第一話 8
桜木芳子は中学生になると、伸ばした髪の毛を三つ編みにし、分厚いレンズの眼鏡を掛け、自宅の二軒隣りにある親戚が経営する金物屋のレジを手伝った。そして、買い物に来る客を観察し、その観察結果をノートにメモるようなことをしていた。僕が「なんでそんなことをしているの?」と訊ねると、「原因と結果の研究をしているのよ」と訳の分からないことを呟くのだった。とにかく桜木芳子は変わり者だった。
桜木芳子は変わり者だったが、しかし、もっと不可解なのは祖母の桜木トメだった。
いつものように、僕と祐樹と優菜と三人で学校から帰り、やっぱりまっすぐ帰宅せず、祐樹の家に上がり込んでいた。今日はゴールデンウィークの中日の平日、五月二日で、子供の日のおやつと称して給食に柏餅が出た。しかし、子供の頃の僕は餡入り和菓子が苦手であったので、和菓子好きだと聞いていた桜木トメにお土産として持ち帰っていたのだった。
僕はズカズカと遠慮なく、優菜はやや遠慮がちに、祐樹の自宅に上がり込んだ。優菜は途中、祐樹の母親に捕まって何か話し掛けられていたが、僕は祐樹とともに奥の台所までそのまま侵入して、冷蔵庫の中からオレンジジュースを取り出し、コップに注いで二人でガブガブ飲み干していた。その後、ランドセルの中から例の柏餅を取り出すとトメ婆ちゃんのおやつカゴと称する竹籠の中に柏餅を入れた。
トメ婆ちゃんのおやつカゴは、台所のすぐ隣りに位置するトメ婆ちゃんの居間の隅に置かれている座卓の上にいつもあった。そして、僕がおやつカゴに柏餅を入れた途端、それまで縁側で日向ぼっこしながらうつらうつらしていたトメ婆ちゃんの目がぱっちりと開き、突然「靴箱の中じゃっ!」と大声で叫んだ。そう叫んだ後、柏餅に突進して、むしゃむしゃと齧り付き始めた。
勿論、僕と祐樹は訳が分からず、ポカンと口を開けてその場で立ちつくし、トメ婆ちゃんを眺めていた。しかし、そのトメ婆ちゃんの発した言葉には、実は意味があったのだと翌日判明することになる。
誰が犯人なのか、クラスメイトの吉田真司の隠されていた国語の教科書が、使われていない靴箱の中から発見されたのである。僕は心底ほっとした。だって、いつの間にか暗黙の了解のように、クラスで起きる揉め事の犯人は、問題児の僕だと決めつけられていたのだから。どうせ、愛川哲也が仕組んだんだろうなとは思っていた。だから、祐樹がそのなくなったはずの教科書を靴箱の中から見つけてくれた時、僕は安堵したのだった。いくらいつも悪いことばっかりしているとはいえ、やってないことまで自分のせいにされてたまるものかと思っていた。僕が祐樹に「ありがとう」とお礼を言うと、祐樹は「僕じゃないよ。婆ちゃんのおかげだよ」と言い、僕もそこでトメ婆ちゃんのとてつもない威力に初めて気付かされて、おののいたのであった。