第4話『偽りの世界-1』
次に目を開けて見た光景は部屋の天井だった。顔を動かして辺りを見回すと自分は病院のベッドで寝ていることがわかった。
「夢、か……?」
「残念だが、夢ではないぞ、少年」
見覚えのある少女は俺が寝ているベッドに座ってこちらを見ている。その少女はクダリが木を失う前に助けてくれた少女だ。
「あ、やっと起きた?」
ガラガラとドアを開けて入ってきた少女は同じく気を失う前にいたクダリを襲った転校生だ。
「なっ、なんでここにいる!」
「そんなに警戒しないで。あなたと戦う気はないわ」
「ど、どういうことだ……?」
「今から説明するわ」
転校生はベッドの近くにあった椅子に座る。
「あなたはあの戦いの最中に気絶した。医者が言うには唐突に環境が変化しすぎたことが原因らしいわね。……さて、本題に入るけど、実はあなたに世界を壊してもらいたいの」
「……は?」
クダリは唐突に意味のわからないことを言われて混乱する。
「多分、いきなり言われてもわからないと思うから説明するわ。なぜ、世界を壊さなければいけないかは覚えてる?」
なぜ、世界を壊さなければいけないのか。確か、気絶する前、何か言っていたような気もする。あまりに現実味のない話だったから全部覚えている自信はない。
「えーっと……確か、本来あってはならない偽物の世界だから?」
「ええ、その通りよ。偽りの世界が存在するだけで私たちの世界に悪影響を及ぼし、最終的には私たちの世界が崩壊を起こすとまで言われているわ」
「世界が崩壊するってそんなの有り得るのか?」
ベッドに座っている少女は眠そうに俺と転校生の会話を聞いている。
「有り得るわ。現にこの世界の星は初めて偽りの世界が生まれたのを確認してから一つずつ無くなっていっているのよ」
「う、嘘だろ……」
「嘘だと思うなら窓の景色を見て見なさい」
慌ててベッドから立ち上がってベッドの隣にある窓のカーテンを開けて空を見る。そこは星一つ見つからない真っ黒の空間が広がっていた。今は、夜……なのだろうか。
「な、なんだよこれ……!」
「太陽以外の星は消滅した、それが私たちの世界の現実。偽りの世界が現れる度、どこかで崩壊が起きるのよ。そして、崩壊を止めるために偽りの世界を壊す、私たち『ワールドブレイカー』がいるのよ」
「じゃあ、俺に世界を壊してほしいってことは……」
「ええ、あなたにワールドブレイカーになってほしいの」
ワールドブレイカーになって偽りの世界を壊す。だが、それは偽りの世界にずっと住んでいた俺に頼むにしては大きな矛盾が生じる内容だった。
「でも、俺はその偽りの世界にいた人間なんだろ? そんなやつがワールドブレイカーになんてなれるのか? それどころか、この世界に生きていいはずがないんじゃないか?」
「まあ、確かに前例はないわね。でも、前例がないからこそやってみないとわからないわ」
「……それに、なんで俺なんだ? あのとき、お前は俺を殺すために来たはずだ」
「それは、あなたが女神を宿したからよ」
「女神……?」
「彼女のことよ」
転校生はベッドで座っている少女を指す。
「女神については後で話すとして、どうするの? ワールドブレイカーになるのかならないのか」
「断れば……どうなる?」
額から流れる汗が一滴、頬を伝って落ちる。
「殺されるわね」
選択肢はないということか。
「まったく、一度殺そうとした相手に脅すなんて自分勝手だとは思わないのか?」
すると、ずっと黙っていた少女が話す。転校生はその言葉だけは言い返せないかのように俯く。
「……ええ、自分勝手だとはわかっているわ。でも、この世界を救うためにあなたが必要になるかもしれないの。お願い!」
転校生は深く頭を下げる。
「…………わかった。どうせ、断ったところで何もできないしな」
「ありがとうっ……!」