第七話 8
目の前に大学生の祐樹が現れた。この間と同じように、ロッカーらしい格好と髪型だったが、金髪から黒髪に変わっていた。そして、その格好は前より数段馴染んでいてカッコ良くなっていた。祐樹は、さっきから誰かとずっと携帯で話している。そして、その電話が終わると、また携帯が鳴り別の誰かと話していた。そして、またその電話が終わると、今度は祐樹は必死に誰かにメールしていた。僕は、祐樹に「この間、お前がいない時に、美紗って子が訪ねて来てたぞ。昨日も来てたけど。お前、彼女に連絡くらいしてやれよ」と言った。
「アイツは彼女でもなんでもないんだから、ほっとけばいいんだよ」
「ほっとけばいいって、冷たいヤツだな」
「何度も断ってるのにしつこいんだよ。こっちの迷惑を全然考えてないんだから」
「もしかして付き纏われてるのか?」
「うん、そう」
「モテる男はつらいねぇ」
僕がそう言うと、祐樹は僕をギロッと睨んだ。結局、今付き合っている祐樹の彼女は、滝川栞という女の子で、祐樹と同じ大学の二個下の後輩なんだそうである。なんでも、去年の文化祭の野外ステージに祐樹のバンドが出た時、一目で祐樹のファンになったらしい。高校生の時はイマイチだったくせに、祐樹は大学生になって豹変し、今や大学では知らない人がいないほどのモテる男になっていたのだった。一方、優菜も大学で旅行サークルに入っているおかげで、他大学の男子学生と交流があるらしく、随分モテるようだと僕の耳に入ってくるようになっていた。気が気ではなかったが、一方で、僕は優菜に相手にされるわけがないから気にしても仕方がないとも思っていた。僕はそんな気持ちを紛らわせるように仕事に打ち込み、それなりの成果を上げていた。僕のデザインするジュエリーの評判を聞きつけた、都内にチェーン店をいくつも持つ高級紳士服店から、紳士物のジュエリーの制作の依頼が舞い込んで来るようになっていた。タイピンやカフスボタンなどを一緒に店に置きたいのだという。最近、工房にも流行りのパソコンを入れて、デザイン画もパソコンで作成したり、工房の作品の写真をホームページに載せるようなこともしたりしているので、僕だけでなく祐樹の父と母の作品の発注も全国から受けるようになっていて、以前よりも工房の売り上げは右肩上がりになっていた。だから、僕は僕で、祐樹のことも優菜のことも変に気を取られず、自分のやるべきことに没頭しなければと躍起になっていた。しかし、お互いいつも忙しくて暫く会ってもいなかった美帆から、突然メールが来てびっくりした。
『亮君は何やってるの! 優菜はK大学の男の子と付き合うことになったわよ! 亮君はそれでいいの!』
そんなメールを貰っても、僕は返す言葉がなく、そのまま放置していたら、今度はメールではなく直接美帆から電話がかかってきて、色々責められたのだった。しかし、僕は「優菜の勝手だろ! 俺がとやかく言うことじゃない!」と返すと、「そうなんだ……亮君はそういうつもりなんだ!」と言って電話が切れた。親友の祐樹が交際を申し込んでフラれたのだから、いくら僕が優菜に好意を持っていたとしても、おいそれと僕が優菜に交際を申し込むことなどできないに決まってるじゃないか。きっと美帆は、祐樹が優菜にフラれたという事実を知らないのだろうなと思った。結局、その後、祐樹も女の子をとっかえひっかえしていたし、優菜には彼氏ができ、僕は仕事に没頭し、小学生の頃から仲の良かった三人だったのに、今では三人バラバラな状態が続いているのであった。僕はその時の記憶を辿り、当時の殺伐とした関係を思い出して憂鬱になっていた。しかし、そんな感情に浸る間もなく、またすぐに場面が変わった。




