第九話 2
そんな中、十日市は粛々と開催され、商店街は大勢の客で賑わっていた。坂元俊輔と金石裕太郎の店や、福田の親父や早苗おばちゃんの店も繁盛していた。鈴木万太郎の手下は、相変わらずの大音量の音楽で商店街に迷惑を掛けていたが、角田圭吾は知らんふりをして、CDプレイヤーのコンセントを鋏で切断するという地道な作戦で応戦していた。手強い相手とはいえ、敵陣の中にポツンと侵入して来たのだから、数ではこちらに到底敵うわけがない。そっちがそうなら、こっちはこうだと言わんばかりに、商店街のみんなは結束して地上げ屋と戦う覚悟だった。
十日市の賑わいの中、隼人も美帆の店を手伝って働いていた。店の外には、百円の色とりどりの花の苗が所狭しと並べられていた。
「何にもしてない優菜があんな目に合うなんて、絶対に許せないな」
「本当にそうだよ! でも、命に別状はないから安心したわ……」
「美帆、美帆も交通事故にあったから、足が悪くなったって言ってたよな」
「うん、私は全然覚えてないんだけどね、四歳の時に車に轢かれたらしいよ」
「そうか……」
「私の場合、犯人は捕まってなくて、轢き逃げだったらしいの」
「そうなのか」
「でも母が言ってたの。犯人の顔をどこかで見たことがあるって。きっと父と揉めてた取引先が腹いせにやったんだろうって言ってた」
「お母さん、その犯人の顔を見てるのか」
「そう。目の前で轢かれたらしいから。絶対に忘れられないって言ってた」
「ふーん」
「でもね、結局、父も家を手放して会社も潰れたし、これで犯人と縁が切れただろうから、逆に良かったんだろうねって、母も言ってたよ」
「お母さん、偉いな……。俺だったら、絶対執念でやり返してるだろうな」
「えー……、隼人ってそんな怖いヤツだったんだ」
「そうだよ」
「そっか、だから、あの時、やり返してくれたんだね」
「あの時って?」
「忘れたの?」
「うん」
「えー、マジ? なんかがっくりだわ。私は、あれで隼人が絶対に忘れられない人になったんだけどな」
「あ、もしかして中学の時の?」
「うん。私や祐樹君を勇敢に守ってくれたじゃない」
「でも刺されて病院送りになったけど」
「そうねぇ。でもカッコ良かったよ。刺されるようなことはもう絶対にして欲しくないけどね」
「そうだな。それだけはもう勘弁だな」
そう言って、隼人は笑った。




