二十六話 調合に成功した
話を聞くとリヒナ・アゼデレアのグール化は滅亡の竜にかけられたものだそうだ。
奴は死んだがまだ治っていないということは術者が死んでも効果は続く永続タイプのものか。
「ルシフェルス卿、妹を助けてくださるのは嬉しいのですが薬草と解毒剤でどうするおつもりなのですか?」
「どうするも何も普通に使うだけだよ」
「先人の皆様が試された手段なのですよ?それでも………」
「黙れ。ごちゃごちゃうるさいんだよ」
気が散るなんてもんじゃない。
「最後まで足掻こうとすらしなかった奴にごちゃごちゃ言われる筋合いはないんだよ。先人が出来なかった?知るかよ先人は先人だ。俺とそのバカ共を比べるな」
アゼデレアの顔を真正面から見る。
「逆になんでお前はそうやって直ぐに諦めてるんだ?先人が出来なかったからか?」
何故そうやって簡単に諦めるのかが分からない。
「妹が嫌いなのか?最後まで足掻き抜いたらどうだ。勝手に可能性を殺してんのはお前の腐りかけの心だろ。本当に妹を大事に思うなら必死に天に祈るくらいの仕事はしやがれよこの馬鹿野郎」
一通り伝えると作業に戻る。
俺もグール化が治った前例のないものだというのは知識として知ってはいるが実際に見てみると俺のスキルは治せると教えてくれる。
「ごめんなさい。そうですよね。ありがとうございます、目が覚めました」
そう返事をして俺の横に並ぶ彼女。
「手伝えることはありますか?」
「薬草と解毒剤を適当な分量で混ぜ合わせてくれ。それだけだ。それを何回も何回も繰り返していくつも作ってくれ。混ぜ合わせる量は都度変更してくれ。調合成功確率は低いから数をこなすしかない」
俺の鑑定スキルはかなり低い調合成功確率を表示している。
だから適当に数をこなすしかないのだ。
シエル達も王城の衛兵達も総動員して手伝ってもらっているがかなりの試行回数が必要だ。
人手が欲しい。
しかし、その時だった。
「わっ!」
ドゴン!やばそうな音がして俺の目の前のビンが爆煙を吹き出した。
「ど、どうしたんですか?」
「何が起きたんですか?!」
「ちょっと、エース大丈夫?!」
この部屋にいたルーナ達みんなが俺を心配して駆けつけてくれる。
多分みんな何が起きたのか分からないんだろう。
でも、俺だけは分かる。
「やったか」
呟いて起き上がる。
成功したようだ。
「やったって?」
不思議そうな顔をするアゼデレアに答える。
「薬が完成した」
視線の先にあるビンは割れていない。
そして視界にはウィンドウが開かれている。
「完全回復薬………完成だ」
ランクは最高ランクであるSランクの回復アイテム。
それが今完成した。
「説明………どんな状態だって治す神の作ったような薬」
急いで起き上がるとビンを手に取る。
「リヒナ。完成したぞ。飲んでくれ」
急いで駆け寄るとゆっくりとビンを倒して彼女にそれを飲ませた。
「ぐっ!あぁ!!」
急に呻き出すリヒナ。
「大丈夫なのですか?」
「問題ない。今の状態はグールとしての細胞がこの回復薬を除去しようとして起きているものだ」
俺の視界にあるウィンドウにはそう説明がある。
「だから、後は待つことしかできない。」
※
あの後俺とアゼデレアはリヒナを運んで医務室にいた。
王様は王室に戻り、ルーナ達は客室に待たせている。
「ん………ん………」
「起きたか」
椅子から立ち上がり近付く。
黒くなっていた爪も体の異変も収まっていた。
すっかり治っている。
普通の女の子に戻っていた。
「きゃ!来ないで!切り裂いてしまいます!」
その言葉を聞いて数秒はポカンと口を開けてしまったが笑えてきた。
「はははは」
勘違いしているらしい。
その必死さが逆に笑えてくる。
まだグール化が治っていないと思っているのだろうか。
「な、どうして笑うんですか?!」
頬を膨らませて聞いてくるリヒナ。
「手を見てみれば分かるよ」
そう伝えると彼女は自分の手を見て顔を赤らめた。
でも、それも一瞬。
「その………ありがとうございます。助けて下さって」
「私からもお礼を言わせてくださいルシフェルス卿」
俺に感謝の言葉を送る姉妹。
「いや、気にしないでくれ。大したことではないから」
俺は鑑定スキルに言われるままやっただけだし大したことじゃない。
そう答えたらリヒナは顔を赤くし始めた。
「どうしたんだ?」
「いえ、その………さっき伝えたこと急に恥ずかしくなっちゃって………」
「あぁ。その事か。俺は忘れることにする。だから気持ちが変わらないならまた伝えてくれ」
「はい」
微笑むリヒナ。
その顔は可愛いものだった。
※
「まさか本当に治すとは。俺もルシフェルス様と呼びたくなるレベルだなエースよ」
王室にみんなで戻ると王様にそんなことを言われた。
「いや、むしろこの座を明け渡しお前に王をしてもらうのもいいかもしれぬ」
「え?」
その言葉には流石に驚いた。
「いや、それは流石にだめか。しかしそうだな。おいエース」
「何?」
「国を持ちたくはないか?」
「国を?」
「あぁ。このシュノーレを渡すつもりは無いが他の王国であればお前でも王になることができる。その素質そこで活かしてみないか?俺やこの王国のためだけに使うのではなくてな」
王国か。
「また考えておくよ」
「いい返事を期待しているぞ。俺はお前と国王雑談をしてみたくもあるからな」
ガッハッハと笑うシド。
国王か。
でも思ったより悪くないことかもしれないな。
「一先ずはルクスブルクだったあの馬鹿どもの末路を見てから、かな」
とりあえず言えるところとしてはそれだ。
「貴様の意見なら聞くぞ我が友よ。死刑がいいか?何でもいいぞ」
「いや、普通に生かしてやってくれ。ただし生き地獄でな」
あいつらはそれくらいしないといけないな。
もう遠慮する必要はないし。
「分かった。ならそのようにしていこうか」
どうやら俺のリクエストは通ったらしい。
あいつらがどんな顔をして助けを乞うのか今から楽しみで仕方がない。
ただ、どんな罰になろうとかなり重いはずだ。
俺の件もあるが何より国家に反逆した罪というのは重すぎるもの。
どう転ぼうと絶望しかないだろう。