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偽りのワールドブレイカー  作者: 宵月渚
第二章『三度目の正直』
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第8話『渡し物-1』

 本当は二人をラボに入れたくはなかった。いくら模擬戦とはいえ、多少の痛みは負わなければいけないし、そんな辛い思いを二人にさせたくはなかった。だが、少し話しただけだが、二人がここで引くような人間ではないと確信した。それほど、優しいのだ。


「ラボ?」


「ああ、俺たちはパーティーのことをラボって呼んでるんだ。まあ、完全に博士の趣味だけどな」


「あ、そういえば、先生って博士なんですか? なんか、格好もそんな感じが漂ってますけど……」


「いや、これも博士の趣味だ。勝手に博士って呼ばせてるだけだ」


 キリアがムッとした表情で迫ってくる。


「呼ばせてるとは人聞きの悪い。君たちが積極的に呼んでくれているんだろう?」


「博士って呼ばないとパーティーの顧問止めるって言ったのは誰だよ!」


「さあ、なんのことだかわからないなあ……」


 キリアはクダリから目を逸らし、口笛をヒューヒューと吹いている。


「さて、冗談はこのくらいにしておいて。彼女たちのことを知らない人もいるし、改めて自己紹介をしないかい? てことで、カイナくんから」


 キリアが最初にカイナを指名する辺り、俺はもう嫌な予感しかしなかった。


「えっ、私から!? えーっと、私はカイナ」


「…………」


 カイナの自己紹介で沈黙が生まれるのはこれで三度目だ。キリアは口元を手で覆い隠しているが、目が完全に笑っているし、クスクスという笑い声も聞こえる。こいつ、絶対、こうなるとわかっていただろ。


「相変わらず、二年経っても自己紹介が下手なのは変わらないな。カイナは俺たちと同い年で、こう見えても先生だ。本人曰く、同い年に敬語を使われると変な感じがするから止めてだそうだ」


「……クダリは人の紹介も上手いわね」


「いや、俺が上手いんじゃなくて、カイナが下手すぎるんだよ」


 サリィとリュウカは互いに見つめ合って頷く。


「じゃあ、あたしから。あたしはリュウカ、黄咲きさき式雷魔法の使い手だ、よろしく!」


 リュウカは右手の親指を立ててグッドのサインをする。


「では、私ですね。私はサリィ、五月雨式水魔法の使い手です、よろしくお願いします」


 サリィはぺこりとお辞儀をする。俺は二人が自己紹介をしたのはわかったが、二人の言った言葉の意味が全く理解できなかった。


「…………」


「どうしたんだ、マスター?」


 アイフィがそんな俺の姿を見てそばに駆け付け、俺の肩にのしかかって耳元で囁く。


「なんとか式っていうのがわかんねえ……」


 アイフィの声に合わせるように俺も声を小さくする。


「黄咲式と五月雨式だな。まあ、マスターの世界で言うなら流派というところだ。ちなみどちらも有名だぞ。でも、カイナの紅式は聞いたことがないな」


「そ、そうなのか……」


「ふっ、次は博士の出番かな。名前はキリア、気軽に博士って呼んでもらって構わないよ。というか、呼ばなかったら顧問止める」


「それもはや強制だろ!」


 なんか、ツッコミすぎて一気に疲れてきた。俺は頭を手で押さえる。肩にのしかかっていたアイフィが降りて俺の隣に立つ。


「我は戦略の女神アイフィアス・リアスレイリア。アイフィと呼んでもらって構わないぞ。あと、基本的に我はマスターと行動を共にする、よろしく頼むぞ」


「女神? もしかして、あの女神様!?」


 どうやら女神というのは有名らしく、サリィとリュウカが驚いている。


「こいつはただのニートだ。女神なんてお飾りだ」


「なんてひどいことを言うんだ、マスター!」


 サリィが手を膝につけてしゃがみ、アイフィと同じ高さになる。


「ねえ、アイフィはクダリのことをマスターっていうけど二人はどんな関係なの?」


「主従関係だ」


 アイフィの口から言われた言葉にこの場の全員が驚く。間違ってはいないがそれだけを言われると俺は――


「やっぱり、クダリってロリコ――」


「ち、違うっ!」


 俺は弁明した。全力で弁明した。話し始める前の壁にかけられた時計の針は十時五十分、話し終えたときの時計の針は十一時十分を示しているから、弁明するのに二十分かかったということだ。


「……なるほど、アイフィは女神で、クダリをマスターとして契約したっていうこと?」


「まあ、だいたい合ってるな」


 アイフィが女神ということは話したが、偽りの世界のことは一切話していない。


 アイフィの自己紹介が終わったところでみんなが俺を見る。一通りみんなの自己紹介が終わったから、あとは俺だけか。


「俺は、クダリ。二年留年した上に、魔法が使えないが、一応このラボのリーダーだ。みんな、よろしく!」


 みんなから盛大な拍手をされ、自己紹介は一通り終わる。


「さて、自己紹介が終わったが、明日の模擬戦に向けて何かすることはあるかい、クダリ?」


 キリアがクダリに尋ねる。


「うーん、まあ、入学したばかりだからなあ……。特にみんなにしてもらうことはないかな」


「そうか、じゃあ、これでひとまず解散ってことかな」


 キリアの言葉でラボのみんなは次々と出て行き、残ったのはクダリとアイフィとキリアだけになった。


「さて、クダリ、早速だが君に渡したいものがあるんだ。ちょっと研究室まで来てくれ」

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