二十九話 手合わせ
ルクスブルクが崩壊して数日後。
俺はペルセウスに剣を学ぶことにした。
理由としては拳で戦うよりも剣で戦った方が様になるからと考えたから。
「ルシフェルス卿こちらへ」
「あぁ」
ペルセウスの案内に従う。
「剣は余り握らなくてな」
今回はスキルなしでやってみようか。
「そうなのですか?」
「そうだな」
「では、前回のあれは?」
「スキルで何とかしただけだ。軌道が分かっているのなら差ほど難しいことでもないからな」
剣を振るための手があったから何とかなっただけの事だった。
「どうした?」
そんな俺を呆然と見つめるペルセウス。
「いえ、その、あそこまでの動きを一回目で出来るのは凄いなと思いまして」
「こんなものだろ?」
俺は剣の腕は本当にない。
そんな俺でもできるのだ誰でも出来ると思うが。
「ま、そんなことはどうでもいい。俺は何をすればいい?」
「先程も説明しました通り先ずは模擬戦で足りないものを見つけます。あとはそれを重点的に補強していきましょう」
「分かった」
審判の席には今回もシドが立ってくれている。
満面の笑みを浮かべているのを見るに今回も楽しみらしい。
それは有難いのだが期待に応えられるだろうか。
「位置に付いたな?では、開始せよ」
開始位置に立って暫くすると試合が始まった。
今回は魔法の使用は禁止だ。
元々魔法を大して使えない俺には関係の無い話でもあるが。
「そこだ!」
切り込んできたペルセウス。
「ちっ!」
スキルの使用を縛るだけでこれ程までにどう立ち回ればいいか分からなくなるとは思わなかった。
でも目は冴えていた。
奴の予備動作からどんな攻撃が来るかは何となく分かっていた。
「そこです!」
そして刺突。
それを躱すと俺も踏み込み薙ぎ払う。
「くっ!」
中々善戦しているのではないだろうか。
薙ぎ払いは防がれてしまったが。
その後何度も剣と剣の交差が行われる。
「貰った!」
奴の剣を弾き切っ先を首でピタリと止めた。
「勝負あったな」
シドが告げる。
まさか、また勝つとは思わなかった。
「はぁ!」
ペルセウスはその場で後ろに倒れ込んだ。
俺の個人的な感想だが彼が手を抜いたようには見えなかった。
つまり俺はそこそこやれるかもしれないと思った。
「ルシフェルス様には勝てませんね。私から教えることはありませんよ」
「奇遇だな。俺もこのまま自己流でいってもいいかもしれないと思ったところだ」
ふむ。こんなに立ち回れるとは俺自身思っていなかった程だ。
これなら問題は無いかもしれない。
要らぬ心配だった気がする。
※
「ただいま」
模擬戦を終えて家に戻った俺。
「「「おかえりなさい!」」」
それを出迎えてくれるルーナ達。
「今日もお疲れ様です」
シエルが俺の手から剣を取ってくれ運んでくれる。
別にそこまでしなくてもいいのだがな。
「ご飯出来てるよ。どうする?今日は私が作ったから早く感想聞かせて欲しいかも」
自分が作って緊張しているのかモジモジし始めるルーナ。
「どうしようか」
「先に私とお話ですよね?エース様」
「それはどうだろうな」
サーシャの言葉に苦笑する。
「それより、凄かったですよ!あの騎士団長をスキルなしであそこまで圧倒するなんて!剣は苦手ではなかったのですか?」
「それなんだがな。あの時俺はスキルを使っていなかったが何と言うか、それでも動きを把握出来ていた感じなんだよな」
自分でも不思議な感覚だった。
スキルを使っていないのにあそこまで動きが読めて最適な行動ができるとは思わなった。
「どういうことなのですか?」
「多分目が良くなったんだと思う。直前の予備動作で相手が何をしてくるか、どんな攻撃をしてくるかがスキルが無くても分かるようになった感じだ。そこからはいつも通り躱して反撃を叩き込む」
といった感じに動いていたら勝ってしまっていたというだけの話だ。
「それ、凄くないですか?」
「まぁスキルを使わなくても敵の行う動作が分かるからスキルを使えない敵が出ても多少は大丈夫にはなったな」
俺のスキルが使えない敵がいるとは思えないが仮にそういう敵が出てきたとしても倒せるというのは大きいだろう。
「でも、一応弱点はあるんだよな」
「何なのですか?」
「俺の腕はあくまでそんなに高くない。結局俺は相手の隙を狙っているに過ぎないから相手が俺の動きを待つと言うなら戦況は中々動かないだろうな」
結局俺は敵が攻撃してくれないと動けない。
この辺りはもう少しなんとかしたほうがいいかもしれないな。
後出しとかいわゆる待ちはかなり強いが、先出しではどうなるか分からないというのは改善の余地がある。
この辺りもきちんと詰めておくべきか。
「そういえば王国の件はどうなさるおつもりですか?」
「明日辺りにでもシドと話ができたらなと考えているところだな。シドは同盟を結んでいる王国があるのだがその王国の国王が子に恵まれず、どうしようもないということで俺に白羽の矢が立ったらしい」
全員の顔を見る。
「それで、なのだが。俺が王になった場合だが同盟は結ばれたまま。ちなみにそれはこのシュノーレからも近く直ぐに行き来できる距離にあるらしい」
なのでいい返事を期待していると言われたのだ。
「で、みんなはどう思う?」
「いいんじゃないですか?私のエース様が1番偉いのは当たり前なので王になられるというのは大賛成です!」
サーシャの意見は俺に同意するものだった。
「私もいいと思うよ」
「人の上に立つべきはエースみたいな人なので私もいいと思います」
ルーナもシエルもどうやら反対ではないらしい。
「そうか。ならそういう風に明日はシドと話そうか」
俺もついに一国の王になる日が来るのかもしれないな。
どういう国にしようか。
それを考えると今から楽しみだ。
告知なのですが現在また新作を書いています。
何時公開できるかは分かりませんが、公開したときはお読みいただけると嬉しいです。