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三十五話 エルフの少女

「王買い食いはしないでくださいね。城下町のものには何が入っているか分からないので」

「分かったよ」


 街に繰り出す前にリシアに注意を受けていた。

 王なのだから体に気を使って買い食いは出来るだけ控えてくれとのことだ。


「そもそもこうして王自らが街の様子を見ること自体が異常な事なのだろう?ならそれくらいの約束は守るさ」

「そのようにしてくれると私も助かります」


 柔らかく笑うリシア。

 ふむ。あまり迷惑はかけたくないところでもあるし。


「なら、行こうか」

「はい」


 ルーナ達には城のことを任せることにした。

 妙なことをしなければいいがさすがに大丈夫だろうと考えリシアと共に街に向かう。




 ソレイユの街もシュノーレの街並みに盛り上がっていた。


「へい!らっしゃい!」

「今日はこれが安いよ!」


 店を構えた人々がそうやって客を呼んでいた。


「結構活気はあるな」

「はい。他の国にも負けておりませんよ」


 そう答えてくれるリシア。


「ふむ。特に問題はなさそうだな」

「衛兵達が目を光らせておりますので、表にはよっぽどの事がないと出てきませんよ」

「裏にはあるという認識で問題なかろうか?」

「………鋭いですね王は。申し訳ございません。我々の不手際です」


 申し訳なさそうに謝ってくる彼女。


「仕方ないだろう。何処の王国にも裏というものはあるだろうし」


 そう答えてスキルを使うことにした。

 浮かび上がるウィンドウ。

 見回してみたがこの辺りは問題なさそうだ。


「少し裏の方に行ってみようか。表にいても仕方がない」


 そうしようとした時だった。

 別に裏に行かなくても凄いものを見てしまった。


「この異端者が!」

「悪魔め!これを喰らえ!」


 大勢の人々が広場に集まっていた。

 何かを囲って円を作っているのだ。

 その言動からは真ん中に悪魔と呼ばれる存在がいるらしいが。


「あれは、なんだ?」

「あれは………」


 言い淀むリシア。

 確認しに行こう。

 本当に悪魔と呼ばれる存在がいるのなら大変だしな。

 そう思い近付くと黒服の男が近付いてきた。


「お客さんも悪魔狩りですか?」

「悪魔狩り?」

「ご存知ないですか?あれですよ。あれ」


 男が円を指さす。

 よく見ると人の隙間から何か見えた。


「悪魔を痛めつけるのです。参加料は銀貨1枚です。これで貴方も神の元にたどり着けるでしょう」

「俺は悪魔というものを知らないのでとりあえず見させてもらってもいいだろうか?」

「はい。こちらへ」


 男に連れられてリシアと共に人垣を掻き分けた先に連れていかれる。


「この悪魔が!」

「死ね!死ね!」


 罵詈雑言を飛ばされる真ん中に悪魔はいた。


「どうです?これが悪魔です」

「これが悪魔」


 男が悪魔と言い切ったのは女の子だった。

 よく見ると耳が尖っている。

 エルフというやつだろう。


「参加しますか?」

「するわけが無いだろう?」


 ゴッ!


「ぐぁっ!」


 隣にいた男の顔に裏拳をねじ込む。

 それでヨロヨロとよろめく男。


「な、何をする!衛兵!衛兵!来てくれ!暴力を振るわれた!」


 そんなことを喚いている男を無視して中心にいる少女に近付く。

 薄汚れた金髪に薄く開いた瞳は金色。

 汚れた地面に身を横たえた彼女を抱き起こした。

 良かった。まだ息はあるな。


「お前!そこで待ってろよ!そろそろ衛兵が来るはずだ。この俺の顔に傷を………」

「ギャーギャー喚くな。うるさいんだよ。誰にものを言っている」

「お前に決まっているだろクソガキ!」


 男がそう言った途端周囲の見物客も同意し始めた。


「そうだ!そこを退け!その悪魔を離せ!」

「悪魔に味方するのか?!この悪魔め!」


 俺に向けて投げられた石。


「下らん」


 それを最もダメージの少ないタイミングで受け止める。


「なっ………石を受け止めるだと………」

「怯むな!!!うぉぉぉぉ!!!!」

「石を投げろ投げろ!悪魔が二人もいるぞ!!!!」


 周囲360度全方向から投げられる石。

 魔法は使いたくなかったが仕方がないか。


拒絶の盾(シールドオブリジェクション)よ」


 最小限の面積、最小限の硬度を持った魔法障壁を全ての石の進行方向に一瞬だけ貼り全てを防ぐ。


「ば、化け物だ!魔法も何も使わずに全ての石を防いだ、だと?!」

「悪魔だ!もっともっと投げろ!!!!」


 ほんとの一瞬しか魔法障壁は現れていないからか魔法で防いだとは気付いていないらしい。

 そうして第2波が続こうとした時。


「何事ですか?!」


 複数人の衛兵が到着した。

 どうやらリシアが呼びに行ってくれていたらしく彼女も同行していた。


「あの、悪魔が俺を殴ったんだ!」


 男が俺を指さしそう説明している。

 それを聞いている衛兵だが、リシアは俺の方にやってきた。


「お怪我はありませんか?」

「問題ない」

「それは良かったです」


 胸を撫で下ろす彼女。


「リシア様、そちらは悪魔なのでは?」


 衛兵がリシアにそう声をかけている。


「何を言っているのですか?捕らえるのは王に不遜なる態度を取ったそちらの男と勿論この周囲にいる観客です」

「「「お、王?!!!!!!」」」


 周囲にいた奴らが驚愕に顔を歪めた。

 そうだな。名乗っておこうか。


「名乗ろうか国民よ。我が名はエース・ルシフェルス・ソレイユ。先日この国の王になった者だ」


 それこそが正式名だというのはリシアに聞いた。


「さぁ、早く捕らえるのです!」

「「「はっ!」」」


 何人もの衛兵がリシアの言葉に返事をして民衆を捕らえようとする。

 しかし簡単に捕まる民衆ではなかった。


「何故ですか?!王?!その者は悪魔なのですよ?!」

「黙れ」


 まだ何か言おうとしていた民衆をひと睨みして黙らせる。


「………」


 それきり大人しくなった。


「黙れ。喋るな。お前らの意見は聞いていない」


 そう言いぐったりしているエルフの少女を抱き上げた。


「民衆に関しては適当に拘留した後に釈放せよ」


 手早く衛兵に指示を出してから男を見る。


「そいつは牢屋にでも入れておけ」

「どうして………悪魔の肩を持つのですか?王よ」

「悪魔はお前達だろう?罰は受けよ」


 そう言いリシアに目を向ける。


「戻ろうか。この子も心配だ」

「はい。分かりました」


 腕の中で目を瞑る少女に目をやる。

 気を失っているのだろうか。

 早く連れ帰ってやりたい所だな。



誤字報告ありがとうございます。

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