三十六話 エルフが目を覚ました
エルフの少女は王城まで連れ帰った。
「おーい。大丈夫か?」
ベッドに寝かせたエルフの少女の肩に手を置いて揺らして声をかける。
しかし反応はない。
「気絶してるのか」
スキルを使い確認すると気絶していた。
そりゃ返事もないわけか。
「この子どうしたんですかー?」
サーシャが隣に来て聞いてきた。
「酷く嫌われているようだったから引き取ってきた」
「この子エルフじゃないですか。まだ人間の国にいたんですね」
サーシャは女の子を見て目を細める。
「それがどうかしたのか?」
「エルフは悪魔と呼ばれていて人間とは基本敵対しているんですよ」
「へーそうなんだな」
「て、知らなかったんですか?」
「あぁ。エルフという存在は知っているがそこまではな」
人間もエルフも大差ないと思うがそんなことがあったんだな。
耳がデカくて魔力が高く強力な魔法が使えて美女が多いくらいのイメージしかないし、その他は人間と大差ないはずなのだが。
「何で悪魔なんだ?」
「それはですね。昔色々あったのです。人間とエルフの間で」
「そうなんだな。まぁ昔の話だ。俺は知らない」
「そう言うと思いましたよエース様なら」
ニコッと笑う彼女。
「とりあえず目覚めを待とうか」
「そうですね。私看病しましょうか?」
「頼まれてくれるか?俺もあまり遠くには行かないでおく」
エルフの世話をサーシャに任せて俺はリシアを呼ぶことにした。
※
「というわけなのです」
リシアの説明を聞いて頷く。
どうやらエルフと人間は大昔に戦争を行ったらしい。
決着は付かずに終戦へと向かったが1部の人間の怒りは収まらなかった。
そして仲間を殺したエルフ達を悪魔とそう呼んでいるとの話のようだ。
だがそれも過去の話だ。
「まぁ、理解したが。あの子は違うんだろ?」
「恐らくですが。無理やり連れてこられたのかそういったところだと思います」
酷い話だな。無理やり連れてこられて石を投げつけられても困るだろう。
素直に同情する。
「で、今はエルフとの関係はどうなってるんだ?生憎その辺のことは知らなくてな」
「まだまだよくはないですね。とは言っても向こうから攻めてくるような気配はないですが」
「なら、このまま現状を維持しても問題ないだろうな。こちらからも手を出す必要もなし」
そうして話していた時だった。
「エース王ここにおられたのですね」
正装に身を包んだ若い金髪の女が近寄ってくると俺に跪いた。
いきなりで驚くが何より誰だろう。
見覚えはあるが。
「えーっと………」
「失礼しました。私めは近衛騎士団副団長のミシアと申します」
「すまないな。まだ名前を覚えきれていなくてな」
「いえ、お気になさらずに」
「それよりこの国の団長は女なのだな」
「はい。矮小な身ながら任されております」
俺に頭を垂れるミシア。
「顔上げてくれないか?俺はそんなに敬われるような人間じゃない」
「で、ですが」
「命令だ。顔を上げて立ち上がってくれ」
苦笑しながらそう告げる。
「了解しました。では失礼ながらこの姿でご報告させていただきます」
そう言えば何で近づいてきたんだろう。
言葉を待つことにする。
「こちらを」
そう言って俺に何かを渡してくるミシア。
それを受け取ると指輪だった。
思わず反射的にスキルを使う。
「魔力の指輪………?」
ウィンドウに表示された名前を読み上げた。
説明欄にはSランクアイテムとあり、装備するだけで莫大な魔力を得られるらしい。
どんな大魔法も1人で実現できるようになる場合もあるみたいだ。
みたい、というのは一応人を選ぶ装備らしいから。
ま、俺には不要なものだろうが。
「な、何故それを知っておられるのですか?」
目を見開くミシア。
俺が言い当てたのはどうやら彼女にとっては予想外の事だったらしい。
「知らないのか?今は国王だが俺は少し前まで鑑定士だったって」
とは言え今も鑑定スキルがないわけではないが。
「も、申し訳ございません。存じておりましたがその指輪の名前を読み解くことが出来たのは宮廷鑑定士様のみだったので」
「つまり俺の鑑定士としての力は微妙だと思っていたわけか?」
「そ、そういうことではなく………」
両手を前方に突き出して左右に振って慌てふためくミシア
「エース王。ミシアが困っておりますのでいじめるのはこの辺りにしてあげてください」
「そうだな」
リシアに注意されたことだしこの辺りにしておこう。
「お許しいただきありがとうございます。では、私はこれで」
そう言い去っていくミシア。
伸ばした金色の髪を左右に振りながら去っていった。
「エース様?」
そうしてどうしようか考えていた時だった。
王室のドアが開き顔を覗かせるサーシャ。
「起きましたよ」
※
「調子はどうだ?」
「………」
何も言わないエルフ。
「まぁ、話したくなったら話してくれたらいい」
人間をまだ信用出来ないのかもしれない。
そう考えてたところエルフが口を開く。
「………へ、た」
「ん?」
「………なか、へ………た」
「なか?」
「おなかへった」
最後にはこちらを向いてはっきりと聞こえる声でそう言ってくれた。
「待っていろ何か用意しよう」
そう言うと頷くエルフ。
だが、何を用意しようか。
悩むところだ。
「何がいいだろうか」
隣に来たサーシャに聞いてみる。
「んー、分かりませんね。でもエース様の用意したものであれば天上の食べ物なので何でもいいと思います」
そういうものなのだろうか。
「ふむ。ではあれを用意しようか」
「あれ?」
「ピザだ」
「あぁ、あれならば………きっと満足すると思います」
そこまで言ってようやく理解したような顔をする彼女、続いて可愛い笑顔を浮かべる。
という訳で俺のとっておきを食べさせてあげることにしよう。