二十五話 グール化
「これにて残念な話だがルクスブルクの席は暫く空くことになったな」
「えぇ。誠に残念な話でございます」
王室には俺達とシドとギルバートがいた。
「シド王ご報告が遅くなり大変申し訳ございませんでした」
「いやいや、構わんよ」
ギルバートが恭しく頭を下げている。
「どういうことなの?あの人悪い人じゃないの?」
警戒した顔で俺の耳元でそう聞いてきたルーナ。
「ルシフェルス卿におかれましても黒爪の保護及び、ルクスブルクの野望の阻止をしていただき感謝しております」
俺にも頭を下げる。
「ルクスブルクの野望を知るためにも彼に手を貸していた事についてはお許し頂ければ幸いですお二方」
「お前はよく働いたぞギルバート。気にすることではない」
豪快に笑って全てを許す王。
いい人だな。
それから俺を見る。
「先に伝えておくぞエース。貴様の作ったピザというものはとても美味かった。また作るがいい、というより作れ。次からは周りがうるさいので王城で作れ」
「そう言って貰えると嬉しいよ。分かった、ならこれからも作るよ」
「大義だ。後で貴様に宮廷料理師の称号をくれてやる」
別に欲しくはないのだが貰っておこうか。
「それと忘れていたな後は宮廷冒険者の称号も与えてやる。思い出せばお前は冒険者だものな」
何だか色々貰ってしまっているが大丈夫なのだろうか。
「アゼデレア。あれの報告をしろ」
その時王は今まで会話に入らなかったアゼデレアを呼ぶ。
「はい」
そう答えて王の横に立つ彼女。
「先ずは私からも感謝しておきます。ありがとうございましたルシフェルス卿」
「別に大したことじゃない」
「ですが、黒爪を始末ではなく生かして頂けたのは本当に感謝しておりますわ」
頭を下げる彼女。
「黒爪………いえ、リヒナ・アゼデレアを助けて頂き誠にありがとうございます」
そう言って一歩踏み出すと俺の手を握って頭を下げる彼女。
再び上げた顔には涙が。
「本当に、本当にありがとうございます」
「リヒナ・アゼデレア?」
「はい。黒爪と呼ばれたのは私の妹です」
※
移動式の寝台に寝かされているリヒナ。
「お姉ちゃん………?ここは?」
「王城。ルシフェルス卿がいますよ」
アゼデレアに連れられてきたリヒナは弱っていた。
スキルを使う。
「状態………グール化?」
初めて見る状態だが目を凝らす。
より詳細に見てみるとどういうものか分かった。
「不味いな。そろそろグールになってしまうかもしれない」
どうやら症状が進むと人を食う鬼グールになってしまうらしい。
「ルシフェルス卿。妹はもう………だめです。妹の願いを聞いてあげてくれませんか?」
そう懇願してくるアゼデレア。
「何故、そう簡単に諦めるんだ?」
「グール化は昔から確認されていますがまだ治療法が確立していません」
悲しそうに首を横に振る彼女。
ふむ。そうか。
「一応聞くが願いってのは?」
「ルシフェルス様、私を殺してくれませんか?ここまで生きて連れ帰ってきてくれたこと凄く嬉しかったんです………なんて言うんでしょうか………私は生まれて初めて恋というものをしてしまったようです………こんな私でも人間だと分かってくれて、最後にここまで連れ帰ってくれて………そんな貴方の優しさに私は………」
切れ切れの声でそう言ってくる彼女。
「断る」
「えっ?」
断られるとは思っていなかったのかアゼデレアは俺に迫ってくる。
「最後の願いなんですよ?」
「最後?笑わせるな」
「なっ………」
驚いて口を開ける彼女。
「妹がどれだけの思いで貴方に好意を伝えたのか………分かっていられるんですか?」
「さぁ。知らん。最後だから仕方ないから伝えようとした言葉ほど伝わらんものもない」
そう告げるとシエルに指示を出す。
「薬草と解毒剤を持ってきてくれないか?どんなものかは分かるよな?」
コクっと頷いて俺の指示に従ってくれる彼女。
「どうするおつもりなのですか?」
その言葉には答えず寝かされているリヒナの傍でしゃがみ込んだ。
「ギャグの練習でもしているのか?最後の願い?笑わせるなよ。俺が助けてやる。最後にはまだ早い」
そう伝え不敵に微笑む。
グール化なんていうのはしょせんは状態異常だ。
治せないものでは無い。
治療法が確立されていないのはそもそもの考え方が違うからだ。これは薬とかで治したりする病ではない。ただの状態異常だ。
決して不治の病でないことは俺の鑑定スキルから分かっていること。
治せるバッドステータスなのだ。
「お前は毎度面白いことを言ってくれるなエース」
今まで黙っていた王が声をかけてきた。
「治療不可能とされていたグール化を治す?本当に出来るのか?」
「できるさ。俺を誰だと思っている?」
「もし、失敗したらその娘の最後の望みを聞いてやれなかった後悔が残るやもしれんぞ?」
「言ったろ?最後の望みになんてさせないって」
リヒナの顔を見る。
「俺が好き、というのは本当か?もし本当なのならこんな場面で言ったことは忘れてまた元気に快復した姿で体で声で伝えてくれ」
「………本当です、でも治るんでしょうか?」
「治してみせるって言った。今の俺に二言はない。最後に言っておいてやる」
彼女の頭に手をやって撫でる。
「俺を好きだって言ってくれるような可愛い女の子を目の前で何もせずに殺すなんてな。きっと最後の頼みを聞かなかったことよりよっぽど辛いことなんだよ」
それに。
「想いを伝えられるのは初回限定じゃない。そうだろ?俺だってさ。君が言ってくれるなら1度じゃなく、千回でも一万回でもその口から伝えてもらってもいいし。多く伝えられる方が嬉しいってもの。俺のことが本当に好きなら俺のために生きてくれ。最後になんてさせない」
「はい。助けてください………」
「分かった。助ける」
必ず助ける。
「エース!持ってきましたよ!」
緊迫した顔でその時戻ってきたシエル。
丁度いいな。
しかし緊迫しているところ悪いが別に今すぐにグールになる訳でもないからまだ猶予はあるのだ。
受け取ってから礼を言う。
「ありがとう」
さぁ、この子を救っちゃいましょうか。