第七話 12
山本拓朗は、弁護士事務所の応接室のソファーに、ある女性と向かい合って座っていた。随分大きなツバ広のカラフルな帽子を被っているが、その女性は上から下まで真っ白な恰好をしていた。しかも彼女は、顔まで真っ白にファンデーションで塗りつぶしていた。顔は丁寧に真っ白にファンデーションで仕上げているのに、アイシャドウも頬紅も口紅も差しておらず、カラフルな帽子を被っていなければ、まるで棺桶に横たわっている遺体のような異様な雰囲気を醸し出していた。
「それで、今日のご相談とは?」
「主人と離婚したいんです」
「その手続きの依頼をされたいのですね?」
「ええ」
「ご主人と離婚の話し合いは、されたことがありますか?」
「いいえ。それが出来ないから、ここに来させていただきました」
「じゃあ、今はもう別居されてるんですか?」
「いいえ、同居しています。でも、もうすぐ家を出る予定です。私が主人の前で、離婚したいなどと一言でも口に出すと、何が起こるか分かりません。きっと、また暴れるに決まっています」
「今までにも何度も暴れているんですか?」
「はい」
「どんな風な暴れ方を?」
「最初は物を投げたり、壊したりだったんですけど、最近では私に暴力を振るいます」
「それは、立派な犯罪じゃないですか!」
「だから私は主人を怒らせないように、透明人間になりたかったんです。でもクリニックの先生は、透明人間になる必要はないとおっしゃいました。私が笑顔になることは何なのかを一番に考えたほうがいいとおっしゃるんです。それで、私なりによく考えてみたんですけど、主人がいない時のほうがリラックスしているし、笑っていられることに気付きました。だから、主人と離れないとこの問題は解決しないと思いました」
「なるほど……。ご主人には、暴力は止めて欲しいとお願いされたことはあるんですか?」
「勿論、あります。何度も何度もしました。でもダメなんです。プライドが高い人ですし、酔うと訳が分からなくなるんです」
「アル中なんですか?」
「そうだと思います。でも、酔っていなくても、冷たい人だと思います」
「そうですか……」
「ええ」
「では、もう離婚されることは、はっきり決めていらっしゃるんですね?」
「そうです。ここへ来るまで、随分長い時間、悩みましたから」
「分かりました。それでは、僕も全力でサポートさせていただきます」
「ありがとうございます。宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しくお願い致します」
山本拓朗は、鈴木さんと弁護士事務所でそう会話していた。




