第29話『パーティー解散-2』
キリアの机の横にある開けられたままの引き出しにはパーティーを抜けるために必要な封筒、脱退届が二つ入っているのが見えた。
「――っ!」
「クダリ!?」
俺は急いでラボを飛び出した。向かう先は『三等士五組』と書かれた俺たちの教室、早朝にも関わらず教室内はクラスメイトで溢れかえっていた。
「はあっ、はあっ……なあ、サリィとリュウカ知らないか?」
俺はドアの近くに一人でいた見知らぬ女子生徒に話しかける。
「サリィさんとリュウカさん? それなら、さっき、階段を上っていくのが見えましたけど……」
クダリは教室を出た隣にある階段を上る。三階の三等士より上の階は屋上だ。あの二人は何をするつもりだ。屋上に続く緑のドアを開けると、そこには鉄の柵に手を置いて下を眺める二人の姿があった。まさか、自殺するつもりか――
「サリィ! リュウカ!」
「クダリ!? どうしたの?」
「いや、それはこっちのセリフだ。二人ともまさか、自殺しようと……」
サリィとリュウカはお互いに目を合わせると、笑い出す。
「ふふっ、自殺だなんて。私たちにそんな度胸はありませんよ」
「じゃあ、なんでこんなところに……」
「ちょっとあたしたち二人で相談してたんだよ」
再び、二人が目を合わせると今度は笑いが顔から消え、真剣な表情へと変わる。
「ねえ、クダリ。私たち、二人で相談して決めたんです」
「決めたって……なにを……?」
「――――この学校、辞めようと思います」
自分でもなんとなく察しはついていた。この学校でワールドブレイカーになるためにはパーティーに入ってお互いに切磋琢磨しあう。今のパーティーを辞めて他のパーティーに入りたいなら『変更届』を出すはずだ。それとは違い、必ずパーティーに入らなければいけないこの学校でパーティーを辞めるということは、学校を辞めると言っていると同じことだ。
「な、なんで…………」
その答えもなんとなく、クダリは察していた。
「正直、怖いです。帰って来られるかわからない場所で戦い続けるなんて。私たちはまだ、死にたくないですし……」
そう、誰だって死にたくないはずなのだ。
「カイナの言った通り、あたしたちは旅行気分でここに来てしまったんだよ」
「……二人はどうしてここに入ったんだよ」
「子どものころからの夢でした。父がワールドブレイカーでよく武勇伝を聞かせてもらいました。私も父のようなワールドブレイカーになりたいなって思っただけなんです」
「あたしは兄貴がワールドブレイカーだったんだよね。いつも疲れ果てて仕事を終わって帰ってくる兄貴を助けてあげたい、楽にしてあげたいなって感じの気持ちで来たんだよ。あたしたちの理由なんてそんなものだよ」
二人は自信の欠片もないような仕草で言う。
「……充分だよ。それだけの理由があれば充分だろ! 夢をそんな簡単に諦めていいはずがないっ!」
自分で言っていて胸が締め付けられる。俺なんてそれしか道がなかったんだ、選択肢は初めからなかった。そんな、二人みたいに大それた理由なんか持ち合わせていないのに、俺が言えることではないのに。けど、そんな二人に夢をあきらめてほしくない。
「死ぬのなんか誰だって怖いさ。俺だって今回は初めて偽りの世界に言ったんだぜ。死ぬかもって思ったさ。それでも、みんな必死にワールドブレイカーを目指してるんだ! もし、死にそうになったんなら俺がみんな守ってやるよ!」
声が枯れそうだ。だが、それでも俺は必死に叫んだ。
「そんなこと言えるなんてさすがだね。やっぱり、クダリは『才能』があるよ」
サリィが何のためらいもなく言い放った言葉がクダリの心に引っかかる。
「才能? 才能ってなんだよ……」
二年間留年をして、魔力がないと蔑まれながらも人一倍努力をして自分ができる分野を伸ばしてきた。それを『才能』という言葉でまとめられて怒りを感じた。
「二人とも、よく聞いてくれ。俺は、偽りの世界の人間だ」
「「……え?」」
二人が驚く。突然そんなことを言われて信じられないのだろう。
「別に冗談で言っているんじゃない。俺は偽りの世界からこの世界に来た。ちょうど、カレンのようにな。そこは魔法とかなんにもない世界でさ、当然、俺が魔法なんて知っているはずもなく、この世界に来たんだよ。もちろん、魔法が使えないからみんなからバカにされたし、魔法が使えないから実技テストも不合格で留年だ。けど、俺は魔法が使えなくても戦えるように博士の授業を受けて、いろんな知識を身に着けて、今ここにいるんだ。これは、俺の才能じゃない、俺が努力して勝ち取った結果なんだよ! だから、才能とか言って決めつけて歩みを止めるより、努力して前へ進もうぜ。みんなならできるよ」
クダリは眼尻に涙を浮かべながらもその涙をこぼさず、笑顔で話し終える。すると、サリィがクダリの横を通り過ぎて走っていった。振り返る直前に目に映ったサリィの目には涙が浮かんでいた。
「さ、サリィ!?」
リュウカもそれに続いて走っていく。クダリは追いかけようかと迷ったが、サリィとリュウカを二人にしてあげようという考えでここに残る。クダリは無人の屋上で柵に手を乗せ、雲ひとつない明るい空を見上げた。
「ははっ……ついに言っちゃったな……」
――どうしよう、どうしよう。私、何も知らなかったにしても、努力した人に才能なんて言っちゃった。
胸が締め付けられるような罪悪感が増していく。
クダリは自分の帰る家を、世界を失ってまで戦おうとしているのに、私は、あんなことで自分の夢を諦めようとしていたんだ。
サリィは大きな罪悪感を心に抱え、ラボへと走った。
「博士……」
クダリは屋上を出て、ラボへと向かった。アイフィの言った通り、もうあの場所は戻って来ないのかもしれない。クダリは肩を落としてラボの中へ入った。
「はあ……、え?」
ため息交じりでドアを開けるとそこでは信じられないような光景が見に映った。
「な、なんでみんな、ここに……?」
「……あたしたち、あれから博士のところに行って脱退届を取り消してもらったんだよ」
サリィとリュウカは確かに引き出しにあったはずの脱退届を握りしめている。
「ごめんなさい、クダリ! 私は知らなかったとはいえ、あなたにひどいことを言ってしまった。たくさん努力してきたはずなのにそれを才能とか言っちゃって……」
サリィが深く頭を下げる。床には大量の涙がぽろぽろと落ちる。
「顔を上げてくれよ。別に気にしてないし、それに、みんな帰って来たんだからいいじゃないか。また、このメンバーでがんばろうぜ!」
クダリは右手で拳を作ってそれを二人の前に出す。二人は笑って拳で答えた。




