第26話『偽りの妹-2』
「うわっ、なんだ、今のは……!」
『マスター、あいつの槍だ! ぼーっとしていると焼かれて死ぬぞ!』
俺はアイフィの言葉をやっと理解して、腰にある剣と銃を構える。
「ふふふ……早く死んでよね、私のお兄ちゃんっ!」
「か、カレン……?」
『違う、あいつの女神だ!』
「め、女神!?」
クダリはつい声を大きくしてしまい、目の前にいたカレンに聞こえる。カレンはそれを聞くと狂気の笑顔が静まり、こちらを睨む。
「女神ぃ? なんで、そんな言葉が一般人から出るのかなあ? もしかして、お兄ちゃんの中にも女神が潜んでいるのかなあ?」
「そこまでにしなさいっ! 紅式――」
「私とお兄ちゃんの邪魔をしないで!」
カレンが槍の先端の炎をカイナに向けて飛ばす。縦一直線に伸びる炎の刃は砂の地面を抉って暴風が吹き荒れるような速さでカイナの下まで近づく。カイナは右足を左足の後ろにずらして炎の刃を横にずれて回避するが、体勢を崩したカイナは足を払われたように尻もちをつく。
『……マスター、体を借りるぞっ』
「え、ちょっ、何言って……」
アイフィが言うとクダリの体は光に包まれる。光で視界が遮られ、次に目を開けたときには自分の姿が変わっていた。目にかかるほどの髪だったため、自分の目から見える髪の色は黒から明るい青色に変わっており、髪の先は緑色に変わっていた。
「女神化完了、一等神界アイフィアス・リアスレイリア、これより半身となり、マスターの援助を行う!」
「アイフィアス……!」
「マスターを攻撃した罪はここで償ってもらうぞ!」
アイフィがクダリの体を操作して剣の先を目の前の女神に向ける。
アイフィが俺の体を使って喋っているが、実際、口が動いているという感覚はあるし、俺も話そうと思えば話せるだろう。体も動かそうと思えば動かせる。どういうことだ?
『それは、我とマスター二つの精神がこの一つの体に入っているため、行動も言動も半分ずつの譲り合いというわけだ。この体の操作ができるときもあればできない場合もあるということだな』
アイフィがいつもクダリの中に潜んでいるときのように頭の中に話しかける。
『なるほど、それはわかったけど、なんで俺の思考が読めるんだ?』
『言っただろう? 行動、言動が半分ずつっていうことは、思考も半分ずつ、つまり、全部ではないが、相手の考えも読めるということだ』
『女神ってなんでもありだな……』
『そんなものだ。それより悠長に話している暇はなさそうだぞ』
「霊魔槍・水流!」
カレンの赤い槍が今度は青い槍へと変化する。カレンはクダリの頭上目掛けてその槍を振り下ろす。
「はあっ!」
アイフィがクダリの体を操作して右手の剣で水を纏う青い槍を受け止める。その後、流れるような速さで左手の銃を撃つ。
「くっ!」
カレンは槍の先端で自分の顔に向かって高速で飛ぶ銃弾を弾く。甲高い金属音が行き止まりの通路で響く。
『アイフィ、剣も銃も上手いな。使ったことでもあるのか?』
『…………まあ、女神だからな』
このときの「女神だから」というのはいつも口にしているときとは何か違ったように聞こえた気がした。
「今度はこちらの番だ!」
アイフィに操られ、俺は剣を右上から左下、その後、一切の隙を見せずに左上から右下のエックス字に斬る。カレンはそれを槍一本で凌ぎ切る。お互いに実力は互角といったところか。だが、こちらには、唯一の遠距離武器でもあり、この剣と槍という近距離対近距離の状況を覆せる最強の武器がある。剣でカレンの槍を大きく弾き、相手の体制が崩れたところを左手の銃で照準を合わせ、トリガーを引く。
「……あれ?」
しかし、銃のトリガーを引いても銃弾は発射されない。
『弾切れか! マスター、博士は一発しか作っていないのかっ!』
『どうやら、そうみたいだな。これは帰ったら博士に問い詰めないとな』
『だが……無事に帰ることができればだがな』
カレンが青の槍を俺の左目を狙って突く。俺は左手で銃を撃ったばかりで反応はできても体が追い付かない。これは、躱せないっ!




