第七話 11
今度は、白い部屋ではなく黒い部屋にいた。黒い部屋の真ん中に置かれた椅子に、僕ではなく祐樹が座っていた。そして、祐樹の目の前に老婆が座って二人で会話しているのである。黒い部屋には、どこからともなく一条の光が差していて、その光は祐樹の顔だけを明るく照らしていた。僕はその部屋のどこにもいなかった。僕はまるでテレビの映像を見ているかのように、二人の様子を異空間から眺めていた。
「お前は自分のしたことが分かっているのか?」
「勿論、分かっています」
「しかし、お前は命令に背いているではないか!」
「僕にだって感情はあります」
「堕天使になりたいのではあるまいな?」
「まさか! 僕は人間が好きです!」
「自分よりも?」
「自分以上かどうかは分かりません。でも少なくとも、自分より下ではないということは、間違いありません」
「教えは尊いものである。そのことを忘れなければ、迷いは消えるであろう」
「僕は、優菜は勿論のこと、亮も好きなのです。僕には決して迷いなどありません!」
「そうか、それならば良い」
老婆がそう言った途端、僕はまた白い部屋に戻され、椅子に座っていた。そして、この間と同じように、目の前に老婆が現れ、祐樹と愛川哲也が現れて消え去り、大勢の人が現れて光の中に吸い込まれ、壁に映像が映り、老婆に罵倒されて目が覚めた。
僕は、目を開け、ベッドに寝転がったままで、芳子に質問していた。
「芳子さん」
「うん? なに?」
「優菜は、俺らが埋めたダビデの森の箱を掘り返しに行ったんだね」
「え? そうね、本当に掘り返しに行ったかどうかは分からないけど、掘り返しに行くとは言ってたわね。それがどうかしたの?」
「ううん、なんでもない……」
芳子にはそう返事をしたが、僕は悶々とした気分でクリニックを出た。
すると、クリニックの外のカフェのカウンターに、着飾った山田さんが座っていた。僕は彼女に「こんにちは」と挨拶した。山田さんは輝くような笑顔で「こんにちは」と返してくれた。
「今から診察なの? 待たせてしまってごめんね」
「いいえ、違うんです。今日はカフェに食事をしに来たんです」
山田さんは、照れくさそうにそう言った。時計を見ると、午後の六時を少し過ぎていた。カウンターの中の祐樹も心なしか嬉しそうである。僕はその二人の様子を見て、救われたような気持ちになっていた。




