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偽りのワールドブレイカー  作者: 宵月渚
第四章『偽物と本物』
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第44話『本物』

 相手の最後の力を振り絞った魔法でクダリが死に、お互い戦闘不能といった形で戦いが止み、何もない荒野には砂塵が吹き込めていた。理事長の死、クダリの死、相打ちという形とは言えないほどカイナ側の失ったものは大きい。


「クダリ……クダリ……」


 カイナはずっとクダリの手を握り締めて涙を流している。他のメンバーたちもクダリの近くに寄り添って涙を流している。


「ねえ、クダリ……。私たちは、あなたのおかげで夢を見失わずにいられたんだよ。あなたは私たちの恩人と言っても過言ではないんです。だから、戻ってきてよ……クダリ!」


 サリィの涙がクダリの頬に落ちる。


「クダリ、あたしにはね、優しい兄貴がいるんだけどさ。いつも、相談に乗ってくれて、みんなを守れるくらい強くて、自慢の兄貴なんだ。クダリはね、あたしにとっての兄貴と同じくらい自慢の、誇れるこのラボのリーダーなんだよ。帰ってこいよ……!」


 リュウカの涙がクダリの頬に落ちる。


「カレンはお兄ちゃんとは別の世界から来たからまったくの他人だけどね。カレンのことを助けてくれたり、世界が違うまったくの赤の他人なのに温かく迎えてくれて……お兄ちゃんの目に映っているのは別のカレンでも、お兄ちゃんはカレンのもう一人のお兄ちゃんだと思っているよ。だから、死なないで、これからも楽しい時間をみんなと過ごそうよ!」


 カレンの涙がクダリの頬に落ちる。


「……クダリ、最初はあなたのことを核だからって殺そうとして、これから偽りの世界に行くときも核を殺すことばかり考えていたけど、あなたのおかげで、核だからっていう隔たりなしで暮らしていくことも可能なんじゃないかって思えてきたわ。どれも、全部あなたが気づかせてくれたのよ。あなたは自分のことを偽物だってよく言うけど、私は偽物なんて関係なく暮らしていければいいと思うわ。だって、あなたはカレンに対して核なんて気にしていなかったじゃない。みんなもあんたの帰りを願ってる、もちろん、私も……。だから、目を覚ましてよ、クダリ!」


 カイナの涙がクダリの頬に落ちる。みんなの泣く声に包まれる中、クダリの体が輝きだし、光が晴れると焼けて汚れていた体がまるで嘘のようにきれいになる。


「うう……」


 クダリの目がゆっくりと開かれる。しかし、死亡前とは違い、左目の色は女神化した髪と色と同じように青色に輝いていた。




「うう……戻ってきたのか……」


「「クダリっ!」」


 みんなが嬉し涙を流し、クダリの帰還を祝う。だが、今は浮かれている場合ではない。まだ、戦いは終わっていないのだ。


「みんな、ごめん。行かなきゃ、まだ終わっていないから」


 クダリは起き上がってこちらを座って眺めているもう一人のクダリの下へ歩き出す。彼の前に立ってクダリは、左手の銃をこちらを凝視する彼の眉間に照準を向ける。


「どうした? 俺はもう、魔力がない。殺したいなら好きにすればいいさ、偽物」


最後の部分だけは殺意が込められる。


「俺はもう偽物じゃない」


「……なに?」


「俺はここにいる、ここに立って今、生きている! ラボのみんなと過ごせるんだ! 一緒に思い出を作れるんだよ! 俺は――――本物だ!」


 全く論理的ではない。だけど、俺の答えはそれで充分だった。


「それに、俺はお前を殺したりなんかしない」


 クダリは左手の銃を下ろす。


「……何を言っているんだ?」


「俺は俺、お前にはお前の生き方があり、命がある。けど、俺はまったくの別人だとは思わない。見た目が似ていて、生まれた世界が違ったとしても、俺たちは互いに同じクダリなんだよ。それを殺すってことは自分自身を否定することと同じだ。そんなことをしたくはない。だから、俺は殺さない」


「ふっ、甘いな、俺が殺すかもしれないのに」


「そのときはそのときだ」


 挑発的に別のクダリがこちらに手を向ける。それをクダリは笑顔で返す。


「…………チッ」


 別のクダリは静かに舌打ちをしてそっぽを向く。


「クダリ!」


 涙が収まり、笑顔でみんなが駆け付ける。


「……終わったの?」


 サリィがクダリともう一人のクダリを交互に見つめて問う。


「ああ、俺の戦いは終わった」


「クダリ、その目はどうしたんだよ」


 目、自分でもどうなっているかリュウカに言われるまで気づかなかった。だが、あのときのことを思い返すと、自分でもなんとなく答えはわかっている。


「まあな……いろいろあったんだ」


「……でも、なにはともあれ、おかえりなさい、クダリ!」


 みんながクダリに飛び込む。さすがに四人分の体重を支え切れるわけもなくその場に崩れ落ちる。クダリたちはみんなして笑っていた。


「そういえば、どうやって帰るの? お兄ちゃん」


「…………」


 そのことまでは考えていなかった。核もまだ見つけられていない、むしろ見つけられる気がしない。誰一人として案が思い浮かばず、感動の帰還には似合わない沈黙が訪れる。


「どうしよう……」


「……俺が送って行ってやろうか?」


 そう言いだしたのはずっと座り込んでいるもう一人のクダリだった。


「できるのか?」


「魔力が回復すればできないことはないが、回復には一日休む必要がある。それでもいいならやってやるが、どうする?」


「でも、こいつは散々私たちを……」


 カイナの口から自然にそんな憎しみの言葉がこぼれる。


「別に疑うのならそれでも構わないが――」


「いや、俺は信じるよ。頼んでもいいか?」


「……まあ、やってもいい」

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