第35話『新たな偽物』
大人のクダリは顔を引きつらせて声を荒らげる。
「え、じゃあ、もしかして……本物のクダリなのか……?」
リュウカがラボの四人から離れたところにいる大人のクダリの言葉を聞いて驚く。
「ああ、そうだ」
「――自分と同じ見た目の人を殺すなんて感心しないね、クダリ」
先ほど消えたはずの魔方陣から現れたのは、理事長だった。その顔にはわずかながら怒りが込められている。
「なんだ、お前か。今では理事長なんだったか?」
「り、理事長!? 知り合いなんですか?」
「ああ、サリィくん。彼とはちょっと昔にいろいろあってね。君ならいづれ自分と同じ見た目をした偽物を駆除すると思ったのだが、遅かったようだね」
理事長は深い渓谷の奈落を見下ろす。
「じゃあ、どうするよ。俺を殺すか? 理事長さんよお」
「ああ、もちろん、そのつもりだ!」
二人のとてつもない気迫をこの場の誰もが感じた。
「レリア、女神化だ!」
『了解ですわ、マスター』
レリアは承諾の返事をマスターである理事長の脳内でする。理事長の体が光に包まれる。
「女神化完了、二等神界レリア・クラリアス、これより半身となり、マスターの援助を行いますわ!」
女性である女神の言葉を男性である理事長の口で言われると軽く嫌悪感を覚えるが、状況が状況であり、誰もそのことには触れない。
「め、女神!? なんで、理事長が……」
真っ先にその驚きを言葉にしたのはカイナだ。
赤褐色の鎧を身に纏い、背中には円を描くように並ぶいくつもの白銀の刃が回転している。
「すまないな、みんな。実は、私も…………偽りの世界の人間だ」]
「――――ダリ。ねえ、聞いてる、クダリ?」
ここは、どこだ……?
「ねえ、聞いてるの、クダリ?」
「まったく、無視とはひどいやつだな」
見覚えのある道路、左には怒ってこちらを見つめるアイリ、右には陽気な顔で歩くコウトの姿があった。
「え、アイリ、それにコウト……?」
「クダリ、話聞いてた?」
「……ごめん、話って?」
「……もう、三人で映画行こうって話だよっ!」
「映画?」
「そう、映画。もう明日から高一の夏休みなんだからみんなでどこか行こうって言ったんだけど……もしかして、最初から聞いてなかった?」
「ま、まあ……」
高一……? 確かに、自分の制服が見たことのないものに変わっている。いや、問題はそこじゃない。なぜ、ここにアイリとコウトが……。確か、俺は誰かに突き落とされて奈落の底にいるはずだ。なのに、どうして……?
「で、映画の件、どうするよ?」
コウトが話しかける。
「いいんじゃないか」
とりあえず、適当に承諾しておく。今は状況を整理しなくては。
「じゃあ、ここでお別れだね。また、明日―!」
「おう、じゃあな、二人とも!」
「あ、うん、また……」
元気に手を振る二人と、素っ気なく帰る俺。
「アイフィ……いるか?」
アイフィを呼んでみるが、返事は帰ってこない。




