第八話 8
数日後、僕は、祐樹のカフェのカウンターに、祐樹を前にして座っていた。しかし、何をどう切り出していいのか分からず、ただ黙ってしかめっ面をして座っていた。
「あのさ、亮ちゃん、もう分かってるから、何も喋らなくていいよ」
沈黙に堪りかねた祐樹が僕の顔を見ながら言った。
「え?」
「人を好きになるって、どういうことなんだろうね? 人を好きになるのは理屈じゃない。ある日突然、ストンと落ちるんだ。子供の頃さ、砂場で四人で大喧嘩して、僕は三人と違って呆気に取られて傍で見てただけだけど、あの日から僕は優菜が好きになったんだと思う。あんなにか細い女の子だったのに、優菜って正義感の塊のようだった。優菜はカッコ良かった。勿論、自分が守られてぽーっとしたところもあったと思うよ。でもね、僕は、優菜だけじゃなく亮ちゃんも好きになったんだよ。変な意味じゃなく、友達としてね。だから、仲良くなりたくてずっと亮ちゃんの後を追いかけてた。勿論、亮ちゃんに対して、ムカつくことだって今までいっぱいあったし、これからもおそらくムカつき続けるとは思うけど、亮ちゃんのことを嫌いになることなんかないと思う。だから、僕のことは気にしなくていい。全部知ってるんだ、美帆から聞いたから」
「祐樹、お前……」
「二人のことは僕も祝福するよ」
「祐樹がダメだと言えば、諦めようと思ってた」
「なんでっ!? なんでそんなことをするのっ!? 僕は優菜の相手が亮ちゃんで良かったと心から思ってるよ! それに僕にダメだと言われたくらいで諦めるなんて、優菜に対する亮ちゃんの想いはその程度のものなの?」
「……」
「そんなの、優菜に失礼だよ!」
「そうだな……祐樹の言うとおりだな」
「せっかく両想いなのに、わざわざ壊す必要なんてない。僕に二人の仲を壊す権利もない。だから、遠慮なんてしなくていいんだよ」
「祐樹、……ありがとう」
僕は祐樹に心から感謝していた。
そして、一ヶ月後の三十歳の秋、僕は優菜と電撃的に結婚したのだった。




