第八話 1
「おい、亮! ぼやっとしてないで、ちゃんと仕事しろ!」
バーナーの火をつけたまま考え事をしていて、銀材だけでなく机の上まで焦がしそうになっていた僕に向かって、祐樹の父が言った。僕は慌ててバーナーの火を止めた。
「家を燃やすんじゃないぞ! この野郎!」
「もう、お父さん、止めなさいよ。でも、亮君、今日、なんだか疲れてるように見えるけど、体調はどうなの? ずっと入院してたんだから、無理しないで休憩しながら仕事をしたほうがいいわよ」
祐樹の母が言った。
「ああ、すみません。ちょっと、考え事をしてただけなんで大丈夫です」
「そう? それならいいんだけど」
「考え事って、何を考えてたの?」
渉さんが言った。
「いや、夫婦って一体何なんだろうなぁって」
「えーっ、亮君がそんなことを考えるなんて、優菜ちゃんと何かあったの!?」
「い、いや別に何もないんですけど、他人である優菜に腎臓移植までしてもらって、本当に良かったんだろうかと思ったんですよ」
「血は水よりも濃しと言うけど、遠くの親類より近くの他人とも言うしね。夫婦は他人だけど、肉親よりも結びつきは強いと思うけどなぁ。実際、親や兄弟にも言えないことを言い合えたりするしね」
「そうよ。うちの芳子だって、お父さんや私が言うより、渉さんが言うほうが聞く耳を持つしね。芳子も最近深酒してるから注意したのに、全然言うことをきかなかったのよ。でも、渉さんが『心配だから、飲み過ぎるなよ』と言った途端、深酒を止めたのよ。何なのよ、一体!と思ったわよ。結局、夫婦の絆が、一番強い絆ということなんでしょうね。ねー、そうよね? お父さん」
祐樹の母がそう言うと、祐樹の父は、何を言ってるんだかというような顔をしていたが、否定はしなかった。
「移植も優菜ちゃん自身が望んで決めたことなんだから、それで良かったんじゃない?」
渉さんはそう言った。




