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トワイライト 第三版  作者: 早瀬 薫
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第一話 7

 祐樹の家に着くと、祐樹とは似ても似つかない巨大な岩のような体格の鬼の形相をした空恐ろしい父、桜木秀則が玄関で待ち構えていた。そして祐樹の胸倉を掴もうとしたが、「待てっ!」と言って二人に割って入る人物が現れた。その人物はなんでだか柔道着を着ていた。彼女は祐樹の五歳上の姉の桜木芳子で、「お父ちゃん! 祐樹は体が弱いんだからダメッ!」と叫んだ。

 作務衣の父と柔道着の娘で組み合い、二人はそのまま奥の和室の居間に流れ込んだ。暫くの間、組み合ったままだったが、しかし、小学六年生の女子が大人の男に勝てるはずがなく、桜木芳子は父に「うりゃあああああっ!!!!!」と背負い投げされ、襖に大穴を開けたのであった。その後、僕も祐樹の父に投げ飛ばされ、祐樹の姉が開けた襖の大穴から押し入れに転がり込んだ。祐樹と祐樹の母は呆然とその様子を見守り、縁側に座っていた祐樹の祖母とみられる桜木トメは「全く懲りないヤツらだね……」とポツリと呟いた。

 それから、僕は桜木家のみんなと同じ食卓につき、祐樹の父は「本日より、祐樹と同様、野崎亮も息子とみなす! よって盗みなどの悪事を働いた場合、これからも同様に投げ飛ばす! 以上、終わり! 食え!」と言い、それを合図にみんなと同時に夕飯の親子丼を食べ始めたのだった。


 食事が終わって、帰宅しようとした時、玄関で祐樹の母に呼び止められた。

「亮君、ごめんね。痛かったでしょ?」

「え、なんでお母さんが謝るの? 俺がコロッケを盗んだだけで、祐樹は何にもしてないし。謝らなくちゃいけないのは、俺なのに」

「だって、よその子を投げ飛ばすなんて、あり得ないでしょ。いやね、うちのお父ちゃんはね、ほんとは亮君がうちに来てくれて喜んでるの。だって、祐樹は赤ちゃんの頃から病気ばっかりして、幼稚園も休みがちで、いつも苛められてたからね。だから、亮君みたいな友達ができて嬉しかったのよ」

「ふーん」

「でもね、盗みはダメよ。人の物を盗んではダメ。神様がね、人間が悪いことをしてないかどうかちゃんと空の上から見てるのよ。だから、悪いことをしちゃダメ」

「そうなんだ……」

「ふふ、亮君、素直じゃないの。でもね、神様は忙しいから、自分の代わりに天使に人間を見張らせているんだって。恵愛教会の牧師さんがそう言ってたわ」

「じゃあ、悪いこと、出来ないね」

「そうよ」

「明日、母さんにお金を貰ってコロッケ屋に払いに行って来ます」

「ああそれは大丈夫。もう私が払ってあるからね」

「え……」

「亮君、お母さんによろしくね。また、遊びに来てね」


 帰り際に祐樹の母にそう言われたが、暫く祐樹の家には上がらないだろうと思っていたのに、次の日、いつものように僕と祐樹と優菜と三人で下校して祐樹の家の前を通ったら、祐樹の母がちょうど家の前の植木鉢の花に水をやっていて、「あら、お帰り! 今日はガールフレンドも一緒なのね」と笑いながら、当たり前のように、祐樹と一緒に僕と優菜を家の中に引きこんだのだった。そんなことを繰り返していたら、祐樹の家に毎日寄り道するのが当たり前になってしまった。祐樹の父も僕を見かけると、「おい、きちんと飯を食ってるか?」と気遣ってくれた。しかも、祖母の桜木トメや姉の桜木芳子も家族同様に接してくれた。


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