第39話『黒炎舞う戦場-2』
「うっ、うっ……ますたぁ…………」
アイフィは声が枯れるほどずっとクダリを呼び続けている。
「ますたぁ……ます……た……」
ついには声が出なくなり、アイフィはクダリの死体の上に倒れる。アイフィの涙はクダリの頬を伝って地面に流れ落ちる。
「――アイフィ」
夢の中だろうか。だが、どこかで見た記憶がある。もしかして、自分自身の記憶だろうか。目の前に映っているのは朱の髪に緑の目をした、自分の親友であるネイリィーの姿があった。
確か、これはネイリィーが自分の家に押しかけて来たときの記憶だ。
「ネイリィー?」
「ちょっと、また自分の家でごろごろしてる!」
「別にいいだろう、ここは我の家なんだから」
「もう、仕方ないニート女神さんね。私が掃除しておいてあげるわ」
ネイリィーがすすんで部屋の片づけをする。特にみられて困る物は置いていないから気にしないはずだった。だが……
「あれ、アイフィ。これなに? 戦略……?」
そう、戦略の教科書をずっと部屋に置いていたのをネイリィーに見られた。
「…………」
「なんで、あなたの能力は戦略じゃないでしょ!?」
「うっ……」
「ねえ、なんで! もしかして、まだみんなの言っていたことを気にしているの? いいのよ、あなたはあなたの能力があるんだからそれを大切にしたら……」
ネイリィーは口うるさく長い時間説得する。
「……うるさい」
「……え?」
「ネイリィーはいつもうるさい! なんなのだ、いつもいつもがみがみと! お節介なのだ、出て行ってくれ!」
本当はそんなことなかった。いつも会いに来て、話してくれるだけで嬉しさでいっぱいだった。それなのに、我はこんなことを言ってしまったのだ。
「……ごめん、アイフィ。それじゃあ、ばいばい……」
違う、ごめんと言うのは我の方だ。ずっとこの日を後悔していた。そして、この日から自分の能力を偽った。
そうだ、今、自分はこの能力を使わなくてはならないのかもしれない。いや、使わなければならないのだ。
「……あ、ぅ……」
声は掠れて小さな音にも掻き消されそうだが、まだ声は出る。
「我は……認めない……マスターがいない……運命なんて…………認めないっ!」
その瞬間、クダリの体の体温が上がり、心臓が脈を打ち始めた。
「理事長っ!」
長時間にわたる爆発の煙が晴れたときに見えたのは仰向けになって倒れる理事長の姿だった。カイナが単独で駆けつける。
「か、カイナくん……」
「理事長! しっかりしてください!」
カイナは理事長の手を握るが、その手は黒く、焼けこげていた。
「私は……もう長くは持たない……」
「そ、そんな……!」
「クダリくんは、この崩壊寸前の世界を変えてくれると彼のことを調査してきたが、私はもう、ここまでだ。今まで、協力してくれてありがとう、カイナくん」
理事長の手はだんだんと冷たくなっていく。
「理事長……!」
「……ああ、そうだ。これを、クダリくんに……」
理事長がカイナに渡したものは、手のひらに収まる小さな水晶だ。
「これは……?」
「それは、万が一、私に何かあったときに渡そうと思っていたものだ。クダリくんに向けてのメッセージが水晶に封じ込められている、それをクダリくんに渡してほしい」
「何かあったときなんて……理事長、諦めないでください!」
「…………カイナくん、残念だけど、お別れだ――」
理事長の手が熱を失い、カイナの目から落ちる涙が理事長の手を濡らした。




