第八話 14
優菜とそんな感動的な結婚十周年を迎えた後、僕達二人は商店街を抜けて帰宅していた。しかし、商店街に入った途端、大音量で音楽が鳴り響いていることに気付いた。僕と優菜はびっくりして、騒音の出元へと走った。そこは、空き店舗になっていて、確か十日に新しく靴屋が店を開く予定の場所だった。
店の中を覗いてみると、サングラスを掛けた人相の悪い男が、目の前に置かれた机の上に靴を履いたまま足を投げ出し、ソファーに座っている。その店の前にCDプレイーヤーを載せた長机が置かれ、そこから大音量で音楽が流れていた。
一瞬のうちに、これがどういう状況なのか理解できた。地上げ屋が嫌がらせをしているに違いない。
僕は飛んで行って、その男の耳元で「わあああああああああ」と大声で叫んだ。驚いた男は、僕の顔を見て怯えていた。僕は、そいつの胸倉を掴んで言った。
「お前! そこで何をしている!」
男は震えながらも言った。
「ここは俺らの事務所になったんだよ! ここで何をしようが勝手だ!」
僕は、そいつの顔を殴ろうと拳を振り上げた。
「亮ちゃん! 止めて!」
優菜は叫んだ。
「刑務所に入るようなことだけはしないで! もう私を一人にしないで!」
優菜にそう言われて、僕は、ゆっくりと拳を降ろした。
『争い事には関わらないほうがいい。亮君にまた何かあったら、優菜ちゃんが泣くわよ』
この間、祐樹の母親に言われたことを思い出していた。僕は馬鹿だ。暴力は絶対に振るわないと約束したのに……。
僕は、プレイヤーのスイッチを思いっきり叩いてオフにすると、男を睨みつけて踵を返した。すると、目の前に太蔵爺ちゃんが立っていた。太蔵爺ちゃんは、拳を握りしめてワナワナと震えていた。
「万太郎! 絶対に容赦せんぞ!」
そう太蔵爺ちゃんは叫んだ。
今日のところは、もう諦めて帰るしかないと思ったその時、遠くの方から猛スピードで車がこちらを目がけて向かってくるのが見えた。運転席には愛川が座っていた。車はスピードを落とすことなくこちらに近付いて来る。ターゲットは、アーケードの真ん中に突っ立っている太蔵爺ちゃんのようだった。
優菜は、それにいち早く気付き、「太蔵爺ちゃん! 危ない!」と大声で叫んで爺ちゃんを突き飛ばし、僕の目の前で、優菜は車に轢かれて、数メートル飛ばされた。
「優菜っ!」
僕は、あらん限りの声を出して叫んでいた。




