第42話『黒炎に包まれ』
「話は終わったか、偽物」
「……お前が、理事長を殺したのか……?」
「そうだとしたらどうする? ここで私を殺すか?」
本物のクダリは余裕の表情を浮かべてこちらを見ている。その表情の奥には強い殺意が感じられた。
「クダリ、危険だよ。あいつの強さは異常だ、ここは一旦退いた方が……」
「リュウカ、ありがとう。でも、あいつは逃がしてくれるとは思えないし、誰かが決着をつけないといけないんだ。だから、みんな……待っていてくれ!」
クダリは剣と銃を構えて、女神化をする。
「女神化完了、一等神界アイフィアス・リアスレイリア、これより半身となり、マスターの援助を行う!」
『マスター、残弾は?』
『大丈夫だ、あの後、博士が十発は作ってくれた』
『ふむ、それだけで倒せればよいのだがな……』
『え、それってどういう……』
「黒炎式五段ヴィジャスダークライアーフレイム!」
本物のクダリが魔法を唱える。
ゆらゆらとこちらに向かって飛んでくる炎が見える。一見、弱そうな魔法に見えるが、この魔法は五段魔法、並みの魔法ではないことは理解している。アイフィはクダリの体を動かし、左手の銃をあの魔法に向ける。
『マスター、体を借りるぞ!』
銃弾は緊迫した空気の中を潜り抜け、怪しげな炎の球体に突進していく。二つの弾と玉が衝突すると、それは大爆発を起こして消滅する。肌が焼けこげそうなほど熱い強烈な爆風がコートをなびかせる。
相手が驚いている隙にアイフィはもう一発の銃弾を撃ち込む。だが、本物のクダリはそれを直前に気づき、魔法も使わずいとも容易く回避した。
「ほう、今の攻撃には驚いたが、落ち着いて見れば躱せない攻撃でもないな」
「マジかよ……銃だぞ?」
「今までに見た一番速い魔法より遅い時点で躱すことなど容易い」
撃っている俺ですら目で追えないのに、こいつは――
「……化け物かよ」
「これが本物と偽物の違いというやつだ! 黒炎式六段トリプルライズバーニングダーク!」
巨大な漆黒の炎がこちらに向けて飛ばされる。先ほどと威力が段違いの六段魔法だ。先ほどと同じように銃を撃つが、銃弾は炎に吸い込まれて効果がない。
『まずくないか……』
『どうやら、そのようだな。炎の威力が強すぎる……』
「五月雨式二段アクアショット!」
サリィが立ち上がって魔法を放つ。弱弱しい水の弾丸、予想通り炎に吸い込まれるだけで一見効果がないように思えるが、微弱ながら炎が弱まっているのは感じ取れる。
『アイフィ!』
『ああ!』
その刹那、クダリは銃の照準を合わせ、淡い炎に銃弾を発射する。すると、今度は炎が跡形もなく消滅した。
「なにっ、たかが二段魔法の手助けだけで……!」
「これが、俺たちのパーティーの力だ!」
「くそが……理事長もお前も、偽物の分際で! 黒炎式七段ダークイグニッション!」
「な、七段!?」
五段、六段でさえ異次元に感じた魔法であったのに、そのはるか上をいく七段魔法を使うなど、本物のクダリの底知れぬ魔力はもはや常人の域を超えている。
七段魔法は俺を中心にした漆黒の大爆発を起こす。急激に範囲が広まっていき、逃げようとするもすぐに距離を詰められて俺は爆発に巻き込まれる。
「がはっ! あああああ!」
熱い、マグマを被っているかのような熱さだ。このままいけば体の中まで溶かされ骨が残ることすら奇跡だろう。
このまま焼ける、そう思ったとき、突如爆発が止む。
「……くそっ、魔力切れか……!」
本物のクダリは地面に膝をつき、心臓の辺りを手で押さえる。
「じゃあ、もう魔法は終わったの……?」
サリィは怯えながら言う。
「魔法は終わったけど、クダリは……」
リュウカが倒れるクダリの姿を見て言う。
「お兄ちゃん……」
「……クダリ!」
カイナは言葉に出すよりも足がすでに動いていた。
「ねえ、クダリ! しっかりして! 目を覚ましてよ! クダリっ!」
カイナが何度呼びかけてもクダリは一向に返事をする様子はない。クダリは炎で焼け焦げたまま、一度たりとも目を開けようとはしなかった。
「ねえ、嘘でしょ、クダリっ!」
カイナの目から涙が零れ落ち、クダリの頬を濡らす。




