第六話 9
優菜は、クリニックに行こうとしている亮と別れた後、買い物をしようと商店街をふらついていた。もうすぐ母の誕生日であることを思い出した優菜は、早苗おばちゃんの店で母へ贈るブラウスを物色しようと思っていた。
「あら、優菜ちゃん、何かお探し?」
「うん、早苗おばちゃん、うちの母の誕生日プレゼント」
「優しいわね。お母さん、元気にしてる?」
「元気、元気、三重でぴんぴんしてる。昨日も電話で怒られたの」
「あら、どうして?」
「昨日遅くまで仕事をしてたんだけど、早く帰って主婦をしなさいって」
「そんなこと言われてもねぇ、仕事は仕事だものね」
「そうなの。私の仕事がどんな仕事だか分かってないのよ。朝早かったり遅かったり、お客さんに合わせなきゃいけないからね」
「そうよね。そういえば、この間の花のイベント! あれ凄かったわね!」
「え、早苗おばちゃん、見に行ってくれたの?」
「うん、行ったわよ! だって、優菜ちゃんに割引券を貰ってたし、あの会場の近くに友達の家があるから、二人で行って来たのよ。友達も喜んでたわよ」
「えー、ほんとう? 嬉しい~!」
「花も綺麗だったけど、会場の中が凄くいい匂いだったわ」
「そうでしょ。匂いがいいよね。あそこの会場、ちょっと苦労したから成功したのはすごく嬉しかったのよ。今度また、半年後に開催するみたいだから、また割引券を持って来るわね」
「うん、ありがとう」
「お母さんのブラウス、どれがいいかな……」
「優菜ちゃんのお母さん、パステル系が好きだって前に言ってから、これなんか良いんじゃない?」
早苗おばちゃんはそう言って、すぐ傍のラックにかかっている薄紫のブラウスに手を伸ばした。しかし、そのブラウスを取り上げた瞬間、早苗おばちゃんの顔色が変わった。
「えっ! このブラウス、穴が開いてる……」
優菜は、早苗が手にしているブラウスの穴を確かめたが、縫製ミスではなく、明らかにカッター等の鋭利な刃物で開けられた直線的な穴だった。優菜は慌てて、他のブラウスも手に取った。しかし、手に取ったすべてのブラウスに同じような穴が開けられていた。
優菜は、早苗おばちゃんの店を飛び出し、斜め向かいの福田のコロッケ屋に走った。
「おじさん! お店で何かなかった?」
「ああ、優菜ちゃん、慌ててどうしたんだ?」
「早苗おばさんのお店が大変なの! 福田のおじさんのところは大丈夫?」
「大丈夫じゃないね。今朝、店先に置いてたジャガイモを袋ごと誰かが持って行きやがった。この間は、コロッケの中にゴキブリをぶち込んだヤツがいたしな」
「えっ!」
「材料がなかったら、商売上がったりだから、今日はもう店じまいするよ」
「そんな……」
優菜は他の店も訪ねて被害状況を調べ、震える手で携帯から警察に通報していた。




