第24話『偽りの世界へ-3』
「あ、そうだ。前から聞きたかったんだけどさ、俺の世界ってどうなったんだ? 俺はこうして生きているわけだし」
「核を失った偽りの世界はその存在を維持できずに消滅したわ」
消滅、か。アイリやコウトとの思い出の場だったのだが、それはもう偽物なんだ。俺の今の居場所は、このラボだ。でも、それさえも無くなってしまったらどうすればいいのだろう。……いや、そんなことはさせない。
「……クダリ?」
カイナが反応のない俺の顔を覗き込む。
「あ、いや、なんでもない。でも、俺が別の世界に移動すれば俺のいた偽りの世界は消えるんだよな。それだったら、偽りの世界の核となる人を全員連れて行けばいいんじゃないのか? そうしたら誰も殺さず平穏に終わるじゃないか」
「……そんなこと、とっくの昔にしたわ」
「え?」
「私はそのとき、まだ生まれてなかったんだけど、歴史で習った話では、核を牢獄に幽閉したらしいのだけど、何者かが核を牢獄から解放したらしく、自由になった核は強力な力を以て人々を殺したらしいわ」
「……それで、どうなったんだ?」
「ワールドブレイカーが全員協力して一人残らず殲滅したらしいわ。それをきっかけに核は決して私たちの世界に連れてきてはならないと決まったらしいわ」
砂の混じった冷たい風が頬に当たる。
「でも、俺は……」
「そうね、国にはバレてないみたいだけど、もしバレたら……」
ゴクリと息を呑む。カイナは殺されると最後までは言わなかった。言わなくてもわかるだろうという計らいだろうか。
「だから、私たちは絶対に核を生かしてはいけないのよ」
「核が反逆、か」
クダリはカイナにも聞こえないよう呟く。
『どうした、マスター?』
クダリの小さな声にアイフィが反応する。クダリがきまって声の小さいときはアイフィに話しかけているというときだ。
「核が反逆ってそんなことできるのかなってさ……」
『できるだろうな。特に我らみたいに女神を持っている核、マスターみたいな存在なら勝てるだろう』
「女神ってそんなに影響するものなのか? 結局はその人の技量で決まるものじゃないのか?」
『我みたいに戦略の女神とかならあまり影響はしないだろうが、力の女神とか炎の女神みたいに、攻撃系の女神がつけばそのマスターの力は大幅に増加するだろう』
「ふーん、女神っていろんなやつがいるんだな」
そのままカイナに連れられるように歩いているとカイナのポケットから警告音のような音が盛大に鳴り響く。その音が歩くたびにだんだん大きくなっていく。
「……核が近いわ」
「じゃあ、ここにいるってことか?」
「そのはずだけど…………あっ、あの子ね」
カイナの指を差した方向にいたのは槍を抱きかかえ、壁にもたれて座る少女だ。髪はぼさぼさの首まで伸びた黒髪で黒い目には光が灯っていない。服はほぼ汚れたりボロボロになったりしてとても俺の世界では考えられない格好だ。
俺はこの少女を知っている、いや、忘れるはずもない。だが、現実的に考えて有り得る話なのか。
「クダリ、会話して注意を引き付けて。私が合図したら魔法を撃つからあなたは離れて」
それはこの二人の前でこの少女を殺すということだ。しかし、カイナの聞いた話の通り、この少女を連れて行って生かすという方法はできない。選択肢は必然的に一つしかないのだ。
「……わかった」
「じゃあ、私たちはこの建物の陰から見てるから」
「じゃあ、行ってくる」
俺は一歩、また一歩とゆっくり足を踏み出す。
「やあ、こんにちは」
とりあえず、俺は少女の隣に座る。
「俺の名前はクダリ、君の名前は?」
光の灯らない少女の目が光を取り戻し、俺の顔を見つめる。
「うそっ……お兄ちゃん!?」
「お兄ちゃんってことは……やっぱり、カレン!?」
「うん、やっぱり覚えていてくれたんだ。でもなんでお兄ちゃんはこんなところにいるの? 死んだはずじゃ……」
やはりこの子は俺の妹、カレンなのか。でも、俺が死んだって……?
後ろを振り返るとカイナが手のひらをこちらに構えている。あれが魔法を撃つ合図ということか。だが、仮に妹ではなかったにしても俺は妹を目の前で殺させるほど冷たい人間には出来ていない。
「……逃げるぞ、カレン!」
「え、うん」
「なっ、待ちなさい、クダリ!」




