エピソード1
「おい安楽田。新しいキャラでた?」
「一応なー。でも4万課金したよ。」
「4万!?さすがリッチなのは違うねー。」
「まあな~。」
「お前は?信。」
「おれは5万課金してまる被りだたわ・・・。」
授業が終わりいつものように3人はゲームの話で盛り上がっている。一様に携帯電話を手にし、その画面を焦点があってるのかないのか見当がつかない顔で見つめている。
正門をくぐり抜け学校を出たら皆それぞれ行く先があるようで、画面に視線を落としたまま、3人はそれぞれつかの間の別れを告げた。
3人は皆、ゲームで使うお金を稼ぐためにバイトをしていた。
それぞれ通信制のゲーム内で一緒に遊んでいるものだから、バイト現場に向かう途中でも片時も携帯電話から視線を離さない。
帰ったら帰ったで3人は通話アプリを使い、会話をしながらPCゲームに夢中になった。
「わり、風呂よばれた。」
信はそう言って携帯電話を防水カバーに入れ、風呂場にまでそれを持ち出し再びゲームを始めた。
特になんてことはない、それが3人の日常だった。
「あー、早くバイト代はいらないかなー。」
「信はほんと、引きないからな~。」安楽田が言う。
「そうそう。そのバイト代もすぐとけるんじゃないか?」と海が続いた。
「ゲームは引きがすべてじゃねー。俺様の腕がそれを証明してるだろ?」
信はそう言うと、なかなか切りに行かないで伸びきった前髪をかきあげてみせた。
安楽田と海はそれに反応することはなく携帯電話画面に夢中だ。
「じゃーなー。」
今日は信だけがバイトで、信だけが別方向へ歩いていった。
「なあ、海?」
電車の中、帰路の途中、安楽田がおもむろに海に呼びかけた。
海は携帯電話から目をはなし、安楽田へと視線をうつして聞きかえす。
「なに?」
いや、と前置きしてから安楽田は聞いた。
「お前、高校でたらどうすんの?」
「んー、とりあえず今のバイト続けるつもりだけど。」
「え?なに?大学いかないの?」
安楽田は初耳だったので、本当に驚いた様子で海に聞きかえした。
「うん。俺あんまりそういうの得意じゃないからねー。」
と、海はあっけらと返してみせる。
「いや、得意とかそういうのじゃないでしょ!」
そう言い、安楽田は海の肩を軽くたたいてみせた。
「ていうかさ、信のやつはどうするつもりなんだろうねー?」
そう言いながら、海は再び携帯電話を両手で操作しだした。
「どうなんだろうなー。」
安楽田はそういうと、後ろを振り返り外の景色に目をやる。
安楽田の視界を、ビルの群れが次々と通り過ぎていく。
わずかに入る光が、キラキラとビルの窓を反射していた。