第八話 9
それからまた突然場面が変わり、今度は四角い白い部屋に祐樹と老婆が座っていた。祐樹は老婆に向かって、真剣な顔をして喋っている。
「今のところ、アイツの謀は防げています。一時は人がいなくなってしまうのでは?と心配しましたが、被害を被った人達も、新たな協力者のおかげで復活して来ました」
「そうか」
「しかし、このままアイツが大人しくしているとは思えません」
「そうだな」
「ええ」
「では、これまで通り、気を抜かずに見張るのだぞ」
「はい」
そんな二人のやり取りを僕は傍観していたが、その後、また場面が変わって、今度は四角い白い部屋ではなく、僕は病院にいた。病室の真ん中にベッドが置かれ、その周辺を医者や看護師や優菜や祐樹や美帆や祐樹の父母や芳子や渉さんや福田の親父や早苗おばさんが取り囲んでいた。ベッドには目を閉じた僕が寝ている。しかし、僕の意識は、そのベッドに寝ている自分の身体にはなく、病室の天井に張り付いて、上から自分の身体とみんなの様子を眺めていた。僕はどうやら幽体離脱しているようだった。
みんなは、泣いたり、僕の身体を揺さぶったり、ただ見守ったり、「まだ死んではダメだ!」と叫んだりしている。僕はみんなの頭上から「僕の身体がおかしい! 僕を引き戻してくれ!」と必死で訴えていた。僕は何度も何度も彼らに訴えかけた。しかし、誰も気付いてはくれない。僕は懸命に自分の身体に帰ろうとしたが、僕の意思に反して僕の魂はどんどん高く昇って行った。病室を出て、空高く昇って行き、遂には地球外に出た。目の前に広がる青く輝く美しい地球を見ていると、いつしか僕は幸せな気持ちになっていた。僕は、僕の持ち物を全部、自分の身体さえも捨てて、ついに自由になったのだと感じていた。そして、僕は、今度は火星に行ってみたいと思い、手足を伸ばして飛ぼうとしたが、急に身体がぎゅんっと引き戻された。よく見ると、僕の手足は、僕の身体の本体と銀色の糸で結び付けられているようだった。僕は糸を切ろうと暴れたが、糸は頑丈でどうやっても切れない。僕は完全に自由になったのではなかった。僕が得られた自由は、糸の長さ分だけでしかなかったのだ。そして、どこからともなく老婆の声が聞こえ、銀色の糸はするすると縮み、僕の魂は身体に戻された。そして、この間と同じように白い部屋で同じことが繰り返され、老婆に罵倒されて目が覚めた。




