなら大変だ。
むしろこんなにも呑気に突っ立っている場合ではないだろう。
「早く避難しなくてはならないかもしれないな」
「い、いえ、そういうことではなく!」
両手を前に突き出して必死に身振り手振りで否定しようとしている彼女。
「ならどうしたのだ?」
「まさか………蹴りで粉々にするとは思わなかったので」
そういうことか。
「どんなものにも脆い点はある。そこに衝撃を与えればさっきのように粉々にすることも出来るんだよ」
俺はそれを最も力が少なくて済む方法で実行したに過ぎない。
「これが………王の鑑定スキルなのですか?」
「そうだな」
俺のスキルは全部教えてくれる。
初めは要らないスキルだと言われて俺も悔しかったが今ではこのスキルで良かったと思う。
「す、すごいですね。鑑定スキルでここまで出来るなんて………」
俺を羨望の眼差しで見てくる彼女。
何だか急に恥ずかしくなってきた。
「とにかく、進もうぜ?先にいった連中がどうなったのかも気になるし」
そうだ。この先に行った連中ともさっさと合流しなくてはならないな。
※
「そういえばこの鉱山はどうして今まで未開だったんだ?」
隣を歩いているリシアに訊ねてみる。
未開のダンジョンこそ皆がこぞって攻略したがると思うのだが。
初めてダンジョンを攻略するというのは偉大な事になる場合もあるし。
特に誰も踏み入っていないダンジョンというものはそれだけで価値があるし、冒険者の中ではそうやって攻略して名前を刻むことが夢と語るものも少なくないのである。
「あくまで噂なんですがこの鉱山には化け物が住み着いていると言われているのですよ」
「そうなんだな。どんな化け物なんだ?」
攻略を躊躇う程の噂の化け物となると俺も気になってしまう。
「昔に滅んだと言われている魔人と呼ばれる種族の生き残りがいるという噂です」
「ふむ」
文字通り化け物を想像していたが魔人か。
俺も資料で見たことがある。
魔人は人間と対立していた。
過去にはエルフ、魔人、人間の三角形の対立関係があったという話だ。
だがそれも過去の話だ。
「でも何でこんな鉱山の奥にまた。単なる噂だろ?」
「う、噂なのですが。そうですね。でも時折奇妙な雄叫びが聞こえるという噂もありました」
それもただのモンスターだろう。
俺はそう思うが。
とっくの昔に滅んだはずの魔人が今頃こんな鉱山の奥にいるなんて妄想もいいところだな。
そう思いながら歩き続ける。
普通に考えてあり得ない話なのだ。
「ぐあぁぁぁ!!!!!!!」
しかしその時だった。
「なんだ今の叫び声は」
俺達の歩く先その道の向こうから突如聞こえてきた。
それは耳をつんざくような悲鳴だった。
「わ、分かりません!」
さっきの話を信じるわけではないが。この先で何かがあったのかもしれない。
とりあえず進むべきか。
「とりあえず進むぞ。何かあったからあんな叫び声が上がったのだろうし」
そうと決まれば後は進むだけだ。