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偽りのワールドブレイカー  作者: 宵月渚
第二章『三度目の正直』
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第12話『決戦の日-1』

 布団の上には何も乗っていないが、妙に腹部だけが膨らんでいる。布団を持ち上げ、中を覗く。すると、アイフィが俺の腹部に抱きつくように眠っている。


「……なにしてんだよ」


 独り言のつもりで呟く。


「うぅ……あ、ますたぁーおはよぅ……」


 かわいらしいうめき声をあげ、よだれを垂らしてアイフィが俺を見つめる。胸部の部分がはだけており、控えめな色白の胸が見える。


「これがホントに女神なのか……」


 顔を赤らめながらも、片手で頭を押さえてため息をつく。壁にかけられた時計の針は七時五十分を差していた。


「あっ、もうあと十分しかない! 行くぞ、アイフィ!」


「う、あぁ、もうそんな時間なのか……」




 一時間目開始のチャイムが学校中に鳴り響く。俺は頑丈な木の廊下を突風が駆け抜けるように走る。向かう先は、俺たちの居場所であるラボだ。


「お、やっと来たか。今日は来ないのかと思っていたよ」


「いや、普通に寝坊しちゃって。というか、相変わらず誰も来てませんね」


「いつものことだ。誰も『戦略』の授業など興味がないのだよ」


「やっぱり、一番人気はゴディー先生の『魔法威力』の授業ですか」


「ああ、みんな魔法は威力が大切だと思ってるからな。実際はそうではないというのに……」


 週に一度だけ自分で好きな教科を選べる授業がある。一番人気の教科はゴディー先生の『魔法威力』の授業、毎時間教室がいっぱいになって立ってでも授業を聞く者がいるくらいだ。対して、一番不人気はキリアの担当している教科の『戦略』だ。毎時間、授業を受けに来る生徒は俺一人だけだ。


「いやあ、戦略の良さをわかってくれるのは君だけだよ、クダリくん!」


「いやだって、俺、魔法使えませんから他の授業受けても意味ないじゃないですか」


「……つまり、消去法でここに来たと……?」


 キリアの目つきが鋭くなる。ここで、下手なことを言えば本気でラボの顧問を辞められそうだ。


「い、いや、そんなことはありませんよ。ほら、うちの女神、戦略の女神じゃないですか。俺も戦略の話は好きですし……」


「そうか、博士はこんな素晴らしい生徒を持って幸せだよ」


 キリアが目をこすって涙を隠している。


「――で、ここの山とここの山に敵の兵が三千ずつ、城に兵が二千配置されているとしよう。目的は相手の城の制圧、しかし、霧が深くて兵たちの視界は最悪だ。さて、クダリ、兵が一万あったとしたら君ならどうする?」


 ラボに用意された黒板に城に通じる道を二つの山が挟み、その山に赤い兵のマグネットが置かれ、三千、城には二千と書かれている。


「えーっと……こちらも兵を三千ずつ向かわせて、山を制圧したところで今度は城に兵を四千向かわせる、ですか?」


 クダリは長年シミュレーションゲームをして鍛えた戦略の知識を総動員して答える。


「残念だが、あまり賢い戦略とは言えないね。霧が立ち込めているということは、相手の兵は霧に対してそれなりの訓練はしているはずだ。同じ兵力で山が制圧できるとは考えられないな」


 確かに言われてみればそうかもしれないが、必死に編み出した策が否定されると他の策など容易に思いつくはずがない。


「クダリ、アイフィちゃんに聞いてみたらどうだい?」


「アイフィに、か?」


「ああ、ニートだのなんの言われているようだが、彼女は仮にも戦略の女神だ。聞けば答えてくれるだろう」


「それもそうだな……。アイフィ! 起きてるか?」


『起きているが、どうした、マスター?』


 先ほどまでのだらしない声が嘘のように感じられる元気な声でアイフィは話す。


「さっきまでの話、聞いてただろ。どうやって解くんだ?」


『ん、あの問題か。簡単だ、まず、兵を左でも右の山でもいいから十人ほど行かせる。それも、大きな音が出せる武器を持って。そうすると、もう一方の山から兵が来る。そして、互いにつぶし合っている隙に兵を六万ほど連れて行けば勝てる』


 あまりの予想外な答えに絶句する。


「そんな無茶苦茶な……」


『そんな無茶苦茶な戦略でも勝てば勝利だ。戦場ではそれぐらいの無茶苦茶な作戦でないと生きていけないぞ』


「う、まあ、その通りか……」


「どうだ、答えは出たかい?」


「えーっと――」


 クダリはアイフィが言っていた作戦をそのまま伝える。


「うん、さすがは戦略の女神様だ。これくらいは余裕かな?」


『まあ、当たり前だな』


 姿が見えないがアイフィがドヤ顔をしていることは感じ取れた。

 やっぱり、この世界の戦略ってわからないな。

 自分がシミュレーションゲームで鍛えた戦略の知識はまったく役に立たなかった。


「おっと、そろそろ一時間目が終わるな。じゃあ、今日の授業はここまで」


 いつも通りのテンプレートに飽きたのか、だんだん棒読みになりかけている。

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