第30話『ルルとの出会い-1』
窓から光が差し込み、俺の顔を照らす。毎日、その眩しさに目覚める。
「ふぁあ、さて、起きるかあ……ん?」
そして、毎日のように布団は膨らんでいる。俺一人では絶対にありえない膨らみ方だ。
「どうせ、アイフィだろ……」
俺は布団の中を覗く。そこには人の形をした影が二つあった。
「アイフィと…………カレン!?」
そう、そこには黒色の髪をした妹、カレンがアイフィと一緒になってクダリのお腹の上で寝ていた。
「……おはよう、マスター。相変わらずいい匂いだったぞ」
「……女神の欠片もない発言をありがとう」
「あ、お兄ちゃん、おはよう」
カレンが目をこすって挨拶する。
「なんで、カレンがここにいるんだ?」
「えーっとね、実は、この学校に編入したのはいいんだけど、お兄ちゃんのパーティーが偽りの世界に行ってきて、その後に編入生が来るのはさすがに私が偽りの世界の人間だって気づく人がいるかもしれないから、時間をずらして落ち着いてきたら編入が認められるってカイナが言ってた」
「なるほどな、理事長もなかなかやるな」
クダリは壁にかけられた時計を見る。時計の針は授業開始十分前の時刻を示していた。
「あ、もうこんな時間か。よし、アイフィ、行くぞ! カレンは留守番頼んだ!」
クダリは朝食も食べずに部屋を飛び出す。
――こうして、俺の一日が始まった。
「――え? また、偽りの世界、ですか?」
「うん、君たちのパーティーは着実に腕を上げているみたいだからね。連続で悪いが、やってくれるかい?」
煌々と輝く理事長室の中でクダリと理事長は話す。
「……まあ、理事長にはカレンのこともありますし、別に構いませんよ」
「ありがとう、本当に助かるよ」
「いえいえ、感謝するのは俺たちの方ですよ」
「では、また放課後に先生に案内してもらう形になると思うけど」
「はい、わかりました」
クダリは軽く会釈をして理事長室を出た。
『うーむ、やはり何度来ても視線が気になるな……』
「いや、気にしすぎだろ」
そして、授業に戻り、必修科目である『魔法基礎』を受ける。実際、魔法が使えないクダリからすれば一番退屈な時間であると間違いないだろう。
『――でな、そこでネイリィーが言ったのだ。少しは働いたらどうだ、ニートどもって。いや、あのときは笑い死ぬかと思ったぞ! ネイリィーもニートのくせに人のこと言えるのかって! あははははっ!』
いや、あんたも人のこと言えないニート偽女神だよ。
さすがに二年も一緒に居れば俺が退屈だと感じている時間がわかり、アイフィはこうやって話すのだ。独り言かと思いきや、実は……
『ん? 聞いているのかマスター? なあ、マスター? マスター、おーい、マスター!』
返事をしないとこの有様だ。
「はいはい、聞いてるよ!」
そんなことを言われ、つい大声で返事をしてしまうのだが、今は授業中で当然教室内も静かだ。そんななか、クダリの声が響けば誰もが注目する。
「クダリ、またお前か。そんなに私の授業はつまらないかね」
魔法基礎の先生は小太りした茶髪の男性で、結構口うるさい。まあ、それでもアイフィに比べたらマシな方ではあるが。
「いいかい、クダリくん。どんなにつまらない話だとしてもね――――」
長々と先生の話は続く。こうしてみるとアイフィと同じくらい口うるさく聞こえてくる。先生が俺に熱弁してくるのに気づく様子もなく、脳内でもアイフィは話し続ける。
『――でな、今度はネイリィーがな、あんた、もうちょっと大人にならないとただのニート幼女になってしまうわよ。家事でもなんかしてみたらいいんじゃないって。ふふっ、ネイリィーなんか、この前料理したら神界の大事な建物を爆破したのだからな! まったく、どうすればあんなになるのやら……』
ろくに料理しないやつがよくそんなこと言えたな! もう、あんたネイリィーさんの言った通りただのニート幼女なんだよ! てか、ネイリィーさんよく出てくるな。
「――というようになるんだよ。わかったかい、クダリくん。クダリくん? 聞いているのかね!」
一方の話が終わればもう一方で別の話が終わる。なんと憂鬱な時間だろうか。
四時間ある授業時間が終わると、数少ない安らぎの時間である昼休みだ。
「はあ、やっと授業終わったな……」
『マスター、ホットドッグ!』
「俺、もはやパシリだろ」
授業で疲れている俺など気にも留めずにアイフィはホットドッグを注文する。
『ん? 今ごろ気づいたのか』
「よしっ、じゃあもう買わん!」
この言葉は嘘だが、さすがにちょっと怒りを覚えた。神界でもこんな調子だったのなら他の女神たちがかわいそうだな。
『あーん、嘘だぞ、マスター! お願いだ、買ってくれ! マスターのが欲しいんだ!』
あえて「ホットドッグ」とは言わずに「マスターの」と言ってくるあたり、もはや確信犯とみて間違いはないだろう。
「お前、絶対わざとだろ。このエロ神!」
口ではそんなことを言ったが、実際、俺もここのホットドッグは好きだ。昼休みは毎日ここに寄っていると言っても過言ではない。
「やあ、ネネちゃん。今日もホットドッグ二個お願いしていいかな」
「はい、了解です! お姉ちゃん、ホットドッグ二個!」
「あいあい、例のロリコンね」
「なんか、俺の扱いひどくなってません?」
ルルはいつものように奥で調理する。そして、出来上がった熱々のホットドッグを店のカウンターに叩きつける。一応、中身は潰れていない。
「あれ、四個? 俺は二個って言ったんですけど」
「サービスだよ。この前は結構いい試合してたみたいだからな。いらないなら捨てときな!」
この人なりの優しさだろう。不器用な人だけどいい人だ。
クダリは紙袋に包まれたホットドッグを両手で四つ抱える。
「じゃあ、ありがたく貰っておきます」
また、俺たちは噴水近くのベンチで食べる。
「いやあ、ルルもさすがだな。とりあえず、三、一でいいか?」
「いや、二、二、の半分ずつだろ。というか、お前もルル先輩と話したらいいのに」
クダリはホットドッグをよだれを垂らしながらこちらを見るアイフィに二つ渡す。
「んー、あの時間は空腹が限界だから誰とも話したくないのだ。空腹のときに話しても疲れるだけだからな」
「そういえば、ルルとはどうやって知り合ったんだ?」
「え? だから、なんで知らないんだって、って……お前、まさか……」
「寝てた」
「やっぱりか……えーっと、あれはいつの話だったかな」




