三十七話 準備
「美味しい………」
「当然でしょう。私のエース様の用意した食べ物ですもっと味わってお食べなさい」
俺の作ったものを何だと思っているのかは知らないが尊大な態度なサーシャ。
「こんなに美味しいもの初めて食べました」
少女はサーシャに目を向けずに俺を見た。
「そうか」
「これは、何というものなんですか?」
「それはピザというものだ」
「ピザ?聞いたこともありませんが美味しいです」
手を止めることなくどんどん口に放り込んでいく少女。
やがて半分ほど手を付けた頃
「あ………」
「どうした?」
「その、すみません。こんなに食べてしまって」
「全部食べていい。お前のために作ってきたものだし」
「よろしいのですか?」
「あぁ」
頷くと同時にまた食べ始める少女。
食べ終わるのを待ってから口を開く。
「名前は?」
「シオンです」
「シオンか。分かった」
座っていた椅子から立ち上がる。
「今までどんな生活をしてきたかは知らないが今日からはこの王城に住むがいい」
そう告げるとシオンは目を丸く見開いた。
「え、ここ王城なのですか?」
「ふむ。それがどうした?」
「えぇぇぇぇ?!!!!!」
急に驚いた声を上げるシオン。
「待て、どうしたのだ?」
「お、王城なのですか?!ここ?!私処刑されちゃうんですか?!」
「処刑?」
「ひ、ひぃぃぃ!!!殺さないで下さいぃぃ」
椅子から転げ落ちて部屋の隅まで這っていこうとする彼女。
なるほどそういうことか。
「気にするなそういう事じゃない。俺はエルフとの関係も何れはどうにかしたいと考えているのだ。そんなことする訳ないだろ?」
リシアから話を聞いてそう思い始めていた。
いずれ、亀裂のあるエルフとの関係も修復したい、と。
言葉は通じるのだ。きっと分かり合えるはずなのだから。
「そ、そうなんですか?」
「ふむ。嘘をついてどうする?」
「た、たしかに………そうですよね」
そう言って俺の近くに戻ってくるシオン。
「その、助けてくださりありがとうございました」
先ずは俺を言ってくる。
「話は聞きました。貴方が私を助けてくれたって」
「流石に捨て置けなかったからな。それと、だが」
ただこの王城にいてもらうというのは何だかなぁという気持ちもある。
「とりあえずメイドにでもなってくれないか?」
「はい?」
※
「ふむ。良いではないか」
「あ、あのこれは?」
戸惑っているらしいシオンに答える。
「丁度メイドが欲しかったところでな。その役目をシオンに果たしてもらおうかと」
「この服はお上品でなんだか気恥しいのですが」
顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
上はきっちりと体のラインが出るが下はゆったりとしたスカート。
言ってしまえば一般的なメイド服ではあるがそのシンプルさが逆に良かったりする。
シンプルイズベストとはよく言ったものだと感心する。
それにしてもこれをデザインした奴はセンスがあるだろう褒めてやってもいい。
「あの、本当にこの服を着なくてはいけないのですか?」
「不満なのか?」
「そ、そういう訳ではなくて………ただ恥ずかしいのです」
「ふむ。もっと恥じらうといい」
「えぇ?!!!!」
と、冗談はこの辺りにしておこう。
俺にはまだやることが残っている。
この件についてはとりあえずのところサーシャ達に任せることにしよう。
※
「よく集まってくれたな」
会議室に集まってくれた貴族達に視線を送った。
今日は次のダンジョン攻略に向けての話し合いを行おうと思って呼び出したのだ。
「いえいえ王国のことを考えてくださっているのですから招集に応じるのは当然のことですよ」
年老いた貴族がそう言ってくれた。
「感謝する」
そう答えて攻略作戦の中身について話していくことにする。
「ここから少し行ったところにルグマール鉱山というダンジョンがあると聞いた」
鉱山。
ダンジョンの中では特に物資が豊富に埋まっていると言われているジャンルの場所だ。
「ですがあそこは文字通り未開ですよね?」
そう質問してきた一人の貴族。
その言葉に頷く。
「だがいつかは攻略せねば未開のままだ」
そう言うと確かにという呟きがあちこちから洩れた。
「だから今回思い切って攻略したいと思うのだがどうだろうか?」
今ここに集まってくれている貴族に問いかけてみた。
「もちろん攻略することができれば莫大な量の資源が手に入ることだろう」
それはとても魅力的なことではないかと思うのだが。
「そうですね」
私は攻略に賛成です。
一人の貴族がそう言ってくれた。
「私も賛成です」
一人が賛成したならばあとは早かった。
全員が俺のアイデアに賛成してくれたのだった。
「満場一致の賛成感謝する」
今度は具体的な中身について話していくがあらかた決めてある。
「今回はSランクパーティを中心に攻略作戦を組みたい。そして彼らを先頭にして突き進んでいくつもりだ。そしてその後続に荷物というか資源だな。それを運搬させるグループをいかせるつもりだ」
「それは良い案ですね」
「攻略を進めつつ資源の採取もできる効率的な方法ですな。流石は王ですねこんな案を思いつくなど」
いくつかの声が聞こえてきてから、確認の意味を込めて全員の顔を見たが反対する顔は見つからなかった。
よしならばこれでいこうか。
「具体的な開始日だが明後日からというのは可能だろうか?」
見回してみたがいけそうな雰囲気だ。
やることは他にもある。
できることからクリアしていこう。
「長々と付き合わせたな。今回集まってくれたこともう一度感謝する」
そう言って今日の会議を終わらせる。
ちょっと更新ペース落ちるかもしれません。