十三話 宮廷鑑定士の力は絶大だった
俺の言葉を聞いて笑い始める店主。
「兄ちゃん。変な正義感で動いてるならそろそろ辞めときな。俺も無かったことにしてやるから。ごめんなさいして家に帰ろうな」
雑にそう口にするともう俺とはもう会話しないというように店の奥へ向かい始める男。
「おっさん、俺は鑑定士だ。俺は今ここに鑑定士として立っている。お前の言うクソガキとして立っているのではなく1人の鑑定士として立って貴様の悪事を明るみに出そうとしている」
そう口にするとピクっと眉を動かして戻ってくる店主。
「いい加減にしてくれ。商売の邪魔なんだよ」
「詐欺の邪魔か?そいつぁ悪かったな。でも、まだ話は終わっていない」
皮肉げに口を歪める。
「ちげぇよ。真っ当な商売だ」
その時ようやくフィオナが口を開く。
「すまないエース。そろそろやめて貰えないだろうか?店主の方もこう言っておられる。謝って終わりにしよう」
「あんた先日の件をもう忘れたのか?この国の鑑定士連中は全員どす黒いってよ」
もう忘れているのだとしたら愉快な頭をしているらしい。
「しかし店主はギルド認定の………」
「ギルド認定だから何だ?偉いやつが認定した人間の発言は全部正しいのか?盲目的な信者だな」
それならば俺の発言以上に正しいものは無いはずだな。
一先ずは振り返ってギャラリーにも問う。
「あんた達も全員そう思っているのだろうか。ギルドの偉い人が認定した鑑定士なら嘘はつかない、と」
「おめぇ、いい加減にしろよ。そんなに決めてかかるなら証拠のひとつくらい出しやがれ」
店主の方は何故か余裕を失ってきている。
いや、俺が核心を突いているから苛立っているのだろうか。
自分の行いは気付かれているその焦りから来ているのか。
「どういったものをご所望だ?偽物か本物かを判断するならば地位のある鑑定士の発言以上に絶対的なものは無いが。それでいいか?俺は今からあんた以上に地位のある鑑定士の発言を用意することが出来るが」
言葉を区切りもう一度店主を見る。
「その場合お前の敗北は決まる。が、それでもいいか?自ら詐欺だったと名乗り出た方が罪が軽くなるのではないだろうか?」
「ハッタリだ!何を言ってやがるこのド三流鑑定士が!」
「それが貴様の答えか?謝るつもりはないと言うのか?」
「謝るも何も悪いことをしているわけじゃないんだから謝る必要なんてないだろ!」
その言葉を待っていた。
こいつ心の底から屑らしい。
「本当に脳みそが詰まっていないんだなお前は」
そう口にして懐に手を入れる。
例のカードを出すためだが、ひとつ聞いておこう。
「俺が先日お前の店の近くにいたこと覚えているか?」
「あぁ。覚えてるよ。こっちを見ていたからな」
「その時どうして糾弾しなかったのかについて思い当たることはないか?」
「それは………」
その言葉を聞きながらカードを引っ張り出す。
「俺は」
同時に何かに気付いたのだろうか。
ハッと顔を上げる男。しかし、もう遅い。
「━━━━宮廷鑑定士だ。王様が認めた鑑定士」
カードを見せながら名乗ると先程よりも場は騒然とする。
「きゅ、宮廷鑑定士だと?!」
「王様が認めた?!こんなガキを?!」
「それより宮廷鑑定士が偽物だと言った?!嘘だろ?!じゃあこの店の人は?!」
このカードの出現で場の流れは一気に俺に傾いた。
「ば、ばかな。俺はSランク鑑定士だぞ?!嘘をつくわけないだろ?!」
「それなら俺は宮廷鑑定士。俺の発言を疑うということは俺を認めた王の行動そのものについての疑いを抱くことにも繋がるが。その辺はきちんと考えておけよ?」
ギャラリーにも振り返って言っておく。
「たかがSランク鑑定士とこの国の王が認めた宮廷鑑定士。どちらの発言の方が信じられるものなのか、お前たちなら分かるだろう?」
「やっぱりあの噂は本当だったんだ。ここの店の店主が詐欺を行ってるって」
「そうだ。そうだ!ここいらの鑑定士の鑑定した品はどう考えても偽物っぽかったからな!本当に偽物だったんだな!許さねぇ!」
今まで見ていただけの民衆が俺の発言を受けて一気に店主に詰め寄った。
もう終わりか。呆気ないものだな。
それは途中からきて店主を庇っていた男も同様だ。
民衆の爪牙はそいつにも向いていた。
「金を返せ!金を返せ!」
「ま、待て!」
しかし、その時だった一際大きい店主の声が聞こえた。
「そいつは今の今まで無名の人間だった!そいつの発言を間に受けていいのか?王の名を借りただけの偽物のカードかもしれないぞ!」
「たしかに」
その言葉を受けてとりあえずは動きを止める民衆達。
「確かに俺が詐欺を犯したことは認める!だが、そいつは王の名を不当に使った不届き者だぞ!」
「断じて許せるものでは無い!」
まだ奴の言葉を信じるに値すると思っているのか民衆の視線が今度は俺に向いた。
「ど、どうするの?エース」
焦り気味の声で話しかけてくるルーナ。
「対策は考えてある」
こんなことは想定内だ。
要はこれが本物だと証明出来ればいい。
「これは本物だ。だよな?シルバ」
「あぁ。それは間違いなく本物だ」
何処からともなく現れたシルバは俺に殴りかかろうとしていた民衆の数人を光の壁でブロックする。
「シ、シルバ様?!」
どうやらシルバはこの王国ではかなり権力があるらしい。
姿を見ただけで下がり始める民衆。
もう彼らから気勢は削がれていた。
「この男は我らの王が認めた真なる宮廷鑑定士だ。その発言を疑うことは我らの王を疑うことだと知れ」
※
シルバの登場で一気に情勢は変わった。
民衆達は直ぐに謝罪する。
「宮廷鑑定士様ご無礼をどうか………」
頭を下げる男。
「この者共の処分はどうするつもりだ?」
「罰はなしで構わない」
「そうらしい。どこへなりとも消えろ」
「は、はい!ありがとうございます鑑定士様!」
俺にそう言うと民衆は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。そこに残ったのは鑑定士の男二人。
「シ、シルバ様………」
店主が尻もちを着いて後ずさる。
「俺にそれ程までの恐怖を感じるか?生憎俺よりそこにいるエースの方が強いがな」
「な、何ですと………」
男の視線が俺に注がれた。
「話を聞く限り俺では奴に勝てない。惨めに殺されなくてよかったな?宮廷鑑定士を侮辱した罪は普通なら死によって償われるところだが。エースの寛容さに感謝するがいい」
どうやら俺を侮辱した奴らは本来なら死刑ものらしい。
大袈裟だとは思うが王に認められるというのはそういうものなのかもしれない。
「この男達はこちらで処分しておくが構わないか?」
「もちろん」
「分かった。今回は尽力感謝する」
そう言うとシルバは男二人を抱えてどこかへ消えていった。
入れ替わるようにやってきた衛兵達。
「シルバ様よりここの制圧の命令を受けた。捜査して他にも繋がりのある鑑定士も捕まえる予定だ。安心して欲しい」
その中にはフィオナもいてそう説明してくれた。
なるほどな。
ならばとりあえずはこの場は彼女に任せることにしようか。
これで詐欺がなくなればいいのだがな。